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夕星  作者: 矢玉
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研修


 小走りになりながら、左手首の時計に目を向けた。

 小ぶりなアナログ時計は、四時少し過ぎを指している。

 学校が終わって一度帰って着替えをして。動きやすい格好で、と言われたのでジーンズにシャツとベスト。それに上着をひっかけてきた。昨日のうちに準備したトートバッグには、エプロンやらバンダナやら……あと履歴書。

 具体的な時間は指定されなかったが……というか、『学校終わったら早めに来て』って、遊ぶ約束じゃないんだからと思わないでもない。

 具体的な時間を指定されたわけじゃないにしても、早めに向かいたい。なにせバイトの初日。覚えることはたくさんあるだろうし、なにをするにしても余計に時間をかけてしまうだろう。

 再び時計に目を向ける。

 家からの所要時間は五分少々といったところか。車もまばらな通り、そのY字路の角に夕星はある。

 道の分岐部分に未舗装の駐車スペース……といっても、せいぜい車二台くらい。その先、普通の民家よりは一回り大きいくらい、でもやっぱり普通の民家に見える造りの二階建てが見える。

 改めて見れば、その年期の入り様は六年程度というものではない。おそらくリフォームして店舗にしたのだろう。

 まだしも通りの広い方に店の入口があって。昨日はそちらから入ったが、開店時間に入る場合は裏から入ってと言われた。

 まわりこんでも角地の一軒目、場所など間違えようもないのだが………

 胸ほどの高さのフェンスに、簡易な閂の門。まばらに芝生(?)の生えた狭い庭に、玄関まで続く石畳。カーポートには軽のワンボックス。そして物干し台の根本に、どっかでみたことあるシェパードが一匹つながれている。

 思わず来た道を振りかえる。Y字路に入って一軒目。間違えるはずもないし、そもそも一度も目を離さずに来れるし。

 大丈夫だよね、と表札を確認したら夕刊のささった新聞受けに『東』とあって………そういや、名前も聞いてなかった。

 不安は増すが、それでも確信があったのは……

 かすか軋んで開いた門の先、さっそく寄ってきたシェパードが撫でろと言わんばかりに目の前で座る。

 この犬、ポテトといって横居さんの飼い犬で。これから店に行くという一昨日も一緒にいた。

 いつものように撫でようと手を伸ばし……これから飲食店の厨房に入るのだ。無論、手は洗うが毛などが付いたらまずいかもしれない。

 「あとでね」

 玄関へ。というか、本当に普通の家の玄関である。

 ちょっと迷って。一応インターホンを鳴らしてからドアに手をかける。

 「こんにちは~」

 のぞいた先は、さすがに普通の家とは違った。

 玄関ぽい作りは入ってすぐと右手の方だけ。ちょっと先に見えるのは、昨日カウンター越しに見えた厨房だ。ガスホースがダイレクトにつながったコンロや、様々な大きさの鍋。まな板すらも大きくて……その上の包丁すら大きく見える。

 換気扇が唸る中、フライパン(これは大サイズとはいえ家庭用のようだが)を店長がふっている。

 「いらっ……じゃない。こんにちは」

 昨日と同じ、タオルを頭に巻いた恰好。エプロンにタオルを下げているのも、昨日と同じだ。

 「靴、変えて、そこのコロコロ使ってからそこで手ぇ洗って。……横居さ~ん」

 香ばしい匂いを発するフライパンを混ぜながら、最後は客席の方へ声を掛ける。は~いという高い声の返事は、ここまで聞こえた。

 詩乃は靴を脱ぎ、持ってきた別の靴に替える。

 これは昨日の内にいわれたことで、外用、中用というわけではないが一応履き替えて、とのこと。雨の日など厨房まで泥だらけになったら困るとのことで……そこそこキレイなら、古い靴でもいいよ、と言われた。

 ……ホントはきっちり区別した方がいいんだけどね、とも言っていた。

 脱いだ靴を玄関……階段のある方へと寄せて。荷物も置いて、壁にかかっていた粘着テープのついたクリーナーで、髪を押さえて袖やら肩やらをコロコロする。

 「いらっしゃい、詩乃ちゃん」

 バンダナ、エプロン姿で現れた横居さんは……わざとだろうが、『いらっしゃい』と言った。

 「え~…っと。よろしくお願いします」

 ストライプのバンダナに、海賊旗を模したエプロン。店の雰囲気からは浮いてるようだが、店長は許可したのだろうか?いや、それ以前に横居さんはなにを思ってそのエプロンを選んだのか。

 ちなみに、詩乃のバンダナは白。エプロンも、キャラクター化されたタマネギが数匹いるだけの地味なもの。いろいろ考え、出来るだけシンプルなものを選んできた。

 「とりあえず手を洗ってね。そしたらレジの使い方を教えてあげるから」

 「はい」

 民家部分と店舗部分の境目にでもなるのだろうか。厨房の入口にあたる場所、カウンター席からはちょっと陰になった部分に洗面台があった。開け放した形ではあったが扉もあるのは、一応の区切りだろうか?

 手を洗っていると……

 「髪はもうちょっとまとめた方がいいわね」

 横居はそう言うと、後ろに流してまとめていただけの詩乃の髪を編み始め、くるりと丸めて留めてしまう。

 「バンダナは?」

 「鞄の中に…」

 横居さんに髪を結ばれるのもひさしぶりだ。思えば数年前、詩乃が小学生の頃はよくお世話になっていた。

 きゅっ、とバンダナがきつく結ばれる感覚と、背中をくすぐる感触。コロコロ……粘着テープの感触だろう。

 「シュッシュッをやって」

 「…?」

 洗った手を……これも事前に言われたタオルで拭きながら、首をかしげる。

 「消毒よ」

 言われてみれば、アルコールと書かれた霧吹きが。

 手に吹きかけてなじませながら、ちょっと辺りを観察する。

 入って左側がカウンター席。そのすぐ内側には、多分出来た料理を並べるだろう台。壁際には家庭サイズのコンロがあるけど。

 中央には、大きなステンレス製と思われる台があって、ボールやら皿やらが置いてある。

 右手の方には、さっき見えたガスコンロや吊るされた鍋。窓もあるそちらが、どうやらメインの調理場らしい。ちょっとうらやましいサイズのシンクもある。

 右の方で作り、中央の台の上へ。仕上げて客席へ……という流れだろうか?

 「それじゃあ詩乃ちゃん、レジだけどね…」

 横居さんに呼ばれ、通り抜けてレジの方へ。見えたテーブル席も、やはりがらんとしていて。色々と教えてもらうには都合はいいが、ちょっと心配になる。

 少し年期の入った色をしたレジの扱いを、横居が軽く説明して………扱い自体は電卓の延長、スマホより簡単ですぐに覚えられたのだが。

 「あの、メニュー……というか、値段なんですけど」

 不安になるのは、値段を覚えられるかということ。

 デジタル式などではない伝票。各席毎に手書きで記していくわけだが、横居さんの指示は『わかればいいから』。

 各テーブルにあるメニューは薄っぺらく、内容もチャーハンなど馴染みのあるものばかりだし、値段もキリがいい。ちょっと安い気もするが、それはいい。問題はそこではない。

 『日替わり 時価(店内表示をご参照ください)』とかいうのも、見回せばレジの横のボードに……おそらく横居の手書きで、ご飯大盛りはプラス50円とかの情報とともに書いてある。

 まぁ、これもいい。だから問題は……

 「この、“持ち込みについては店員にお聞きください”って、どういうことですか?」

 持ち込み厳禁、というのならわかる。というか、飲食店で持ち込みが出来るのか?マイ箸とか、マイ調味料とかのことだろうか?

 「食材の持ち込みのこと。ほら、船宿で釣った魚を料理してもらう、とかあるじゃない」

 「魚の持ち込みがあるんですか?」

 「ないわよ。もっぱらラーメン」

 「ら…ラーメン?アリなんですか?それ」

 「アリよ。アリアリ。ねぇ?」

 と、厨房へ。厨房から帰ってきた答えは…

 「うん。たぶん」

 “たぶん”って……

 「常連さんは袋麺出して、チャーシューとかのトッピングを頼むから」

 単品メニューの中に、ネギ、メンマ、ノリとかあったのはそのせいか。飲み屋にしても極端なメニューだとは思った。

 「手数料……というか、調理料だけもらってね。ものによって違うから、きいっちゃんに聞いてお客さんにも確かめて」

 「…キイッチャン?」

 「あぁ、店長よ」

 店長を“ちゃん”付けとは……。確かに年齢的、人生経験的に横居の小母様のが上だろう。いや、人生以外にもいろいろと。

 それにしても下の名前で“ちゃん”で愛称とは……

 「そーいえば、まだ名乗ってなかったね。東紀一郎って言うんだけど……ちょっと古臭いよね」

 話が聞こえてたらしい。レジの奥から声が響く。

 「あ、はい」

 了解したという意味で返事はしたものの、なんだか『古臭い』に同意したみたいになってしまった。実際、古臭い感じは否定しきれないというか………

 「あとは、お客さんが来てからの流れね」

 ともあれ、一通りの手順を横居から教わる。別段難しいものはなく、使用する布巾や伝票の処理なども教わり………

 「じゃ、次のお客さんはお願いね」

 「うっ……はい」

 当然の流れではある。覚悟してはいていたものの、手ににじむ汗は止められない。

 じっと店の入口を見つめ………

 見つめ………

 見つめ…………

 ……大丈夫だろうか?この店は。

 「ヒマな時は、適当に何かしてていいわよ」

 そう言う横居は、観葉植物に水を上げている。

 適当と言われても、何をすればいいか見当もつかない。困ったような視線を店長……東に向けると──

 「あ~…。じゃあ、こっちを手伝ってみる?」

 ヒマ……手が空いているというのは接客で。調理はというと、準備などやることは常にあるのだろう。

 「はい」

 前髪をしまって、手を洗ってと言われて。

 厨房に立つとキャベツを渡された。

 「料理、出来るんだよね?」

 プロに言われてうなずけるほどの腕はない。

 「家庭レベルで…すこし、は」

 母の代わりに台所に立ってきた。弟にはあまり評判は良くないが、それでも形を取り繕うぐらいにはこなしてきた。つもりだ。

 「じゃあ、付け合わせとサラダ用のキャベツの千切り。半分くらい剥いて、洗って、切ったらザルで水にさらして。四分くらいね」

 最後、壁に張り付いたキッチンタイマー(百円ショップでみたことある)を指される。

 「はい」

 言われたとおりキャベツを剥き始める。が、葉はすぐにちぎれてしまう。これが、詩乃がロールキャベツを嫌う理由だが………

 「芯の下に指をいれて、折るようにはがしてみて」

 隣りでキュウリを洗い始めた東のアドバイス。

 言われたとおり、指を入れ……

 「あぁ、逆」

 手を返し、キャベツの丸みに沿うように。最後は外へと押し上げると、パキリと音を立てて芯が折れた。

 「お~」

 大きなまま、一枚が剥けた。これならロールしてもキャベツのままだろう。

 ぺりぺり剝すのではなく、めくるように剥ける。すべてが上手く出来るわけではないが、それでもボロボロになっていたことを思うと、ちょっと楽しくなる。

 「それくらいでいいよ。洗ったら、芯の厚いところを削いでね」

 と、自身は早々にキュウリを切り終えて、使っていた包丁を渡してくれる。

 気のせいかと思ったが、違う。その包丁は大きい。いや、長いと言うべきか。家で使っている包丁と比べ、刃の部分が明らかに長い。

 ──………武器?

 ファンタジーゲームなら、間違いなく『ショートソード』だろう。

 受け取ったものの、自分でも思うくらいぎこちない。刃の部分をもてあましている。

 「もっと刃に近いところもって」

 柄をしっかりと握っていたら、違うという。もう一本……予備だろう、たぶん……持ってきて見せてくれた持ち方は、人差し指と親指で刃の部分をつまむような持ち方だった。柄を握っているのは残りの三本である。

 「人差し指の位置は変わったりするけど……。良く切れるはずだから、あまり力を入れずに使って」

 「はい」

 詩乃だってリンゴくらい剥ける。まだ刃先のあたりなど邪魔に感じるほどだが、それでも持ち方を変えてバランスは取りやすくなった。

 キャベツの芯に、刃の根本付近を当てて……

 「…え?」

 刃が止まったのは、左手の親指の爪だった。軽く切れている。爪が……もちろん親指も。

 「そーいえば、横居さんもやったっけ」

 大丈夫?と聞きながら、キッチンペーパーで傷口を抑えてくれるが……

 「……え?」

 あまり痛くない。でも血は出てる。そこまで包丁の扱いは下手ではないと思っていたが……でも血は出てる。

 「大丈夫?」

 「あ、はい。すみません」

 「いいって。横居さ~ん、救急箱~」

 詩乃が驚いたのは、その切れ味だ。力を入れたら、切れた。いや当たり前だが、思っていたよりも切れたのだ。

 「そろそろお客さんも来るだろうから。今日は、あとは客席ね」

 客席のすみっこに移動し、横居に絆創膏など張ってもらいながら……

 ──……やっちゃった……。

 早々に失敗など……しかも包丁を初めて使った瞬間に。

 恥ずかしい。出来るならば帰りたいくらいに。

 「だいじょーぶよ。傷は浅いわ」

 冗談じみた横居さんの言葉にも、どう返していいかわからない。

 「はぁ…」

 ため息とも取られかねない曖昧な返事が精いっぱい。

 「ここの包丁、大きいし良く切れるからね~。今度、家の包丁持ってきなさい」

 「……?」

 「研いでもらうといいわよ。私も頼んでるし」

 いいのだろうか?

 でも……。思えば、包丁を研いだことなどない。セラミックでもないし、何年使ってるかもわからない。意識していなかった……というより、研ぐという発想がなかった。

 その切れ味は、カボチャを買うまいと決意するくらい。

 それでも調理はしてきたし、この数年、食事の支度はこなしてきた………のだが。やっぱりそんな程度のプライドは、がらがらと崩れてしまった。

 と、ガラガラと扉が開く。

 「ちわーっす」

 「ほら、お客さんよ」

 横居さんに背中を押されて立ち上がる。

 そうだ。見習い中とはいえ、働きにきているのだ。せめて役に立たねば。

 「いらっしゃいませ」

 気合を入れて立ち上がり……

 「笑顔よ、詩乃ちゃん」

 口の端を、ひきつらせた。


 陽が沈んだ頃から、お客さんはひっきりなしに訪れた。

 会社帰りと思われる人や、中には小学生らしき子供も。しかしお客さんへの推測などしているヒマはほとんどなくて。知られてないというのは謙遜だったのだろうか。

 注文を取ってテーブルへ運んでお会計をして……と。

 横居さんも手伝ってくれるものの、もっぱら詩乃へ指示を飛ばすばかりである。

 「詩乃ちゃん…横居さんも。あがっていいよ」

 東がそう声をかけたのは、果たしてどれくらい経った頃だったのか。

 気がつけば、お客さんはお酒片手の人ばかりで。壁の時計を見上げれば、ちょうど九時である。

 終わりと聞いて、体から空気のように力が抜けていく。

 よろよろと、厨房の奥、玄関の方へと向かいながらエプロンの紐を解いて。バンダナも、解いて鞄の上に置いて。やっと大きく息を吐いた。

 「おつかれさま、詩乃ちゃん」

 同じようにエプロンを外した横居。こちらは……さすがというか当然というか、余裕がある。

 「なんだか疲れました」

 「初めてならそんなものよ」

 そうは言われても。

 これから帰って夕食、片付け、お風呂に入って……と思うと体も重くなる。

 のろのろとエプロンを畳んでいると、ひょいと顔を出した東が、

 「おつかれさま。はい、お土産」

 密閉容器を二つ、渡してくる。

 「はい…?」

 「残り物だけど……から揚げとポテトサラダ。あ、横居さんも」

 「助かるわ~」

 横居さんの反応を見るに、よくあることのようだが……

 ──今日のバイト代……だったりして。

 見習いの身ならばあり得ることかも。指も切ってしまったし、ちゃんと働けたかも怪しいし。

 一抹の不安を抱きながらも、明日もよろしくなどと言われながら店をあとにする。

 待ちかねていたかのように(あるいは貰いもののから揚げの匂いに?)まとわりつくシェパードのポテトを連れて、家路へとつく。

 疲労が足にたまっている。気持ちは、まだ少し昂ってるのに、体は空になったかのように疲れている。

 「あ。明日もよろしくって言われたんですけど?」

 「都合悪い?」

 「いえ、そうじゃなくて……」

 いいのだろうか?指は切ったしレジでは桁を間違えたりしたし注文はミスしたし指は切ったし………

 ロクに役にも立てず、それなのにお土産までもらって『また明日』なんて。

 「あぁ、時間ね」

 対する横居(と、ポテト)は気楽なもので。

 詩乃の雇用に関する不安など思いつきもしないらしい。ケータイを取り出すとなにやら打ち込んで……

 「明日……土曜だから詩乃ちゃん、学校ないわよね?」

 「あ、はい」

 「メールで連絡くれるはずだから、あとで確認してね」

 なんて。

 だからこんな足手まとい、必要なんですか?って意味なんですけど……とは、聞けるわけもなく。

 「はぁ…」

 やっぱり曖昧な返事をして。

 まぁこの試練は次でも活きるだろうと開き直って………せめて出来る限り迷惑をかけない形で足を引っ張りつつ、この一週間乗り切ろうと覚悟を決める詩乃であった。


 翌日。

 お昼を済まして、ちょっと早めに洗濯ものも取り入れて。昨日と同じく『夕星』の裏手に来た詩乃は、漂う香りに満ちたはずの胃袋が刺激されるのを感じた。

 ──これは……カレー!

 特徴的なスパイシーな香り。どんな料理か、どんなブレンドか分からないが、カレーが関与していることに疑う余地はない。

 いそいそと玄関へ。昨日と同じようにインターホンを鳴らしてから扉を開ける。

 「こんにちは~」

 中に入れば、いっそう濃くなるカレーの匂い。

 「いらっ……こんにちは」

 厨房の奥、死角になってる方から声が返ってくる。

 「靴、替えて、コロコロを……」

 東が手を、腰から下げたタオルで拭きながら顔を出した時には、詩乃はすでにコロコロを使っていた。髪は、今日は家を出る時にまとめてあるし。エプロンとバンダナもぴしりと結んで、あとは手を洗えば準備オッケーである。

 「…さすがだね。早かったね」

 後半は、時間のことだろう。

 昨日メールで伝えられた“バイト開始時刻”は、『土曜は三時開店だから、間に合うように』。

 ──つまり三時?三時からってことでいいの?

 思わずスマホにツッコミを入れてしまったのだけれど。結局は、確認はせずに三時に間に合うように来た。

 昨日の失態を思えば、少しでも役に立たねばなるまい。とはいえ……──

 「えっと、早かったですか?」

 気にはなる。早すぎるのも迷惑をかけてしまう。

 「ん~…、お客さんが来るのは夕方過ぎてからだからね。今日はちょっと、ヒマかもよ?」

 答える言葉がみつからない。

 ──ヒマ?ヒマでいいの?というか、笑顔で言われても。あとヒマなら私、来なくても良かったんじゃ………

 手を洗いながら答える言葉を探していると、東はその手の方を覗き込んだ。

 洗い方がまずいかと、一瞬身を固くする。

 「昨日の傷、平気みたいだね」

 「あ、はい」

 左手の親指に付いた傷は、今朝にはふさがっていた。わずかに皮膚が切れた跡がのこるだけ。脅威的な回復力というより、切れ味が鋭かったからだろうか?

 「一応手袋して……それじゃあ、仕込み手伝ってもらおうかな」

 言うと戸棚をあさって……

 「詩乃ちゃん、Sだよね?」

 「ぇ…!」

 そーゆうシュミはないのだけれど……なんて口走るより先に、手袋が渡される。

 「横居さん用に買ったんだけど、サイズ合うよね」

 あやうく、ベタだけれど“恥命的”な勘違いを露呈するところだった。

 渡された手袋はブルーの、薄くてピタリとするもの。手術用……とでも言われれば信じそうなものだった。

 ぱちん、と音を立てて手にはめると、なんだか指が違和感に包まれる。普段はこんな手袋なんてしないし、これで食品を扱ってもいいのかな?みたいな。

 「じゃあ、カレー用に玉葱切って」

 カウンターに向いた方のシンクに、玉葱の入ったボールが置かれてる。ボールといっても、まず一般家庭では使われないようなサイズで。それに山盛りとなると二十個くらい……だろうか。正直、見当がつかない。

 「皮は、たくさん出るからこっちね」

 ずりずりと引きずってこれらたのは、ゴミ袋のセットされたダンボール。たしかに三角コーナーに……という量ではない。

 「包丁はこっちに入ってるから。持ってく時は気を付けて」

 などと、いろいろ教えてくれるのだが。やっぱり気になることがひとつ。

 「あの。」

 「うん?」

 「あれ、カレーじゃないんですか?」

 外にまで漂っていたカレーの香り。それらしき寸胴を指してたずねた。

 「カレーだよ。いつも二つ分作るんだ」

 もっと大きな調理場で、もっと大きな鍋があれば一回で済むんだけどね……ということは。

 「人気ですか?カレー」

 そうなんだろうな、と思う反面、昨日のイメージだと客層が違う気がする。それとも、お酒には意外とカレーが合うのだろうか?

 「わざと大目に作って、一晩寝かせたのを明日出すんだよ」

 なるほど。一日置いたカレーは一味違う。

 詩乃も家でカレーを作る時は大目に作って、翌日もカレー……三日連続という時もある。なにせ調理としては簡単な方で、手を抜きたいときにはカレー、とかにしているくらい。

 「そのへんの物は適当に使っていいから。わからないことがあったら聞いて」

 そういうと東は、他のものの仕込みだろう、反対の壁に向いた方でなにやら始める。

 お店で……しかもインド料理店でも専門店でもなくカレー、というのはちょっと違和感があったが………

 それでも少しは慣れたものを作る、というのは安心感がある。作り方も、家庭用と大きく違うまい。

 まずは、包丁とまな板。

 まな板はすぐ近くに立てかけてあった。包丁は、教えてもらった真ん中の台の中段。縦長の包丁刺し(?)に刺さっている。

 昨日指を切ってしまったのと同じ、刃渡りの長い包丁を抜く。慎重に……東の位置と、自分の指の位置を気にしながら持って。

 まな板と包丁を軽く水でながして、いざ玉葱を切る。

 まずは頭。そして根っこの方を落として、皮を剥いていく。切り口から、包丁の角を使って皮をひっかけ、ひっぱって……

 ─ペリリ─

 刃の長い包丁はバランスが悪く……

 ──って、持ち方が違うんだっけ。

 もっと刃に近い所を持つと言っていた。持ち直して……

 ─ぺりり─

 切れ味が良すぎるのか、一度に剥ける皮の幅は狭くて。それでも一個剥き終えて、まな板の上、まず半分に。そして………カレー用といったらスライスでいいのだろうか?

 いや、みじん切りという話を聞いたことがある。それとも大きめに切って食感を残すとか?

 玉葱一個しか剥いてないのに、こんなにすぐ声をかけていいのだろうか?なんだか自分がすごくモタモタしているようで気が引けるけど、聞かないことには始まらない。

 「あの、」

 「ん?なに?」

 なにかのスープだろうか?鍋の味見をしていた東は、火を弱めてやってくる。

 「たまねぎの切り方なんですけど……」

 一応、半分にした切り口を下に、包丁を丸まった方から近づけて、これでいいんですか?と聞いてみる。

 「………詩乃ちゃんは、誰かに料理を教わった?」

 「いえ…」

 母を亡くしたあと、必至になって料理を覚えた。テレビや本、ネットの検索……少しは横居さんにも。

 けれど、誰かに教わったということはない。自分が中川家の台所を守るんだという使命感からか、一人でやるべきだと思っていた。

 「あの……」

 まさか、なにか失敗しているのだろうか?玉葱一個剥いただけで?だとしたら、それは指を切る以上の失敗ではないだろうか。というか、今まで料理してきたという自信が粉微塵になる。

 「あぁ、いや。考えてみれば、家庭で料理する量とは違うからね。プロの技……っていうほど大仰じゃないけど。僕が教えてあげられることもあるみたいだね」

 教えてあげられることもあるみたい……って、プロから教えてもらえるなら文句はない。

 「包丁かして」

 玉葱の根の方、芯の固い部分を三角に切り落とすと、向きを変える。詩乃が切ろうとしていたのとは、90度違う。繊維に対して垂直に……というヤツだ。

 「他では知らないけど……、玉葱ってたまに歯にはさまらない?」

 ─たんたんたんたんたん…─

 リズムが違う。光を反射する断面が、包丁の上から出ては倒れていく。

 「この向きで切ると、そういうことも少ないと思うんだよね。って、カレーだし、煮込むとほとんど溶けちゃうけどね」

 言ってる間に一個分を切り終えると、真ん中の台からボールと……包丁をもう一本取り出す。

 切った玉葱は新しいボールへ。取りだした包丁は……包丁というより、ナイフと言った方がいいような、小さなもの。テレビで、フランス料理のシェフが果物をスライスするようなものだ。

 「それと……量が多い時は、同じ作業はまとめてやっていった方が効率いいよ。で、皮を剥くのも、ちょっとコツがある」

 玉葱を手にとると、頭と根っこを切り……落とさない。さすがにこのナイフは普通の持ち方だけど。手前の方を持ち上げた形で先に切っ先をまな板に付け、わざと切り落とさずに頭も根っこも皮一枚ほど残して切っている。そしてその頭と根っこを持つと……

 「こうすると、一ヶ所皮が剥けるでしょ?」

 頭の方の皮、根っこの方の皮。両方引っ張られていくと途中でぶつかり、縦に一筋、皮がはがれた形になる。

 頭と根、両方の皮を残す位置が同じでなければ出来ないことだ。

 「そしたら角でひっかけて……」

 ナイフの角を、皮の角に当ててめくる。詩乃のやりかたと違うのは、めくって引っ張る方向が横だということ。

 縦に通る繊維は、縦に裂けやすい。裂けてしまうから、何度も剥くことになるわけで。

 横に剥くことで、皮は裂けにくく、ぺろんと剥けてく。

 「おぉ~」

 思わず歓声を上げる詩乃。剥がした皮は、ちょうど裏返したような感じで玉葱型になる。

 「全部が全部、上手くいくわけじゃないけどね。あとはこーゆうトコを取って……」

 頭に近い部分、実の一枚が薄くなってる部分を、これも包丁の角を使って切れ目を入れ、そこだけはぎとる。そして根の方を上にしてまな板におくと、刃先を芯に刺し、ぐるぐると回して芯を取る。

 「まずは、全部皮を剥いちゃうといいよ。あ、たまに土がついてるのがあるから、切る前に洗ってね」

 「はい」

 なんだか包丁の使い方に関心してしまった。

 それだけでなく、玉葱の切り方ひとつにこうまで差があるとは……

 「あ、芯の取り方はマネしないでね。あと皮を剥く時、いったん包丁は置いてね」

 「…………」

 思い返せば……右手で皮をつまんではがしてた時、包丁もその右手にあった。

 ──どーゆうふうに持ってたんだろう……。

 気になる。なるが、うかつにマネして今日“も”指を切りました、なんてコトはしたくない。

 「はい」

 素直に返事して。

 言われたとおり、まずは玉葱の皮を剥き始めた。


 たかがカレー。されどカレー。

 各ご家庭でも違うのに、それがお店ともなればさらに半捻りくらい入ってたりして。

 ウチは家庭料理に一歩足したくらいだけどと東は言うものの、その一歩が『お金を取る商売』になってるんだろう。

 額に浮かぶ汗もぬぐえず、詩乃は一心不乱に鍋を混ぜながら、今まで作ってきたカレーを反省していた。

 ──手軽料理なんて扱いでごめんなさい。

 シリコンの耐熱手袋をして木ベラを掴み、寸胴の中の玉葱を炒め続けて一時間……というほどは経ってない。せいぜい10分少々といったところ。

 それでも業務用のコンロは熱いし、寸胴の中で立ち上った湯気は顔をかすめていく。

 火は強めの中火。大量の玉葱は混ぜづらく、鍋を押さえている左手は、鍋つかみをしていてもぢりぢり熱い。

 東の指令は、焦げない程度の強火で、かつ見た目あきらかに量が減るまで炒めること。

 バターひとかけと多めの油、刻んだニンニクを入れて弱火で香りを出して。そして玉葱投入をしてこの指令、というわけである。

 ……玉葱は、見た目で半分近くにまで減っている。が、さきほど確認したところ、笑顔で『まだまだ』と言われてしまった。

 火が強めということで、混ぜる手を緩めれば鍋肌に近い部分から焦げ始める。混ぜムラがあれば、そこが焦げ始める。腕が疲れたからといって休めば焦げる。

 炒める……というよりも。焦げないようにするだけで精いっぱい。

 痛くなってきた腕を、それでも根性で動かし続けていると……──

 「ありがとう。交代するよ」

 一も二もなく、手袋を脱いで東に渡す。

 コンロから離れただけで、涼しいとすら感じて。近くにあった、レジの方へ続く柱にもたれてしまった。

 「少し休んでていいよ」

 「はい……」

 ふらふらと客席の方へ。空いてる……といっても、まだお客はひとりも来てないのだけど……椅子のひとつに腰を下ろす。

 一度バンダナを取って汗を拭って。

 カレーの手順の一部を手伝っただけ、という事実に、ちょっと目眩を感じる。いやもう、リアルに。

 たまに『一時間炒めた玉葱』とか聞くけど………まさかこのまま一時間炒め続けるのだろうか?

 そういえば、これは二回目だと言っていた。ということは東は一度、この工程を一人でこなしているのだろうか。

 ──プロだわ。

 これが、料理でお金をもらう仕事、というものなのか。

 「詩乃ちゃ~ん?」

 「は、はい!」

 わたわたと、髪を直してバンダナを締め直す。あの灼熱地獄へと立ち向かう決意も新たに厨房へと………

 「そろそろお客さん、来るかもしれないから。そっち準備お願い」

 「…はい」

 ちょっとホッとしたりして。

 飛び飛びになってる昨日の記憶を掘り起こしながら、テーブルを拭いたり調味料のチェックをしたり給水機を………

 ─ゴクリ─

 そういえば、ノドが乾いた。玉葱の水分と共に、詩乃の水分もだいぶ飛んでいった。

 しかし、しかし……

 「…飲んでいいよ?」

 「ッ!」

 給水機があるのはカウンター席の端。カウンターの奥には厨房で。

 ちょうどこちらをのぞいてた東に、簡単にバレてしまうような表情をしていたらしい。

 「横居さんはペットボトルにお茶いれて冷蔵庫に入れてたりするし。水くらいなら、いつでも……とは言わないけど、適当に」

 「いいんですか?」

 「うん」

 なにをためらうことがあるのかな、といった表情で返される。

 確かになにをためらっていたかと言われると、心理的な壁でしかないような気もするけど。

 とりあえず、コップに一杯。冷たい水を、一気に飲みほして。

 ぷはーっ……というのは、さすがに堪えました。

 「玉葱、炒め終わったから、見てみる?」

 どうやら、そのために様子を見に来てくれたらしい。

 うなずいて、厨房に戻ると……

 「おぉ…」

 切ったばかりの頃は瑞々しく、きらきらとしていた薄緑の玉葱は、いまやキツネ色というかタヌキ色。バター混じる香りは香ばしく、しかし焦げくさくはない。鍋半分近かった分量も、ときおり底が覗くほどになっていて。

 玉葱が、こんな風になるとは思ってもみなかった。

 「ここから水入れて、みじん切りのジャガイモとニンジン、炒めた挽肉とか……。ルゥは既製品だけどね」

 出来あがったら味見してみる?との問いにゼヒと答えて、ふたたび客席の方へ。

 「あ。カンバン出して」

 「はい」

 壁掛けの時計を見れば、三時を二十分ほど過ぎてて。

 あれ?開店は三時って言ってなかったっけ?とか思いつつも、入口に立てかけてあった暖簾を持って外に出る。………『カンバン』とは言わない物体だとは思うのだけれど。

 暖簾をかけて、『CLOSE』の札をひっくり返して『OPEN』に。

 まだ明るい空に向けて『やるぞ』と気合を入れて………でもその気合ほどは、お客さんは入ってくれなかったので。明るいうちに家へと帰れました。

 お土産のカレーは家族に大変評判良くて………今後、家ではカレーがちょっぴり作りづらくなったと思う詩乃であった。


 『夕星』という名前から、勝手に和風をイメージしていたのだけれど。

 土曜日はカレー(……というか、お酒?)がメインみたいになってたし、週明け、月曜に行った時にはパスタが多かった。

 東の言っていた『家庭料理から一歩足したくらい』というのは本当で。和、洋、中かかわらず家で作りそうなメニューが多い。

 ただ、普段料理をしている詩乃だからこそ実感する。足したという『一歩』が大きい。

 家だと『ちょっと面倒だな』と思うようなところを、しっかりとやってるのだ。

 サイズをそろえるために玉葱をバラして切ったことなど、詩乃にはないし。キャベツの千切りだって、シャキッとさせるために氷水に漬けるなど…………少々日が経ったのを誤魔化す以外でやったことなどない。味噌汁の味噌を丁寧に溶いたこともないし、米を炊く前に水に漬ける、なんて事もしていなかった。

 材料の下ごしらえだけでこれである。

 『ちょっとは料理が出来るんだから』という思いは、一週間後にはあとかたもなく崩れ去っていた。

 ちょろちょろと様子をうかがっては、自分の料理を反省する日々。せめて動き続けねば申し訳が立たぬと、積極的に皿洗いやら片付けやらをやってみたものの………もともと横居とふたりで回してきた店である。あとから来た詩乃が出来ることなどたかが知れてるし、“やること”はあっても“出来ること”には限りがある。

 手持ちぶさたになることもしばしば。料理をちょこっと手伝ったりしたものの、結局……

 「手が空いてる時でいいから、メニューを新しく書いてくれる?」

 ……なんて。

 ややヨレたメニューの更新を言いつかった。

 お客のいないカウンター席の隅っこ。マジックで丸っこい文字を書きながら、こんなんで役に立ってるとは言えないよな~……と悲しくなったりもする。

 そんなこんなで。話があるから……と言われたのは、ちょうど一週間が経った日。夕方の、ちょっとした隙間の時間。

 手を止められない東は厨房で動きまわりながら。詩乃は片づけた食器などを洗いながらの話である。

 ──今日で終わりかぁ…。

 客席は横居に任せてある。ときおり楽しそうな笑い声が響いてたりする。

 詩乃は職員室に呼び出しを受けた……というよりも。転校していく生徒のような気分で。

 話というのは、今日でおつかれさん的なものだろう。一週間だし、きりもいい。

 いろいろ学べたし、まったくの初心者だったので『アルバイト体験』が出来ただけでもありがたい。ただ、きっと新しいアルバイトの面接で『一週間で辞めた理由は?』とか聞かれたりするんだろうなぁ~と思うと気が重い。

 『辞めたんじゃなくて辞めさせられたんです』………って、心象はもっと悪いだろう。

 「詩乃ちゃん」

 「!はい」

 きゅっ、と水を止めて。東の方もひと段落ついたらしく、洗った手を腰に下げたタオルで拭いていた。

 「一週間経ったけど……どう?」

 「はい。いろいろ勉強になりました。己の未熟さを恥じるばかりです」

 指こそ初日に切っただけだけど。皿は割ったし、注文は間違えたし、レジの打ち間違えなどしょっちゅうで。どうしていいかわからず横居や東に聞きに行くことだって日常茶飯事。結局、ふたりの対応を横で見ているだけだったりして。

 思い返せば思い返すほど、お世辞にも『役に立った』とは言えないなぁ…と思う。

 「そう?けっこう役に立ってもらってたけど」

 「…………」

 お世辞では言ってもらえるくらい、だったらしい。

 「とりあえず、これね。お疲れ様」

 と言って、戸棚から出された茶封筒。ちゃらちゃらと音のするそれは……

 ──ばい…と代……

 燦然と輝く給料袋であった。ボールペンで『しのちゃん』と書かれていたり手渡しだったりと思ってたのとちょっと違うが………それでも、ありがたき初給与である。

 「ありがとうございます」

 「うん」

 これを糧に、明日からも強く生きていこう……と大袈裟でもなく決心する詩乃。

 「で………どう?」

 「………?」

 東の問いに、首をかしげる。

 『どう?』とは?額のことだろうか?でも目の前で開けて確かめるなんて、ちょっと出来ない。

 では、いったいなにが『どう?』なのか。

 「明日からも、来てくれる?」

 なんて、はにかみながら告白がごとく言われて………

 「えー!?それって店長から聞くようなことですか!?」

 「違う?ボクから頼んで来てもらった人だから……」

 どうやら、東の中では『横居さんに紹介して来てもらった』と思ってるらしい。詩乃の方は当然『横居さんに紹介されたバイト先』であって、その店長である東に生殺与奪の権利があってしかるべきで。

 「………働かせてもらえるなら、働かせてもらいたいですけど。」

 「うん。働いてもらえるなら、働いてもらいたい」

 曖昧な平行線は、歩み寄ってるかはともかくとして、向いてる方向は同じらしい。

 なんとなく…という感じだが、たぶん結論としては……

 「それじゃぁ……明日からもよろしくお願いします」

 ぺこり、と頭を下げる詩乃。

 「いやいや。こちらこそよろしくお願いします」

 ぺこり、と頭を下げる東。

 結論としては、そういうところでいいらしい。


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