僕の生きる道
レイジがヴェルマーの波動が尽きかけているかもしれないと思った理由は、先ほど狂人の武器と腕を粉砕した強力な波動拳「波動拳・極」をヴェルマーが使ったからだ。その波動拳には異常なまでの波動が練り込まれており、使用した際に放出した波動量は波動の道を歩み始めたばかりのレイジですら容易に感じ取ることが出来た。それほど強力な波動拳を使って、ヴェルマーの波動量は減らないのだろうか?
波動はマナよりも遥かに早いスピードでその量を回復させることはできるが、狂人が今もなお撃ち続けているウイルガが原因で波動を回復させる暇すらないのだろうか。もしかしたら、今出している波動壁を出すのですら精一杯なのかもしれない。
「――? ――ッ!?」
その予想を確信に近づける異変をレイジは目にしていまい、思わず息を飲んだ。
――波動壁が薄くなり始めている……?
出してしばらくの波動壁はハッキリとした薄藍の色だったはずだ。それが今は半透明になり、波動壁越しに反対側の墓石まで見える程に薄くなってなってしまっている。
狂人のマナが尽きるのが先か、ヴェルマーの波動量が尽きるのが先か。お互いの様子を見ると、どう贔屓目に見ても劣勢なのはヴェルマーの方だ。狂人は自棄になってはいるが、マナ切れを感じさせるような雰囲気は一切感じ取れない。一方、ヴェルマーの方はこうしている内にもどんどん波動壁が薄くなってきているのがわかった。
「――レイジ、聞こえているな? 返事はしなくていい」
「――!」
「村の村長を訪ねなさい。レイジが生きる為の手助けをしてくれるだろう」
「――」
「私は、これから奥の手を使う。 なぁに、あの男はそれで倒せるだろう」
「――」
「――最後に……レイジよ、波動を信じるのだ。レイジには魔法なんぞ使えなくとも波動がある。波動を信じ、強く生きるのだ。先生との最後の約束だ。」
「――だ……嫌だ。先生……死んじゃヤダ……」
「私の波道、最後まで見届けてくれ――破天・波動撃」
ヴェルマーの体が薄藍色に光り始め、じわじわとその輝き大きくなっていく。ヴェルマーはもう殆ど見えなくなった波動壁を消し、正面からウイルガの集弾を受ける形となり体に直撃する――が、ヴェルマーはビクともせず、狂人に向かって走り出した。
「貴様だけは命に代えても殺さねばならん! 私と共に生きてきた彼達の恨み、このヴェルマーが晴らしてくれよう!」
「うるさいィィィィ!!! うるさいうるさい!!!!!! ウイルガァ!ウイルガァ!!!!」
狂人は尚もウイルガを唱える。何発かは外しているものの、その殆どはヴェルマーに直撃する。――それでもヴェルマーが足を止めることは無い。被弾しながらも狂人に近づき、男の目の前まで来ると、男に体当たりを行った。
「ああああああああああああ!!!!――あ? 自爆?――」
「今更気付いたか、だがもう遅い。私とお前は、共に消えて無くなるのだ」
閃光と爆発音が墓地中に響き渡り、ヴェルマーの波動撃の余波がレイジにも襲い掛かってくる。その小さな体が波動撃による風圧で今にも吹き飛ばされそうになるが、墓石をしっかりと掴みヴェルマーとの約束を守り抜く――
あの衝撃では2人とも無事では無いことはレイジにもわかっている。それでも、それでもレイジはヴェルマーが死んでしまう可能性だけは考えたくなかった。自分を育ててくれた父の様な存在、ヴェルマー自身は否定していたが、肉親の記憶が無いレイジにとってはヴェルマーこそが自分の本当の父親なんだと、レイジは思っていた。
――大丈夫、先生ならきっと大丈夫のはず。
閃光が次第に治まっていき。ぼんやりとではあるがヴェルマーと狂人がいたであろう場所が見えるようになるが、閃光の中その場所を見続けていたレイジはまだ目が慣れておらずその場所を上手く視認することができない。思わず目を擦り、再びその場所を見た――
――誰も居ない?
二人がいたはずの周囲には、大地以外の全ての物が消えていた。その大地も二人がいたはずの場所を中心にして抉れており、何物も確認することが出来ない。二人がどこかへ行ったのかと周囲を見渡すが、そんな気配も一切感じられなかった。
「……先生? 先生どこにいるの?」
ヴェルマーを呼ぶ。が、その声に返事を返すものは誰一人てしていない。
――先生、死んじゃったの?
レイジの考えは正しかった。ヴェルマーは自身の残りの波動を全てぶつけるために、自爆と言う形を取ったのだ。ヴェルマーの波動量は底を尽き始めており、精霊からの愛も狂人にダメージを与えられる程には恵まれていない。それ故、ヴェルマーは狂人に残りの波動を確実に男に当てる必要があった。
ヴェルマーはレイジを狂人の手から救うことには成功したが、その代償として払ったのは自身の命。
「先生、なんで死んじゃうの……? 魔法の使い方、教えてよ……」
レイジはヴェルマーが居たであろう場所まで歩くと、泣きながらそう呟いた。あまりにも唐突すぎる別れ。これから先生に魔法の使い方を教えて貰って、次こそレイギスに勝つんだ――そう思ってドアを開けたのに、なぜ。
「ひっく、ひっく……――!? 先生?」
――ふと、レイジはヴェルマーの存在、いや、ヴェルマーの波動を感じ思わずまたヴェルマーを呼んだ。もちろん返事は無い、返事は無いが空気中に残るヴェルマーの波動が、確かにレイジには感じ取れた。強く、それでいて優しい薄藍の波動。
レイジはヴェルマーと最後にした約束を思い出す。『波動を信じ、強く生きろ』――
「強く、生きなきゃ……」
レイジは先生が死んだことを、ヴェルマーの残した波動によって完全に理解した。そして、ヴェルマーがなぜこの戦いに目を背けるなと言ったのかも。
ヴェルマーはこの戦いで魔法を使わなかった。もしヴェルマーが魔法を使っていれば、ヴェルマーは生きていたかもしれない。それなのになぜヴェルマーは魔法を使わずに波動のみで戦ったのか。
「波動を信じ、強く生きろ」
それは、レイジが波動を信じることが出来なくなっていたからだった。ヴェルマーはそれに気付き、この戦いで波動の強さを証明するために自ら縛りを設け、この決死の戦いに乗じたのだ。ヴェルマーに自分の魔法の才能に微塵の期待もしていないことにショックを受けたが。その感情を遥かに上回る感情が、レイジに湧き上がる。
「先生との約束だもん。絶対守らないと」
レイジはまだ自分が無属性であることに気付いていない。気付いていないが、これから先、使えるかどうかすらも分からない魔法を覚えるよりも、ヴェルマーに教えられた波動の道を強く進んで行こうと心に決めた。それがヴェルマーとレイジが交わした、最後の約束。それを守る為に、そして、強くなるために。
「村長さんに全部伝えなきゃ……さよなら、ヴェルマー先生。――さよなら、お父さん」
レイジはヴェルマーに最後の別れを告げると、孤児院を襲撃されたこと、ヴェルマーが襲撃者を倒すために命を落としたことを村に伝える為、墓地を後にした――
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ごめんなさいまだ続くよ!! 次で本当に最後です!




