1.迷子たち③ フラグと分かれ道と出会い
歩き始めてからしばらく経ち、風の流れを頼りに進んでいくが、進んでいくにつれてある違和感を覚える。
「なーんかさっきからモンスターどころか人っこ1人もいる感じしねーなー」
「そうだな……」
そう、晃太の言う通り、人のいそうな気配はおろか、モンスターの気配まで全くしないのだ。
不自然なくらいに。
辺りの空気はシーンとしてて、俺たちの足音が聞こえるだけである。
「嵐の前の静けさって感じだな……」
「……南、それフラグだぞ」
ふと思ったことを呟くと、それを聞き逃さなかった晃太が間髪ツッコんでくる。
「晃太……フラグなんてものは現実では早々立たないもんだぞ」
フラグなんてバンバンと立つのは二次元の世界だけだ。
そもそも現実で、『俺、この戦いが終わったら結婚するんだ』とか、『後で行くから先に行け!』みたいな王道的なフラグなんてものはない。
俺が言ったのもあくまで比喩的表現であって、この後何かやばいやつが来るなんて思っちゃいないし。
「……お、分かれ道だな」
ずっと一本道だった道のりだったが、前方を見ると、十字路のように分かれ道になっていた。
ちなみにだが、洞窟内は光が灯っているわけではないが、ぼんやりと明るいので照らさなくても明るい。
多分だが、この洞窟の至るところにある水晶みたいなのがこの明るさと関係あるんだろうけど……。
「とりあえず、あそこまで行ったらまた風の方向探さなきゃな」
「そうだな。早く帰んないと日が暮れるし」
そして、分かれ道のところまであと数メートルのところまで来たときだった。
俺たちから見て、分かれ道の左側からすっと何かが出てきた。
「!?」
一瞬、それを警戒するが、すぐに警戒を解く。
その正体は、俺の知ってる人物だった。
肩までかかったライトブラウンのまっすぐ伸びた髪、ぱっちりした目に茶色の瞳、そして整った顔立ち。
その人物は、今日から俺のクラスメイトになっている神崎美穂だった。
神崎も俺たちに気づいたらしく、こっちの方を向いた。顔を見ると少し暗い顔をしていた。
「ん? ……あれ? 確か同じクラスの……」
そう言いながら、俺たちの近くまで来る神崎。
「日向南」
「そうそう日向君!」
神崎の暗かった顔が明るくなった。
「日向君も探索に来てたの?」
「まあそんなとこ。こいつと一緒にな」
俺は隣にいた晃太を指す。
「初めましてー。俺、隣のクラス、Ⅱ組の結城晃太っていうから。よろしくねー」
「神崎美穂です。Ⅱ組なんだー! これからよろしくね!」
神崎は晃太ににこっと微笑んだ後、安堵したように深い息を吐いた。
「はあー……。それにしてもよかったよ。ダンジョン入ってからまっすぐ進んできたのに、人どころかモンスターもいないし、何故か道には迷っちゃうしどうしようって思ってたところだったんだよねー」
ん? 今もしかして道に迷ってるって言ったか?
「でも日向君たちに会えて良かったよ。…あのね、できれば出口までの道を教「ごめん無理」
神崎の言葉に被せるように断る。
「え?」
キョトンとする神崎。
「ど、どうして?」
ちょっと泣きそうになってる神崎に事情を説明しようとすると、俺より早く晃太が答えた。
「ごめんな。実は俺たちも今道に迷ってるところなんだ」
「……え?」
またキョトンとする神崎。
「そういうことだ。出口までの道を知ってたら俺たちも教えてあげたいけど、こっちも絶賛迷子中でさ。今は出口探してさ迷ってたんだ」
「そ、そうなんだ……」
顔には出さないが、声のトーンからガッカリしてる様子の神崎。
そこを、俺が間髪入れずに今思いついたことを口に出す。
「……待て。まだ落ち込むのは早い。まず、こうやって迷子3人が集まったわけだが、三人集まれば文殊の知恵。何かしらこの状況から抜けられる良い方法が何かあると思う。……というわけで、神崎も良かったら俺たちと出口まで一緒に行かないか?」
正直、晃太はこういうとき真っ直ぐ突っ走るタイプだからあまり考えてないだろうし、俺1人で風の吹いてくる方向を頼りにだけ進んでても地道すぎるし、神崎に協力してもらえればかなりありがたいけど……。
「もちろん! そっちの方がありがたいし、むしろ私からお願いしたいところだよ」
そう言って、神崎はにっこりと笑った。
こうして、俺と晃太、そして神崎の3人の迷子によるダンジョンを脱出するための協力関係が結ばれたのであった。