1.迷子たち② 説教タイム
「はあ……はあ……」
あれからロックドッグの群れからしばらく逃げまくり、何とか撒くことができた俺と晃太は、その場で地べたに座り込み休憩していた。
「あー、死ぬかと思った……」
「すごい数だったな。……ところで南、ここってどの辺だろ?」
「……さあ、全く見当もつかねえな」
そう、俺たちは道に迷ってしまっていた。
まだ出現したばかりの新しいダンジョン、ダンジョンマップもない状態で、ロックドッグの群れからひたすら逃げてきたため、どこをどう曲がってきたというのを記憶している余裕もなくここまで来たのだ。
「……ま、水瀬さんは、中層に辿り着くまでの区域は複雑じゃないから大丈夫って話してたから、何とかなるとは思うけど」
「そういえば、そんなことも言ってたな。……よし、じゃあとりあえず、思い出しながら来た道戻って見るーーー」
「待てこら」
晃太がまた計画なしに動きだそうとしたのでそれを制止する。
「どうした?」
「ここがどこかわかってないのに下手に動き回るのは危険だからちょっと待て」
「でも……」
「でもじゃねーよ。俺たちはどの方向で逃げてきたのかあまり覚えてないんだぞ? もしかしたら、中層付近まで来てるのかもしれない。可能性としては低いけど、もし中層モンスターと出くわしたら? ロックドッグくらいのレベルのモンスターなら、俺たちでもどうにかできるけど、仮にレベルが高くて俺たちの手に負えないモンスターが出た場合は? 来た道を戻っていったときにまたあのロックドッグの群れに出会ったらどうする? この出現されたばかりのダンジョンで、俺たちが行っても大丈夫だと来てみたら、今の状況にまで陥るような予想を上回るアクシデント、さらに予測がしづらい環境だ。動くにしても色々な対策や対処を考えてからにするべきだ。安全に帰る確率を少しでも上げるために」
普通に考えれば、水瀬さんがここに行ってもいいと言ったのは、ギルド側が調査の終わった区域は探索してもいいと許可したからだろう。
ということは、調査中のところ、つまり、この洞窟の中層以降には一般冒険者は入らないように何かしらの処置はしているはずだ。
逃げてくる途中で、それらしきものは見なかったから、今いるところは中層付近ではないことはわかっていた。
けど。
「なあ……南、ひょっとして怒ってる? 顔がいつもより怖くなってるんだけど……」
「当たり前だろ」
俺は晃太に対して結構怒っていた。
「……まず1つ、わけわかんないことを突然大声で叫んでモンスターを無駄に呼び寄せたこと。2つめ、ロックドッグの群れに数もろくに確認せずに無謀に戦おうとしたこと。3つめ、マップもない地形のわからないところで道に迷ったのにも関わらず、何も考えずに来た道を戻ろうとしたこと。お前は考えなしで行動しすぎ! ダンジョンは何があるかわかんないだからもうちょっと危機感持って行動しろ!」
そう口調を荒げて言うと、晃太は少し驚いたあと慌てるように、
「わ、悪かったって。次から気をつけるからさ、そんな睨むなって!」
と言って、申し訳なさそうに両手を合わせて頭を下げてきた。
「……とりあえず、今はここから出ることが優先だからこれくらいにしといてやる。説教はダンジョン出てからな」
俺はそう言って一息ついた。
「そ、そうだな。とりあえずどうするか考えないとな」
「……あ、あと、さっき言ってた顔が“いつも”より怖いってことについてもな」
それ、俺の顔が普段から怖い面してるって言ってるようなもんだからな。
「南……案外細かいとこあるよな……」
「何か言ったか?」
「いや、何でもないって!」
嘘つけ。
晃太はボソッと呟いたつもりかもしんないけどバッチリ聞こえてるからな。
これ以上、無駄話をしてても時間がもったいないので、俺はある確認をするべく背負っていたワンショルダーバッグの小ポケットからスマホを取り出した。
「……やっぱり圏外か」
スマホのアンテナは圏外になっていて、回線が繋がらなくなっていた。
もし、普通に回線が入っていたら最終手段として助けを呼ぶっていうのもできたけど……。
「やっぱり自力でどうにかするしかない、か……」
「南、とりあえずどうするんだ?ずっとじっとしてるわけにも行かないないだろ」
「そうだな……」
晃太の言う通り、ここでじっとしてても仕方がない。
山などで遭難した場合は、その場で動かず助けを待つのも正解だが、ここはダンジョンだ。
何回も繰り返すようだが、本当に何があるかわからないし、モンスターも出てくるような場所でじっとしてるのは悪手である。
俺は少し考えてから、右手の人差し指を立て、指先から火を放った。
……ベタだけど、洞窟みたいなところで迷ったときには割と有効な方法である。
少しばかりその体制のままいると、指先の火が洞窟からくるわずかなすきま風で揺れた。
すきま風が吹いてくるってことは、外と繋がってるということである。
「よし、こっちに行ってみるか」
「りょーかい」
俺は素直に返事をした晃太と、すきま風が吹いた方向へ周囲を警戒しながら進んでいった。