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11話〜バイトを探そう〜

これにてストック終了。別に投稿している作品も更新していきたいので、更新頻度がガクッと下がります。

感想とかいただけたらモチベーションが上がってすぐに書けるかもです。

 俺は、自分で言うのもなんだが博識だし物覚えはいい方だ。

 一度読んだ書物であれば内容を全て頭の中に保管できるし、難解な魔導書も容易に解読できたし、多岐の分野にわたって専門的な知識を持っている。

 だというのに、だというのにだ……。


「なぜ、こうも次々とバイトをクビにされる?」


 始まりは、アイナとメトが自分たちの力で俺とダンジョンに挑みたいため、まず装備を揃えるためにお金を貯めようと決めた時。俺も彼女たちと一緒に住み、寝食を共にしている以上食い扶持を稼ごうと決意。せめて食費だけでも協力して二人の負担を減らそうと俺もバイトをする事にしたのだった。

 しかし何故か、行く先々のバイトで俺はクビを言い渡されてしまったのだった。


「今まではどんな事も完璧だったのに、どうしてこうなった?」


 俺一人しかいない教会の机に突っ伏しながら、俺はこのどうしようもない現状を嘆く。別に仕事を怠けていたクビになったのではない。寧ろ人一倍にやってはいたつもりだ。


 最初は飲食店だった。出来上がった料理の配膳や給仕をしていたのだったが、あまりにも笑顔が無さすぎると言われた。自分でも表情が乏しいのは自覚していたし、そこは全面的に受け入れよう。給仕が駄目ならばと調理も一通りできるので厨房へと移ったのだが、同じ料理なのに味が別物に仕上がってしまい、他の皆が自信を一気に無くしてしまって、このままじゃ料理人が全員辞めてしまい店が潰れてしまうからと俺が辞める事になった。何故だ?


 めげずに次のバイト先として選んだのは、中堅冒険者たちがよく利用しているという鍛冶屋の一つ。展示されている装備の掃除や点検などが主な仕事だったが、武具に関する知識も豊富だったおかげで、たまに冒険者たちから装備の質問をされ際に的確に答えていたら親方に褒められ、鍛冶の部分にも携わる事になった。中堅冒険者がよく利用するとはいえ、取り扱っている素材も設備も申し分なく、俺を気に入った親方から何か一振り打ってみろと言われた。折角の親方からの厚意に応えようと頑張ってみると、親方曰く『最低でも最高位の名剣クラス』の剣を作ってしまい、価値が高すぎて店では販売できないと言われ仕方なく俺が貰う事になった。そして、本来ならば長い時間を修行に費やして武器を作る事を許されるのに、ふらりと現れた俺がたった数日で鍛冶場に立つ事を許されて親方の弟子たちは不満が一気に募り、このままではこの鍛冶屋が潰れてしまうと判断して俺は惜しむ親方をなんとか説得して潔く身を引いた。ああいう職人の世界では年功序列というものが厳しいみたいだ。


 ならばと、次に選んだのは建築作業のバイト。ここ迷宮都市ドュラーガは日に日に多くの冒険者が訪れそれに伴い出入りの商人の数も増え人口は現在も衰える事なく増大し、そに伴い住居を確保するために大規模な拡張工事を行っている。爆発的に増える人口に工事の人員は常に不足状態で、駆け出しの冒険者たちも日々の食い扶持を稼ごうと多く集まり、俺もそれに参加する事になった。その水路を引くために地面を掘り返す作業だったのだが、早く終わらせたら皆も喜ぶと思って、魔法を使って周囲の地形を操作して整えてあげたらメチャクチャ怒られてしまった。仕事を奪ったせいで皆の給料は発生せず、予定よりもはるか先の地形にも手を入れたせいで土地の所有者が激怒してイッパツで俺はクビを言い渡された。時間にして27分の出来事であった。


 その他にも様々なバイトをしたが、結果はどれも同じで長続きしなかった。


「……どうしよう、ここまで上手くいかないなんて想像もしてなかった。どうにかして働かないと、このままだとただの穀潰しだ」


 別に、金が無いわけじゃない。その気になれば手持ちの宝の一つや二つを売り払って大金を手にする事もできるが、だからといって働かなくてもいいという訳ではない。アイナとメトが頑張って働いているのだから、俺も少しでいいから二人の助けになりたい。だというのに、現状は儘ならないものだ。


「よし、このままこうしてても仕方ないし、別のバイトを探そう」


 度重なる失敗にショックは隠せないが、気持ちを切り替えて新しいバイト先を探してみよう。次こそは、俺に合うバイトがあるかもしれない。


 手早く出かける準備を済ませて、俺は今日も冒険者ギルドへと向かう。

 アイナたちと一緒ならば別に苦ではないが、一人だとギルドまでの長い道のりは億劫だな。

 転移魔法でも使ってギルドへひとっ飛びできれば楽なのだが、それをすれば間違いなく大問題に発展するだろう。俺だってそれくらいは分かる。

 途中で甘辛ダレをつけたプリット鶏の焼き串を2本買って小腹を満たしながら、ようやく冒険者ギルドへと到着した。

 中へ入ると他の冒険者がチラッと見てくるが、俺だと分かると興味を失くして視線を元に戻す。

 最初の数日間をまるで珍獣でも見るかのように俺を見ていたが、ダンジョンにも潜らずバイト三昧を繰り返している内に、他の新人冒険者と同じだろうと判断されてジロジロ見てくる連中は格段に少なくなった。それでも一部はダンジョンに潜らない俺を蔑視したり嘲笑したりする輩がいるが、何かしてくる訳でもないようなので放っておこう。


「えーっと、あ、いたいた、おーいリーナ」

「あ、いらっしゃいヴェルくん」


 周りを見渡して、ここ最近ずっと世話になっているリーナの所へ行く。ギルドに来た時から色々と親切にしてくれて、今ではすっかり顔馴染みになった。

 リーナも俺の姿を確認すると朗らかな笑顔を浮かべてくれて、なんていうのだろうか、仲良くできていると実感して安心というか少し心が落ち着く。


「なあリーナ、なにか新しいバイトはないか?」

「えーっと、実はですね、商業ギルドから通達が来ていまして、ヴェルくんにはアルバイトを斡旋してはいけないと言われているんですよ」

「なんだって?」


 しかし、その言葉に気分は落ち着くどころか垂直に叩き落とされた。

 冒険者ギルドで募集されているバイトは全て商業ギルドが扱って一度整理しており、そこから冒険者に適しているものを選んで冒険者ギルドへと流している。

 両ギルドは互いに協力関係を堅持しており、商業ギルドから通達が来たという事は冒険者ギルドもそれを無視はできない。


「なあリーナ、どういう事だ? なんで俺にバイトを紹介してはいけなくなっているんだ?」

「ヴェルくん、行く先々で大なり小なり問題を起こして何度も辞めさせられてますよね。私たちギルドとしてはヴェルくんが悪い事はしていないと把握しているのですが、商業ギルドではヴェルくんが厄介な問題児と認識されているみたいなんですよ。あそこは信用を何より重んじますから」

「そんな……」


 なんという事だ。まさか、ありもしない悪評が出回ってバイトができなくなってしまうなんて。これじゃ働けないし金を手に入れられないじゃないか。


「リーナ、どうにかできないか? どうしても金が必要なんだ」

「こちらもヴェルくんの誤解を解いているのですが、すぐという訳にはいきませんね。どうしてもお金が必要でしたら、ダンジョンに潜ってはどうですか? 危険なので本来でしたら一人での探索は認められないのですが、ヴェルくんは魔法も使えて装備も一線級のものを揃えているようですし、階層主に挑まない範囲であれば探索しても大丈夫ですよ」


 おお、リーナから一人でダンジョンを攻略してもいいと許可された。これも俺を信頼しての言葉だと思うと嬉しいが、しかし今はもうその必要はない。


「いや、ダンジョンには一人で挑まない。アイナとメトの二人と一緒に行くって決めたからな。俺はもうアイナたちのクランの一員だから、一人で勝手にダンジョン攻略はしないって決めたんだ」


 ダンジョンに初めて行って以降、俺はそれから一度もダンジョンに足を踏み入れてなかった。

 その気になれば、おそらく一人でもオリハルコンクラスぐらいなら容易に到達できる。しかし今の俺は、アイナたち《アイリス・ガーデン》の一員であり、決して一人ではない。だから一人ではダンジョンに行かないし、アイナとメトの二人と一緒じゃなければダンジョンには行きたくない。

 それは聞くと、何故かリーナは嬉しそうな顔をしていた。


「そうですか、良いクランに出会えたようですね。しかしそうなると、ヴェルくんを受け入れてくれるアルバイト先を探す必要がありますね。どこか、ヴェルくんを雇って貰えるアルバイトは……」


 そして、おそらく求人書類か分厚い書類をいくつか取り出した。そこに書かれている内容を何枚も見ていくが、リーナの表情と隣に積み重なっていく読み終わった書類の束を見るに、俺が想像しているのと真逆な結果になりそうだ。


「やっぱり、無いか?」

「そうですねぇ……今あるものは全て商業ギルド経由ですから、それ以外から依頼されているものは……あ」


 難しそうな顔をして書類をめくっていたリーナの手が、ピタリと止まった。そして書類の束から取り出したのは、他のとは異なる一枚の紙。

 他のは全て形が揃えられ正規の書類という形式をとっているのが、リーナが取り出したのは端に破り取った形跡があり、しかもコーヒーかなんかの黒い染みまでが付着している、あきらかにそこらにある雑紙で書きましたというものであった。


「リーナ、それがどうかしたのか?」

「えっと、これはですね、商業ギルドではなくウチに直接きたものなんですが、多少問題があるもので……」

「問題? 危険な仕事なのか?」


 ある程度危険な仕事でも俺なら大丈夫だぞ?


「問題は業務内容より、依頼主の方なんですよね。ギルドが管理している大図書館の司書も務めている優秀な学者なのですが、変わっている性格というか、受けた冒険者は一日も保たずに辞めてしまっているんです」


 試しにと、リーナから紙を受け取る。やっぱりこの黒い染みはコーヒーをこぼしたものだった。少しコーヒーの匂いがする紙を持ち、そこに書かれている内容を読んでみる。



 ──依頼主:アレクネール・リッジメルト

 大図書館内の蔵書の整理と主に雑用。臨機応変に働いてちょうだい。報酬は仕事の出来次第。美味いコーヒーを淹れるなら尚良し。不味いコーヒーを出せば即クビ。



「どんだけコーヒーが好きなんだ?」


 読んでみて、それが最初の感想だった。それ以外にも指摘する箇所が多く見受けられる、そんな内容だった。リーナの言う通り、たしかに変わっている。


「というかこれ、わざわざ冒険者ギルドに直接出すものか? 商業ギルドに持ち込んだ方が適任を選んでくれるだろ」

「私たちもそのように伝えたのですが、商業ギルドだと色々と手順を踏まなければいけないのが面倒らしく、それでこっちに直接出されているんですよ」


 なるほど、変わり者の他にも面倒くさがりのようだ。


「……そうなのか。試しにここで働いてみようかな」

「え」


 しかし、少し興味があった。それに働く場所からして本が多くあるみたいだし、この時代の事も色々と知りたかったところだ。

 まあ、コーヒーもちゃんと淹れる事ができるし大丈夫だろう。これでも料理の腕には自信がある。


「いいんですかヴェルくん? さっきも言ったように、この人はかなりの変わり者ですよ。私としてはあまりオススメしないのですが」

「危険な事をするわけでもなさそうだし大丈夫だと思う。それに今はそこしか働ける場所がなさそうだし、やれるだけやってみる」


 もしそれでも駄目だったら、いよいよアイナとメトに内緒で手持ちの宝石とか売り払うしかないな。


「……わかりました。それでは承認印を押して、その紙を持って依頼主のアレクネールさんに見せてください。大図書館の場所はギルド内のエレベーターに乗って、22階になりますね」


 実はというと、冒険者ギルドの建物は外にも劣らない程の店が溢れている。

 冒険者の命を守る防具や武器、それにポーションといった薬品類など、数多くの店がこの冒険者ギルドの上階である塔の中に入っており、外の市場にも勝るとも劣らない活気が溢れている。たしか全部で24階もあるのかな。

 その移動に用いられるのが、リーナが指し示したエレベーターという乗り物。数人が乗れそうな鉄の箱をしており、どうやら上下に浮力と重力の魔石を用いて各階へと移動している。俺がいた時代にはなかった代物だ。

 エレベーターの中へと入り、右に格納されていた網目状の扉を広げて出入り口を閉める。

 これまで上階に行く用事もなく乗る機会がなかったエレベーターに初めて乗る事に少しドキドキしながら、壁に押し込まれた『22』のボタンを押すと、エレベーターは動き出したのだった。

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