第2話 新たな土地へ
僕の人生の物語を始める前に、まずは僕がここに来るまでのいきさつを説明しよう。
ここはキースライヒ王国。この国では13歳になると進路が主に二つに分かれる。そのうち、ある一定の優秀な成績を収めたもの、類まれなる才能を持っていることが確認されたものだけが推薦状を貰える特別な教育機関がある。いわゆる「特別教育機関」「SEO」だ。その中でも最高峰と呼ばれるのがこのイニシィア学園。SEOの多くが謎に包まれていて、僕もこれくらいの知識しか持ち合わせていない。というか、本当は僕のような平凡に平凡で平凡の極みの僕には関係がないはずだった。成績は中の上で、運動は平均よりちょっと苦手。絵心なんてないし、目立った表彰もされた覚えもない。そんな僕の元に、あの封筒が届いたわけだ。そのときの家族の驚きっぷりといったら、みんなして鳩が豆鉄砲を食ったような顔だったな。懐かしい。まあ僕はまだエイプリルフールのようにしか感じられていないが。
門から入ってすぐのところに立ち止まったまま僕は使い慣れた革のショルダーバッグから例の封筒を出す。はがきサイズの白い地に、金のバラが箔押しされている。もう一度中身を確認。ぴったりサイズの羊皮紙に、ブルーブラックの筆記体で
「貴殿を我が学園に迎え入れる」
とだけ。かと思いきや、もう一枚手の平にすっぽりと収まるくらいの白い二つ折りのカードが入っていた。金のバラの印。
「ⅩⅠ棟007号室」
鍵がはさんである。どうやらカードの内容は僕がこれから寝起きすることになる学生寮の部屋についてらしい。
しかし、寮は何処だろう。辺りに広がるのは― 一面の花畑。プルトゥの森とは打って変わってとても明るい。南の太陽が色とりどりの花木をいっそう輝かせる。授業中なのか、人は見当たらない。仕方がないので、とりあえずまっすぐな白い一本道を進むことにした。
ほどなくして、これまた白い大きな石造りの噴水がある広場に出た。ここからは道が3つに分かれている。ひとつはまっすぐ、もうひとつは右後方へ。そして最後のひとつは左前方へ。迷いに迷って噴水を3周ほどした挙句に左前方へ行ってみることにした。結果から言えば大当たり。長細いオレンジのレンガ造りの建物が12棟。おかげで自分の部屋につくのに随分苦労した。
白壁の部屋の中には木製のテーブルと椅子、ふかふかそうな布団がかぶせられたベッドのみ。シャワールームとトイレも全室にあるらしい。かなり上等だが、色合いは殺風景だ。
そのテーブルの上に、またもやさっきと同じカードが置かれていた。金のバラの印。
「荷物を置いたらすぐ“館”へ来い」