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夕星  作者: 矢玉
3/57

(もっと短く)


 「ヘアド………なんですか?」

 初めてのバイト代を手に訪れた美容院。

 背中の中ほどまでに伸びた髪に未練はない。というか、『お金を払って髪を切る』という行為を避けてきたから伸びただけで、長くしようと思っていたわけではないし。

 それに夕星は、広いとは言えない。そんな場所で動き回るのに、結んだ髪をぶんぶん振り回すわけにはいくまい。

 というわけで。何年振りか、他人に髪を切ってもらうために、がちがちに緊張しながら駅前の『美容院』へと入り………案内された鏡の前、現れた美容師さんに、

 「短くしてください」

 「これくらい?」

 「いえ」

 「…これくらいかしら?」

 「いえ、もっと」

 ……と、肩より短くして欲しいと伝えたところ、先ほどの言葉を言われた。

 流行りの髪型だろうか?

 「Hair donation」

 発音が良くなったことで余計わからなくなった。

 ヘアはわかる。どねーしょん?

 「直訳すれば『髪の寄付』、ね」

 まだ若いと思われるその女性の美容師さんは、丁寧に説明してくれた。

 いくつか条件はあるらしいが、文字通り、切った髪を寄付しないか?ということらしい。

 「ウィッグの材料にするのよ、事故や治療で髪が薄くなったりした人のための」

 質感やらなんやら、やっぱり天然モノには敵わないらしい。しかも詩乃ほど長く伸ばしたのを……となると貴重らしく、

 「私としてはゼヒって思うけど、無理に勧められるものじゃないからね。興味があるならもう少し詳しく説明するけど……」

 髪など切って捨てるだけのものと思っていたけれど。もったいないと言われれば、それが自分の損得でなくても心が動いてしまう。

 切った髪の行方など、呪術の類に使われなければいいかと思うくらいで。

 説明を聞けば、配送だのの手間はかかってしまうが、それ以外はやってくれるとの事。

 「こんな髪で役に立つのであれば……お願いします」

 「こんな髪だなんて……綺麗な髪じゃない。そんな……──」

 言いかけて。

 なぜか彼女は一拍置き、鏡越しに目を合わせた。

 「そんな、ヒゲしなくても。髪なんだから」

 「……………」

 ここは美容院だ。

 カットだろう。


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