33.VSクルードカラー⑭ 美穂&紗奈VS亜希&志郎(4)
「おいおい……なんかさっきのよりでかくねえか……?」
紗奈が発動させた“デーモンハンド”を見て、亜希がそう呟く。
長文詠唱による魔法の効力の上昇。
一般的には、普段の詠唱量の倍以上を唱えることで効力が上昇すると言われているが、紗奈の場合はその突出した魔力量、豊かな想像力、この2つの才能が伴っているため、いつもより少し詠唱量を増やすだけで魔法の効力を上昇させることが可能だった。
「さあ! 行け!」
紗奈の合図により、通常時よりも二回りほども大きな“デーモンハンド”が亜希と志郎目掛けて襲いかかっていく。
「“烈風斬”!」
それに対し、亜希は先程と同じように“烈風斬”を放ち“デーモンハンド”を打ち消そうと試みる。
「薙ぎ払え!」
だが、紗奈の指示で無数の“デーモンハンド”が束になり、向かってくる“烈風斬”を叩き落とすように弾き飛ばした。
「まじかいな! さっきより頑丈じゃねえか!」
「亜希! こっちに来い! 2人で確実にあれを防ぐぞ!」
亜希が騒いでいると、志郎が後方からそう言いながらォースを放つ構えに入った。
そして、言う通りに志郎の元まで下がった亜希も体勢を整える。
「あれを突破次第、もう1回合わせ技であっちに確実に損害を出させる。そしてトドメだ」
「ヒット&アウェイはどうしたよ?」
「変更だ。福山さんの魔法が予想以上だ。次にでかいのが来る前に倒す!」
「あいよ」
一方、亜希と志郎、2人揃って真っ向から“デーモンハンド”に受けてたとうとするのを確信した紗奈は“デーモンハンド”にさらに魔力を込める。
「弾けて混ざれ!」
そして、某惑星の王子のようなセリフの後、前方に突き出した手を思いきり握りしめた。
すると、それに合わせて無数の“デーモンハンド”は絡まり合うように連なっていき、一つの巨大な“デーモンハンド”が形成された。
「くらうがいい! 地獄の拳を!」
巨大な“デーモンハンド”は、拳を握りしめるとそのままそれを亜希と志郎に向けて振り下ろした。
「志郎!」
「ああ」
「“螺旋疾風波”!
“乱流迅雷閃”!」
それに合わせるように亜希と志郎は、目線をかわすと同時にフォースを放った。
螺旋回転を加えた突風と枝分かれしなが幾つもの軌道を描いていく雷撃、2つのフォースが巨大な“デーモンハンド”とぶつかり合う。
「ぐぬ……!」
2つのフォースの威力に押され、少し苦しいような表情を見せる紗奈。
「志郎! 焦点ちゃんと合わせろ!」
「わかっている!」
一方で、亜希の言葉にそう言って、自らの“乱流迅雷閃”を“螺旋疾風波”にぶつかるように強引に軌道を修正する志郎。
“乱流迅雷閃”が“螺旋疾風波”にぶつかると、2つのフォースが混じり、幾つもの雷撃が螺旋回転に巻き込まれるように一つの束に纏まっていく。
「……美穂、破られるぞ……!」
直後、混じりあった2つのフォースは“デーモンハンド”の拳を突き抜けるように貫通し、“デーモンハンド”を破壊してそのまま空へと消えていった。
そして。
「今だ!」
「“プロテクション”!」
紗奈の合図とともに、美穂が“プロテクション”を亜希と志郎に向かって貼った。
「な……!」
「しまった……!」
身動きがほぼ取れないような狭さに貼られた“プロテクション”は、亜希と志郎の身動きを完全に取れなくする。
「紗奈!」
「任せるがいい! ---天より舞い降りしは全てを照らす希望の白、地より這い上がりしは全てを喰らう絶望の黒、相反する2つの力ぶつかりし時、世界は混沌へと導かれる……! “ヘヴンズヘル”!」
その瞬間に紗奈が渾身の魔力を込め、“ヘヴンズヘル”を“プロテクション”ごと亜希と志郎に放った。
光属性と闇属性の閃光がぶつかり合い大きな爆発を起こすと、小雨を一気に吹き飛ばし、周囲に砂煙が舞い上がった。
『決まったー!! これは大きな一撃が入りました! 中山選手、今川選手、これはひとたまりもありません!!』
実況の声と共に沸き上がる歓声。
魔力の消耗によって、膝に手をついて息を切らしながらも砂煙の向こう側を見据える紗奈。
『さあ、果たして---』
そして、実況がそこまで言いかけた時だった。
砂煙がものすごい勢いで振り払われ、その中からかなり体力を消耗させた亜希と志郎の姿が現れた。
「はあ……はあ……っぶねぇ……」
「さすがに直撃をくらっていたらアウトだったな……」
『……なんということでしょう!! 両選手ともあの魔法をくらって持ちこたえています!! なんというタフネスでしょう!!』
2人が立ち上がっている姿が見えると、観客席から「おおっ!」という声が上がるとともに、クルードカラーのベンチでほっと胸を撫で下ろす皐の姿があった。
「まったく……ひやひやさせるわね……」
「ああ……“プロテクション”で囲われた時は俺もやばいと思ったが……」
「けっ……まず捕まるんじゃねえよっつう話だが……まあ、自傷覚悟でフォース使って“プロテクション”を壊して即座に回避するってのは咄嗟にしちゃよく出来たじゃねえか。……避けきれちゃなかったけどな」
「何で上から目線からなのよ。どうせあんたもあの状況だったら同じことするでしょ、豪」
「あ? んだごら皐! 俺だったらあんなん即座に “プロテクション”ぶっ壊して魔法来る前に返り討ちだ! てかそもそも捕まんねえよ!!」
「はっ、どうだか……」
「おい……試合中の喧嘩はやめろとさっき言ったよな……?」
「……ごめんなさい
……ごめんなさい」
クルードカラーのベンチ内で、そんなやり取りが行われているなか、試合は続行されていく。
「……亜希、動けるか?」
「ちょっとなら行けるけど、激しいのはきちいな……」
「そうか……俺もだ。だが、それはあっちも同じのようだぞ。福山さんも魔力をほぼ使いきったようだし、神崎さんの魔法さえ気をつけていれば……なんだと……?」
志郎が話している途中で驚きの声を上げ、それに釣られるように亜希は志郎の視線の先、美穂へと視線を移した。
「……詠唱か? 〈詠唱破棄〉持ちが?」
2人の元までは何を言っているか聞こえなかったが、美穂が口を動かして魔力を溜めている姿が、2人に写った。
「---これらの力を持ちて勝利を導き出す戦の神オーディンよ---」
「何をしてくるかわからないが……その前にやるぞ! “迅雷閃”!」
「あいよっと。“疾風波”!」
そして、即座に美穂の詠唱を阻止しようと即効性のフォースを放つ。
「“プロテクト”!」
だがしかし、それは紗奈のプログラミング魔法の“プロテクト”で防がれてしまう。
「くっくっくっ……ここは通させぬぞ……! “ヘヴンズヘル”で仕留められなかったのは悔しいが……美穂! 決めてしまえ!」
紗奈の言葉に、美穂はこくりと頷きながら詠唱を続ける。
ーーー念のために魔力を残しておいてよかった……。南、古藤さん、晃太、紗奈……皆のここまでの頑張りを私が無駄にするわけにはいかない……!
「ーーーその光をもって敵を穿て……“グングニル”……!」
そして放たれた“グングニル”は一瞬で紗奈の横を通り抜け、亜希と志郎へと直撃した。
「な……」
「が……!」
何が起きたのか理解出来なかった2人は、“グングニル”に直撃した衝撃で一気に壁まで叩きつけられ、呻き声を上げて地面へと尻餅をついた。
「はあ……はあ……」
魔力を使い果たし、その場にへたり込む美穂。
「中山、今川両選手、場外! 神崎、福山選手の勝利!」
『き……決まったー!! 3試合目を制したのは神崎、福山選手!! よって2回戦第4試合、3回戦へとコマを進めたのはプラチナピースだーっ!!』