1年Ⅰ組
教室に入ると中にはすでに人がたくさんいて、ワイワイとしている。
特に、一番後ろの窓際の席には、誰が座っているのか見えないくらいの人だかりが出来ていた。
とりあえず俺は指定されている自分の席に着き、荷物を机の横に掛けた。
「……ん?」
すると、前に座っていた男子がこっちを向いて、俺の顔を怪訝そうに見てくる。
「…………何だ? 人の顔ジーっと見て」
何秒か目が合ったあと、俺が口を開くとこの……この……、なんて言えばいいのだろう、特徴らしい特徴もない黒髪の平均顔男子……と言えば失礼だろうがとにかくそんな感じのやつがこう言ってきた。
「もしかして……君が日向南?」
「そうだけど」
「まじか……」
何故か初対面のやつにいきなりガッカリな顔をされる。
「おい、よくわかんねえけどなんで俺はいきなりガッカリされてんだ」
「あ……いや、悪い。別にそういうつもりじゃなかったんだけど……」
そう言って言葉を少し濁らせる。
「実は……クラス名簿見たとき、日向南って名前見ててっきり女子なのかと思ってて……それで後ろの席だし女子と仲良くなれるチャンスだと思ってたら男子だったからびっくりしてさ、いや、こっちの勘違いだった。……ごめんな」
「あー、そういうことか。ま、名前で女子に間違われるのは慣れっこだから別に気にしなくていいぞ」
そう、俺の南という名前は、小さい頃はよく女みたいな名前だとからかわれていた。
まあ、某有名なマンガのヒロインも南ちゃんだし、それは事実である。
ただ、俺もわざと言われるとイラっとくるので、その度にあれだったけど。
「いや、ホントに悪かった。俺は長谷川 学って言うんだ。よろしく」
「ああ、よろしくな」
「俺のことは学でいいぞ。お前の方は呼び方南でいいか?」
「それでいいよ、学」
「おっけー、南。……でだ。お前はどう思う?」
「……何が?」
「あれだよ、あれ」
学はそう言って、視線を後ろの窓際の席の人だかりに向けた。
「あそこがどうかしたか?」
「あそこの席の座ってる女子見てみろよ」
学の言う通り、窓際の席の方を見てみると、人だかりの隙間から、かなり明るめの茶髪をした顔の整ったかなりかわいい女子がそこに座っていた。
あれ?
「ん? どっかで見たような顔の気が……」
「そりゃそうだろ。神崎 美穂。テレビとか新聞によく出てただろ」
「あー……」
思い出した。確か天才魔法少女って騒がれてたやつ。どうりで見覚えがあるわけだ。
「いやあ、この高校に入学するっていう噂は聞いてたけど、同じクラスとはラッキーだったぜ」
人に囲まれ、質問攻めに合っている彼女の顔は笑顔ではあるが少し困っている感じだった。
入学初っぱなからたくさんの人に話しかけられるというのは良いことではあるが、それにしたって限度がある。
いきなり多数の人に質問攻めされたら困るだろうな。
俺だったら絶対嫌だし。
「有名人っていうのも大変だな」
そう呟くと、チャイムが校内に鳴り響いた。
そして、席から離れていた生徒は自分の席に戻り着席していく。
チャイムとほぼ同時に教室のドアが勢いよく開き、スーツ姿の凛とした女性が入ってきた。
女性はピタッと教壇の前で立ち止まり、教卓に両手を着いて小さく息を吸い口を開く。
「初めまして。今日からこのⅠ組の担任となる橘 六花だ。よろしく頼む」
頭の後ろのポニーテールを揺らしながら凛とした声の女性、もとい橘六花先生は目をキリッとさせている。
厳しそうな目付きの中の茶色い瞳で教室全体を見渡す。
「……さて、早速だが、入学式までまだ時間があるので、皆に自己紹介をしてもらおうと思う。内容は何でもいい。出身中学や趣味など各々に任せる。では、早速出席番号1番から―――」
自己紹介か……。
さっき晃太に言われたときは適当にあしらったが、実は学校生活においては最初に重要な部分だと俺は思う。
人は、その見た目と話し方で第一印象が決まる。
つまり、ここをしくじれば高校生活で遅れをとることになるだろう。
……まあ、これはあくまで俺の個人的見解なので確証はないが、その可能性はある。だがしくじるやつなんてそうそう―――
「我の名は鹿央 一……といってもこれは……まあいいか……。大事なことなので最初に言っておくが、我の右腕には迂闊に触れない方がいい。この右腕には黒龍が……おっと、と言ってもわからぬか―――」
いた。
そいつは片手で顔を覆い隠し、右手には包帯を巻いている。
……あれだ。リアルで中二病のやつ初めて見たな……。
漫画とかアニメで見る分には面白いが、実物は見てるだけで痛々しいな。
「―――つまり、この世界の危機が少なからず迫っているということだけは―――」
延々と語りが止まらない中二病患者・鹿央一。
クラスメイトも顔を引きつらせている。
「―――そのためにはこの世界に散らばる72の「あー、途中ですまんが鹿央、そろそろ次のやつの自己紹介に回らないと時間がだな……」
すると、途中までぽかんとしていた先生が、延々と話している鹿央の話に割って入る。
「―――ふっ、まあ、今日はこのくらいにしておくか」
鹿央はそう言って、静かに座った。
イメージだと、中二病っていうのは聞き分け悪そうな感じだけど、あっさり引き下がった……ん? あいつ、「今日“は”」って言ったのか?
「では次、神崎美穂。……すまんが少し短めで頼む」
俺のふとした不安も束の間、鹿央の自己紹介が長引いて時間を巻いてるのか、それともまさかの中二病降臨で驚いたのか、先生が焦っている表情をしている。
「はい」
しかし、そんなことも気にせず……じゃなく多少は気にしているのか、苦笑しながら神崎は立ち上がる。
すると、クラス中の視線が彼女に集まる。
特に、男子の視線が。
「えっと、神崎美穂です。皆と仲良くできたらと思ってます。よろしくお願いします!」
明るい声と笑顔で自己紹介した神崎に他の人の時より一段と大きな拍手が贈られる。
シンプルな挨拶でニコッとした神崎に拍手が送られ、神崎は着席した。
そして、神崎以降の自己紹介は若干巻き気味で進んでいき、さっき少し仲良くなった前の席に座る学の番となった。
「長谷川学です。出身中学は城央中学校です。これからよろしくお願いします」
学がシンプルな挨拶をすると拍手が送られ、学は着席した。
次は俺の番か。
「日向南です。見高中学校出身です。えー、気軽に接してください。よろしくお願いします」
神崎や学と同じく、シンプルな自己紹介をした俺は席に静かに座った。
別にそこまで大したことじゃないのに、クラスでの自己紹介って何か変に緊張するんだよな。
俺が一息着くと、後ろの席の人物が席を立った音がした。
そういえば、学と話してて後ろの席のやつの顔はよく見てなかったな。
後ろを振り向くと、そこには長い金髪に黒のメッシュ、そして、金と黒のオッドアイの瞳の童顔美少女が立っていた。
……何だろう。すごい何となくだが、デジャヴ的なものを感じる。
「我は光と闇を統べし者。シャイニングダー
以下省略。