最終話:旅立ち
――5日後――
レイジは、村を出て波動至上主義国家「ガルド」へ向かっていた
――5日前、レイジが村へ戻ると、孤児院の異常に気付いた村人たちが大騒ぎしており、レイジの姿を確認すると一斉にレイジを心配する声が投げかけられる。
「レイジ君!? 無事だったんだね!? 大丈夫かい? 孤児院で何があったか、話せるかい!?」
「……先生が、僕を……守って、男の人から助けてくれて……でも……」
「男!? 誰かが来たんだね!? それで、ヴェルマーさんは!? まだ奥にいるのかい!?」
「……せ、先生は……その人から僕を守る為に……死んで……しまいました」
レイジは自らの口からヴェルマーが死んだことを伝え、枷が外れたかのように泣き出す。村人たちもこれ以上今のレイジから詳細を聞くのは無理だと判断し、レイジの今後をどうするか話し始めていた。
しばらくレイジのこれからの話をしていると、ハチノキ村の村長「レイテス」が、
「レイジ君のことは、私にまかせて貰えんか。もしヴェルマーの身に何かがあった時には、孤児院の子は私が面倒を見ると言っておる」
「そうですか、それでは村長にレイジ君ことは任せます。――出来れば、今回の孤児院襲撃についても、レイジ君から聞いて貰えるようお願いします。」
村人達は各々自宅に帰っていく。
「レイジ君、とりあえず今日は私の家に来なさい。ちゃんとレイジ君のベッドもあるから、心配せずとも良いぞ。夕飯はシチューの予定じゃが、好き嫌いはあるか?」
「ひっく、うぇっく……せ、先生が、好き嫌いは駄目って言ったから、何でも、食べれます」
レイテスはレイジの頭を優しくなでながら微笑むと、レイジの手を引き、自宅へ帰った。
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――レイテス宅――
「――レイジ君!? 良かった! 無事な子がいたのね、大丈夫!? 他の子とは一緒じゃないの? ヴェルマーさんはどこに――」
「母さん、その話、今はやめてくれんか。」
レイテスの妻、「フェルマ」がレイジに何が起こったのか聞こうとするが、レイジがその問いに身を固くしたことに気付き、レイテスが遮る。フェルマも一瞬戸惑ったが、すぐにレイテスの言葉の意味を理解し、レイジに別の言葉をかける。
「レイジ君、疲れたでしょう? とりあえず、お風呂に入る?」
「ありがとうございます。でも、着替えが……」
「お着替えなら心配しないで、孫が帰ってきた時のために子供用の服も置いてあるの。」
「じゃ、じゃあ入ってもいいですか?」
「ええ、どうぞどうぞ! お風呂場まで案内するわね、一緒に入ってあげましょうか?」
「いや、それは……大丈夫です」
レイジは風呂場まで案内される。木で出来た浴場は一般家庭の風呂場よりも大きく、客人が来ても対応できるように設計されていた。大体、3人くらいは一度に入っても大丈夫な大きさだ。孤児院の風呂場も多きかったが、木で作られた風呂場はレイジには初めてだった。
「お客さんにも評判なのよ、このお風呂場、ゆっくり浸かりなさいね? お着替えは持ってきておくから。」
「はい、ありがとうございます」
「お湯加減を変えたいときは、水の魔法石をお湯に入れなさいね? お父さん向けに熱くしてるから、最初に入れておいた方が良いかもしれないわ」
フェルマはそう言った後、レイジの着替えを取りに行った。その間にレイジは服を脱ぎ、風呂に入る。
「・・・っつ」
予想外の熱さに、レイジはたまらず手を引っ込める。
先生も熱いのが好きだったけど、レイテスさんはもっと熱いのが好きなんだ……そういえば先生になんでそんな熱いお風呂に入るのって聞いた時、年を取るほど熱さを感じなくなるからって言ってたっけ。
水の魔法石を3つ入れると、やっとレイジにとって丁度良い温度になった。ちなみに、火の魔法石も常備されている。火の魔法石も同様、湯の中に入れるだけで水温を上昇させることが可能だ。
湯船に浸かり、今日起こった惨劇を振り返る。狂人のヴェルフェドーラへの襲撃。生き残りである自分を殺害しようと襲い掛かってきたこと。自分を守る為、狂人を倒すために命を落としたヴェルマー、そしてその戦いで波動を信じることを説かれたこと――
他の皆はどうなっちゃったんだろう、やっぱり死んじゃったのかな。レイギスやデイヴィスさん、他の皆、大丈夫かな。ちゃんと後でレイテスさんに聞かないと。
「レイジくーん? お着替え置いておくわねー? タオルも置いておくわよー」
「ありがとうございます。 もうすぐ上がりますー」
「わかったわ。ご飯の準備、しておくわね? 」
――そういえば今日ホントはお家でシチュー食べる予定だったんだっけ。なんでこんなことになっちゃたんだろう。――だめだ、今日のこと考えるだけでどんどん気分が悪くなっちゃう。
レイジはこれ以上今日のことを考えるのはやめ、体を休めることだけに専念することにした。しばらく浸かった後、体を洗い、脱衣所にて体を拭く。いつもと違うタオルの感触に違和感を覚えるが、他所の家庭なので仕方がない。フェルマが用意してくれていた服に着替え、リビングに戻った。
「じゃから今日はそのまま――おお、レイジ君。さっぱりしたかね? ご飯は出来ておるぞ、食べれそうかい?」
「はい、気持ち良かったです。ご飯も食べれます。……どこに座れば……?」
「おお、すまんすまん。ここに座っておくれ。」
レイジはレイテスが自分のことについて話していたことに気付いていたが、気付いていないフリをした。レイテスに案内された席――レイテスの隣に座りシチューを食べる。孤児院の味付けよりも薄めな味だが、レイジ好みの味付けだった。
「フェルマさん、とっても美味しいです。」
「あら、ありがとう! おかわりあるわよ? 食べる?」
「じゃああと1杯だけ……」
レイジはご飯を食べ終わると、寝室に案内された。客人用の部屋だが、いつ来訪されても良いようにフェルマが定期的に清掃を行っており、非常に清潔な部屋だ。ベッドに化粧台、執筆用の机と簡素な部屋ではあるが、一つ一つの家具がそれなりの高級感を出している。
「今日は大変だったでしょうから。ゆっくり休みなさい? これからのことは明日話せば良いから。」
「わかりました。 おやすみなさい。フェルマさん」
「おやすみなさい。……あ、そうだわレイジ君」
「はい」
「おねしょ……しないわよね?」
レイジは苦笑し、それを否定した。眠れないと思っていたレイジだが、ベットに横たわるとモノの2,3分で眠りに就く――
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――次の日の夜――
レイジは昼過ぎまで寝ていた。昨日の肉体的、精神的な疲労はレイジが思っている以上に高く、それを回復させるためには多くの睡眠が必要だったのだ。レイテス夫妻もレイジを気遣い、無理矢理起こそうとはしなかった。
「おはようございます、フェルマさん」
「あら? おはようレイジ君、よく寝たわね」
「すいません、少し寝すぎてしまいました」
「いいわいいわ、大変だったんだもの。それに、寝る子は育つって言うじゃない? 今からご飯作るわね」
フェルマと挨拶を交わし、朝食、もとい昼食の支度を待つ。
「フェルマさん、レイテスさんはお仕事ですか?」
「そうね、昨日のことも夕暮れのことだったからちゃんと調べられてないらしいの。多分今日はそのことだと思うわ。もうすぐ帰ってくると思うのだけれど」
フェルマはそう言いながら軽く目玉焼きを作りながらパンを窯で焼く。レイジはその動作を眺めながら、昨日のことを再び思い出す。
――そう言えばあの男の人、皆殺したって言ってたような。やっぱりアイツに皆殺されちゃったのかな、これから僕はどうなるんだろう。一人で暮らして行かなきゃいけないのかな。
レイジが再びネガティブな思考に更けていると、
「はい、軽くだけど朝ごはんよ。 変なこと考えてたみたいだけど、大丈夫よ。 これからのことも、ちゃんと話しましょう」
「はい、心配かけてごめんなさい。……いただきます」
レイジが落ち込んでいることに気付いたフェルマは、レイジを気遣う声をかける。そして、レイジはこれ以上ネガティブな感情に浸らないよう、朝食に手を伸ばした。
――朝食を終え、フェルマの家事を手伝っているとレイテスが帰ってくる。そして、昨日のこと、これからのことを話し合うため、リビングに集まった。
「さてレイジ君、わかっていると思うが昨日のことについていくつか聞きたいことがあるのじゃが、話せそうかな?」
「はい、大丈夫です。僕もあまり知りませんが、知っていることはなんでも話します」
「すまぬな……では、まず昨日起こった孤児院襲撃事件、いつ起こったかわかるかい?」
「いえ・・・自分は修行の為に村を走っていたので。いつあの男の人が来たのかはわかりません」
「なるほどな、それのおかげで助かったということか、不幸中の幸いじゃな」
「あの……レイテスさん、他の孤児院の人達は……皆……死んでしまったのでしょうか」
レイテスはしばらく沈黙し、口を開いた
「――残念じゃが、君ともう一人以外は、皆孤児院で殺されておった」
「そう……ですか」
やっぱり皆、死んじゃったんだ。あれ?でもあと一人って?
「レイテスさん、あと一人って? 僕以外にも生きてる人がいるんですか!?」
「いや、厳密には消息不明というのが正しいじゃろう。死体も無いが、姿を昨日の夕方以降誰も見ておらん」
「……先生のことですか?」
「ヴェルマーの死体は確かに無かったが、墓地の状況を見ると、大体の見当は付く。ヴェルマーのことを言っているわけでは――」
「じゃあ一体誰が!? 誰が助かったんですか!?」
「――デイヴィスじゃ」
「デイヴィスさんが!? 良かった……でも、姿が見えないんですよね?」
「――おそらく、もう彼女は戻ってこないじゃろう。どこかで元気で暮らしているはずじゃ。では、次の質問を」
これ以上話を続けたくなかったのか、レイテスは話を切るように次の質問をレイジに投げかける。
「レイジ君を狙ってきた男とヴェルマーが戦ったと言ったが、男はどうなったのかわかるかい?」
「はい、多分、先生と一緒に死んだはずです」
「そうか……あの技を使う程苦戦した相手じゃ、まだ生きているかもしれんと思ったが、大丈夫そうじゃな」
場の空気が更に重くなる。やはりまだレイジは、ヴェルマーの死を目のあたりにしたショックを克服しきれていなかった。
「――レイジ君、すまんがまだ聞きたいことはある。いいかね?」
「はい……大丈夫です」
「すまぬな、レイジ君はその襲ってきた男について、何かしっている事はないかね? 彼がなぜヴェルフェドーラを襲ったのか、どこから来たのか。なんでもいい」
「……いえ、僕はその人ととは話さなかったので――あ」
「何か聞いているのかね!?」
「確か、先生と男の人が話してるとき、先生がどこから来たのかって男の人に聞いて、男の人は、無属性狩りって所に依頼されたって言ってたはずです」
「なっ……」
無属性狩り、というワードを聞いた瞬間、レイテスとフェルマの顔が硬直する。
「レイジ君、それは……本当かね?」
「はい、間違いない、です」
「あなた……」
「ふむ……」
レイテスとフェルマは無属性狩りの活動内容を知っている、それは、精霊から愛を受けれなかった者を救済する為に肉体から魂を解放させるというもの。つまり、無属性の人間を殺すのだ。今は殆ど活動していないと二人は聞いていたが、今再びこの名前を耳にし、驚きを隠せなかった。そして二人は、レイジが無属性であることもヴェルマーから聞いていた――
「あなた、どうしましょう。このままでは村が……レイジ君も……」
「わかっておる、事態は予想以上に深刻じゃの。とならばあやつが姿を消したのも納得が行く。まさかまだ信者がおったとは……」
「あの、二人とも、大丈夫ですが? 顔が……その、凄く怖くなってます」
「おお、これはすまんの――レイジ君、君を襲った男の仲間が、またこの村に来るかもしれん」
「――!?」
「落ち着いて聞いて欲しい、レイジ君がまだ生きていると知ったら、奴らは必ずまたここに来る。レイジ君はどこか別の国……いや大陸に逃げる必要があるじゃろう」
「別の大陸……ですか。僕一人で?」
「そうじゃの、村の憲兵数名と獣舎を貸そう。場所はガルド大陸じゃ。レイジ君が暮らせる場所のアテがある。なるべく早く……できれば明日には出発させておきたい」
「なんで、大陸なんですか? 他の国、村に逃げれば大丈夫だと思うのですが」
レイテスは再び沈黙した。今までより長い時間、その沈黙を保つ。それに耐えかねたフェルマが喋ろうとすると、それをレイテスの声が遮る。
「レイジ君、君は自分に魔法の才能があると思うかね?」
「――いえ、実はどの魔法もいまだに使えません……それでも、僕には波動があります」
「――そうか、実はなレイジ君――」
――今での会話よりも強い口調で、自分には波動があるとレイジは言い切る。その言葉を聞いたレイテスは、自分がこれから言うことをこの子は受け止めてくれると信じ。レイジに無属性が無属性であること。無属性は重度の障害として認知されている事。無属性の人間が侮蔑の対象である事。唯一ガルド大陸はその差別が無い事をレイジに伝えた。
「そう……ですか、だから僕がいる孤児院を狙ったんですね。僕が、いたから」
「レイジ君、自分を責める必要はない。今回の件は誰も予想できなかったことじゃ、仕方無い、そう言うしかあるまい。じゃが、次は予想できる。私はそれを防ぐために最善を尽くさねばならないのじゃ、村のためにも」
「……」
レイテス、レイジに村を出ていけと言っているのと同じだ。それをレイテスは理解しているし、レイジも自分が村にいてはだめだと言うことは先ほどのレイテスの話で理解している。が、自分のせいで皆が死んでしまったというショックに、言葉を出せないでいた。
「――明日、村を出ていきます。獣舎と僕を連れて行ってくる人たちの準備を、お願いします」
「すまんの、レイジ君。本当に、すまない」
「僕がこの村にいると皆に迷惑がかかってしまうなら、出て行かないと」
「レイジ君……ごめんね……」
フェルマが涙を流していた。その涙は、レイジを追い出すという選択をしたレイテスに対して、同調してしまった自分を恨む涙だった。
「明日の昼、出発できるよう準備を整えておく、レイジ君も準備をしておきなさい。服はこの好きな物を買うと良い、お金ならヴェルマーから預かっておる」
レイテスは金庫を開けると、大量のゴールドが入った袋をレイジに見せた
「ヴェルマーから預かっておった金じゃ、子供にはちと多すぎるかもしれんが、これを全てレイジ君にやろう。ワシからのせめてもの償いじゃ、受け取ってくれるな?」
「ありがとう、ございます……」
「――それでは、ワシは明日の準備をさせて貰う。母さん、レイジ君の夕飯の準備をしておいてくれ」
「わかりました。……レイジ君、好きな物、食べさせてあげるわ。何が食べたい?」
「……コロッケが、食べたい、です」
「わかったわ、お留守番、お願いね」
そういうとフェルマも家を出て行く、レイジは一人になると、ゆっくりと客人用の寝室に戻り、ベッドに深く腰掛けた。
「僕のせいで、皆が……」
レイジはそう何度も呟きながら、目から涙を溢れさせた。
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――次の日の昼、出発前――
「レイジ君、ガルド大陸の船着き場までは彼らが一緒に着いていってくれる。着いたら、ここを訪ねるのじゃ」
レイジにガルド大陸の船着き場「ウェイル」の地図を手渡す。
「ここに居る老人にヴェルマーの名前を言えば、きっと大丈夫じゃ」
「それでは、出発させますよ」
獣舎の御者が言う。
「わかった。レイジ君、達者でな。――波動を信じ、強く生きるのじゃぞ」
「――!?なんでその言葉を……」
「それはここに帰ってきた時に教えるとしよう。時が経ったら、また帰っておいで」
「レイジ君、いろいろ思う所はあるでしょうけど、自分を責めないで。いつでも待ってるから」
「レイテスさん、フェルマさん、ありがとうございました。村の皆にも、伝えて下さい。……いつか、強くなったら……皆に謝りに帰ってきます」
別れの言葉を交わし、レイジはハチノキ村から去った――
この物語は、一人の少年が、波動を信じることを自分の生きる道と定めた時の物語。この少年にこれからどんな試練、出会いがあるのかは、また別のお話。
6話で完結とさせて頂きます! 最終話結局2話分のボリュームになってしまいました(汗 この物語は、これから書いていく長編小説の外伝の様な形となっています。何分小説に関しては素人なもので、素人が長編物をいきなり書いても成功するはずがないだろうと思い、短編連載をまず最初に練習として書いた次第です。 レイジがこれからどうなったのかについては、自分の次の作品を待って頂けると幸いです。
※レイジは主人公ではありません
お楽しみに!




