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脳内松たか子との戦い

出てくる人物については敬称略。『カルテット』はいいぞ。

 今期放送中のドラマに『カルテット』(TBS)という連続ドラマがある。これがなかなか面白い。

 どうも私は昔からテレビっ子という奴で、ドラマというものをそれなりに観ている。といっても普段は刑事ドラマが主でそれ以外のドラマは気になったものしか観ない。アニメにしても、ドラマにしても、小説にしても、食わず嫌いが激しい。食べ物はなんでも食べます。

 さて、話を『カルテット』に戻す。このドラマは四人の男女が弦楽四重奏を結成し、軽井沢で一緒に暮らすという一見、よくある恋愛ドラマの類である。もっぱら刑事ドラマ派の私がこのドラマを観るきっかけになったのは出演者に「松たか子」と「高橋一生」の名前があったからで、しかし、ほいほいつられて観てみるとこれがただの恋愛ドラマではなかった。

 まだ観ていない人のためにネタバレを避けていうならばこの四人の奏者はそれぞれが嘘を抱え、その嘘を中心として物語が展開していく。あまり詳しく書くと本題から外れてしまう上になんだか嫌味ったらしい批評家のように見えるため、差し控えるがヒューマンドラマであり、サスペンスのような鋭さと演者の演技が光るとにかく面白いドラマである。

 その『カルテット』の一話にこんなセリフがある。


  愛してるよ。愛してるけど、好きじゃない。


 この台詞は松たか子演じる主人公が夫の話を盗み聞いたときに聞いた言葉として彼女の口から発せられた言葉である。

 私はこのシーンをはじめて見たときに腰が抜けた。そうとしか言いようがなかった。松たか子がいい意味で「恐ろしい」芝居をする女優であるという認識は持っていたが私の脳内に刻み込まれた松たか子メモリーの中に強烈に残されることとなったシーンである。とにかくこのシーンの松たか子は前後も含めて「恐ろしい」。そして「美しい」。

 何度も何度もこのシーンを見返した。そしてなぜか泣いた。それが恐怖であったのか共感であったのかは未だに謎である。

 同じドラマを見ていた人がどう思っていたかは分からない。しかし、私の中では強烈なシーンだった。それまで流れていた柔らかく、楽しい空気から一変した空気感と、何よりもこの台詞が。とにかく強烈で、それは理解が及ばないからではなく、むしろ「あ、なんかわかるな」という意味での記憶の残り方だった。そうした意味では涙の理由は後者だったのかもしれない。

 やはりここでこの言葉の真意を読み解くとなるとそれは趣旨が変わってしまうため、控えることとするがとにかく私の『カルテット』一話はここに集結した。二話が放送されるまでの一週間、ほとんど毎日、我が家のテレビはこの一話を流し続けた。

 自分にとっていいものを観ると創作意欲が湧くというのは本当で、しばし、休みがちだった執筆もちまちまと進められるようになった。このドラマはそれほどまでに衝撃的なものだった。




 ――と、ここで終わることができれば「いいドラマに出会えた! みんなもぜひ!」と結ぶことができるのだが。




 そう、『カルテット』一話はその衝撃のあまり、私の脳裏にこびり付き続けた。

 あまりにも好きすぎて、松たか子の上記の台詞が何度も何度も頭の中で繰り返されることになる。たまの休みに昼寝から目が覚めると突然松たか子の声が告げる。


  愛してるけど、好きじゃない。


 観すぎなんだよ。気に入ったものがあるととにかく、繰り返し見てしまうのは昔からの私の癖である。『魔法少女まどか☆マギカ』の劇場版も劇場に四回ほど足を運んだ上でDVDを購入してから一ヶ月くらいは狂ったように観続けていたし、『RED』というアクション映画もDVDを購入した嬉しさからか半年くらい、決まった日に本編を流すということを半年くらい続けていた。

 そして決まって好きなシーンが脳内で繰り返されることになる。気を抜くとお気に入りシーン総集編が頭の中で流れるのだ。

 だからいつものことである。私はすっかり、そう油断していた。

 しかし、この総集編の脳内編集作業において『カルテット』一話の衝撃による障害が生まれた。

 先に述べたばかりだが、私の一話目の感想はとにかく「松たか子ヤバかった」なのである。そしてその「ヤバかった」の集大成が上の台詞なのである。

 脳内編集部はここでこう、ミスジャッジを下した。脳内に流すべきはこの部分だけである、と。

 ちなみに当たり前だが、一話は他にも色々ある。満島ひかりが可愛いとかEDが椎名林檎だとか。

 しかし、私の脳内はまるで全てを忘れたかのように松たか子の台詞を流し続けた。

 これが、まだもう少し明るい台詞ならいい。しかし、どうだろう。『カルテット』を観た人なら分かると思うがこのシーンの松たか子はとにかく怖い。怖いし暗い。ドラマの流れとして観るならまだしも突然、横で脳内松たか子がこんなことを言い出した日にはびっくりして動けなくなる。「何事?」って感じである。

 特に困ったのは恋愛ゲームをプレイしていたとき。無課金で、とちまちまと毎日プレイを続け、やっと好感度が溜まって楽しくデートをし終えたところでやっぱり脳内松たか子が告げるのだ。


  愛してるけど、好きじゃない。


 私が悪いみたいに言わないでほしい。これは正直勘弁してほしかった。いくら私が松たか子が好きだからと言って、これは許さざる暴挙である。金を積めばよかったのか。ニトロプラスの『僕と彼女と彼女の恋』のシナリオ並に勘弁してくれって感じである。確かに色んな女の子を攻略していますけども!(知らない人はプレイしてみて欲しい)

 五話が終わった現在も、私の脳内にはやはり、踊って歌いながら城を建てるわけでも、検事をしているわけでも、生徒を淡々と追い詰めるわけでもなく、自らに『好き』を向けられていなかった松たか子が住み着いている。

 しかし、五話にてこの台詞を聞いた瞬間、新しい仲間が加わった。


  大好き、大好き、大好き、大好き……殺したいって!


 そう叫ぶ、吉岡里帆が住み着いている。

 しばらく、恋愛ゲームはできない。少なくとも、『カルテット』が終わるまでは。血にまみれたEDを観ないためにも。

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