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アビリティワールド-ABILITY WORLD-  作者: イズミ
第2章 炎天下の熱闘
193/215

31.VSクルードカラー⑨ 南&古藤VS大和&豪(8)

 大和が貼った氷壁は一瞬で蒸発し、“朱薙・一文字”が大和に襲いかかる。


「ぐ……!」


 両手に渾身の波動を集めて“一文字”を受けきろうと試みる大和。


 ―――ダメだ、抑えきれん……!


 しかし、“朱薙”のエネルギーを一太刀に集中させたこの“一文字”は、大和の想像以上に威力が凄まじく、足に踏ん張りを効かせようとするも靴底が削られながら大和の体は場外へと押し出されていく。


 ―――このままではまずい……!


 そう思い、大和は今度は足から大量の冷気を放出させて氷を足のストッパーとしようとする。


 ―――な……一瞬で溶けた……だと……!


 が、“一文字”が発している熱気は触れていない氷すらを一瞬で溶かすほどに発せられ、攻撃を受けていた大和の衣服は雨で絞れるほどに濡れていたのが、既にカラカラに乾ききっていた。


「これは……!」

「おおおおおっ!!」


 そして、最後の力を振り絞るように南が雄叫びを上げると、“一文字”の威力は一層強まり、南はそのまま“一文字”を最後まで振り切った。


『こ……これは……果たしてどうなったのてしょうか……? 日向選手が放った大技のフォースでフィールド全体が蒸発した氷や雨の蒸気で何も見えません……!』


 南が“一文字”を振り払った周囲は、熱風によって降ってくる雨を寄せつけず、地面が一瞬で渇いていきモクモクと広がっていく蒸気。

 多くの観客が豪雨による避難しているため、観客席に広がるのは静寂のみ。

 そして、熱風が収まると広がっていた蒸気は降り続けてくる雨によってかき消されていきフィールド全体の様子が露になっていく。

 そこには、呆然と立ち尽くして南と大和の方を見ている豪。

 膝をついたまま、同じく南と大和の方へと視線を向ける昇司。

 そして、その2人の視線の先にいたのは……。


『あーっと!! 日向選手! 倒れています!! これはダウン……いや……これは……! 何ということでしょう……! 天道選手!! じょ、場外です!! 場外ラインを越えています!!』


 力を使い果たし、〈クロスバースト〉はおろか、〈スードクロスト〉も解け、うつ伏せ状態で倒れている南。

 それに、服の両腕が焼け焦げ、両腕そのものも肌が赤く火傷した大和が場外ラインまで押し出されていた。


「…………天道選手場外! よって勝者、日向&古藤!!」

『し……試合終了です!! えー、ABFの規定では、両者がダウンと場外、同時になった場合は場外となった側の選手の負けとなっています! よって今の試合は、場外を飛び出た天道選手が負けとなりますので、日向、古藤選手の勝利ということになります!!』


 どこからともなく沸く歓声。

 それは、プラチナピース側のベンチはもちろん、会場内に避難し、中のモニターで観戦していた観客たちの声であった。




「―――大丈夫かい? 日向君」


 試合終わりの挨拶の後、動けなくなった南に肩を貸しながらそう訊ねる昇司。


「……さすがにきついっすね……。何せ、ほぼ全ての波動を使いきったんで……」

「……ベンチに戻ったら“リカバリー”かけるよ。全快とまではいかなくてもそれなりに回復は出来るから」

「はは……ありがたいです……。でも、古藤さんも結構なダメージでしょそれ。今の俺が言うのもあれですけど、大丈夫なんですか?」

「大丈夫大丈夫。思ったよりはね。…………ふう。にしても、君は本当に凄いよ。まさか、大和に勝っちゃうなんてね……!」

「あれ……勝ったって言っていいんですか……? あの人、俺の渾身の一撃を正面からくらったはずなのにピンピンしてたんですけど……」

「何言ってるんだ。正々堂々とした場で設けられたルールに乗っ取って勝ったんだ。……まあ、日向君の言わんとすることはわかるけど……ここは喜んでいいんじゃないか?」

「そうですね……」


 昇司の言葉にそう返しつつ、南の心の中では悔しさが溢れていた。


 ―――正に、試合に勝って勝負に負けたって感じだな……。あっちは俺の“朱薙・一文字”を耐えた上にまだ余力があった。大和さんが最後に使おうとしたあれは恐らく……。ま、あのまま勝負が続いてたらどっちにしろ俺の負けだったか……。


「あー……しんど……」


 南は色々な思いを込めて、小さくそう呟いた。

 そして、その後思い出したかのように、


「そういえば古藤さんのほ―――」

「南ー! 古藤さーん!」


 昇司に豪と何かなかったか聞こうとしたところで、晃太が右手を降って南たちが戻ってくるのを待っていた。

 その両サイドには南たちの勝利を喜ぶ美穂と紗奈の姿もあった。


 ―――まあ、あとでいっか……。


 頭の中にある疑問は、晃太の声と自身の疲労感によって遮られ、南は静かに口を閉じた。


 一方、


「おい大和。てめえ、わざとだろ?」

「何がだ?」


 豪の問いかけにしらばっくれたような返事をする大和。


「とぼけんじゃねえ。“アイスウォール”だよ。わざわざ俺らとあいつら分断させる必要なかっただろうが。俺とてめえで古藤を集中狙いしてれば勝ててただろ」

「いやいや、日向と昇司の組み合わせは厄介だと思ったのでな。日向が昇司の側に入れば俺らの攻撃も防がれるしな」

「はっ、どうだかな。日向1人じゃ俺たちからあの雑魚を守りきるのは流石に無理だろ」

「ふっ、豪、そうは言うがお前、雑魚という割には昇司に随分手こずってたようだが?」

「うっせえ! 1年に負けたてめえがそれを言えるか!?」

「……そうだな。俺も予想外だった……。日向がまさかあそこまでの力を持ってるとは……。俺も無意識のうちに油断してたのかもな」

「思ってもねえこと言ってんじゃねえよ。てめえが日向相手に油断するような玉じゃねえのはわかってんだよ」

「……どうだろうな」


 豪の言葉を聞き、大和は南との最後の攻防を思い出す。


 ―――日向は俺がまだ本気を隠していることに気づいていた……。もちろん、試合中に手は一切抜いていない。しかし……最後のあの瞬間、俺が〈ライズ〉を発動させようとする前に“エアロブースト”で一気に距離を詰めたあの時……。あれで〈ライズ〉を発動する前に渾身の一撃を叩き込まれた……。


「ふっふっふっ………」

「何急に笑ってんだよ。気持ち(わり)いな」

「気にするな。……ところで、お前はどうだったんだ?」

「あ? 何がだよ?」

「昇司だよ。何かしら、話したんじゃないのか?」

「…………けっ!」


 大和の質問に対し、豪はあからさまに嫌な顔をしてそっぽを向いた。


「やーまーとー!」


 そして、直後に聞こえる怒ったような声。

 大和と豪の前方には、腕を組んで仁王立ちをした皐がベンチの中で2人を待っていた。


「すまん、負けた」

「そんなあっさりと謝る普通? 一応、大和はうちのリーダー兼エースなんだからしっかりしてよね。……って言っても、今回に至ってはそんなに強く言えないけど……」



 あっさりと謝る大和に対し、少し拍子抜けしつつ元々そこまで怒るつもりもなかったのか、そう返す皐。


「……ていうより、大和が負けるって……豪ならともかく」

「ああ、あの1年やべーだろ……」

「だから言ったじゃん。日向君は強いよって」


 大和が負けたことを、まだ信じきれていない亜希と志郎に、皐は今さら何を言ってるんだと言わんばかりの顔をする。


「……おい亜希、そりゃどういう意味だ……! 志郎も何頷いてんだごら!」

「はい、それ以上は面倒臭くなるからそこまでにしといて」

「皐! 何勝手に終わらそうとしてんだ! 俺はまだ―――」

『さあ! それでは2戦目に参りましょう!』


 豪が皐に何か言い返そうとしたところで、実況の声が会場内に響き渡る。


「……さて、ここで勝たないといけない……か。これは頑張らないと……!」


 実況の声とともに皐はベンチから出て、雨雲を仰いだ。

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