ヴェルマーVS狂人
紫髪の男がヴェルマーにその丸々とした体からは予測できない超スピードで襲い掛かる。肩甲骨を極限まで締め切り、手を後ろに思い切り引いており、両手には彼の武器であろう出刃包丁。一撃でも当たれば間違いなく致命傷になるその大ぶりな一撃が、ヴェルマーに襲い掛かる。
「狂人よ、スキがありすぎるぞッ!!! 剛・波動拳!!」
ヴェルマーは紫髪の男の攻撃を避けるのではなく、冷静にあえて前にステップすることで直撃のタイミングをずらす。そのままカウンターの要領で「剛・波動拳」を懐にぶち込み、男を墓石に直撃させるよう吹き飛ばした。
「波動連弾!!」
ヴェルマーは追撃する形で小型の波動弾を連射する。小型と言ってもレイジの波動弾の2~3倍は大きい波動弾だ、それを10発近く連続で男がいるであろう場所に集中的に打ち込み、男の周辺には砂埃が舞う。
「狂人よ、休むな。貴様がこの程度では死なないことは先ほどの戦いでわかっている」
砂埃が落ち着き、狂人が再び姿を現す。レイジが見る限りは、あの攻撃で死なないにしても大きなダメージを与えているだろうとの確信があった。そう思わせる程ヴェルマーの波動拳、波動弾の威力は強大だった。しかし――
「―― もー! 今ので死んでくれれば直ぐ追いかけられたのにー!」
狂人は掠り傷のようなモノしか付いておらず、先ほどのヴェルマーの攻撃がまるで嘘だったのかのように男はダメージを負っていなかった。本来であれは致命傷になることも十分に考えられる猛攻を耐え、自分が全く攻撃を受けていないような口ぶりで狂人は喋っていた。
「今度はこちらから仕掛けさせてもらう! ――流波動!」
ヴェルマーの体が薄藍の波動に包まれる。レイジはこの技を知っていた、体に波動を纏い、打撃力と防御力を上げることが出来る技だ。波動量が少ない人間は、体を纏えられる程の波動を持っていない為レイジには扱うことはできないが、並の波動使いなら誰でも使える基本の技とも聞いており波動を多く溜められるようになったら真っ先に習得したい技だ。
ヒュウ
風の切る音が聞こえた。ヴェルマーがいた場所には砂埃が舞うだけでヴェルマーは居なくなっている。レイジがどこに行ったのか探そうとすると、ヴェルマーが居る場所は衝撃音が伝えてくれた。
ゴォン
音は狂人がいた位置から聞こえ、そこを見る。どうやらヴェルマーが瞬間移動でもしたかの様なスピードで狂人に向かったらしい。が、残念ながら加速した拳撃は男の持つ出刃包丁によって防がれてしまっていた。
「おじさんやっぱり強いねー! もっと弱いって聞いてたんだけどー?」
「貴様は誰に依頼されこのような行いをしている、答えろ」
狂人が少しずつ、少しずつではあるが押し負けている。人間離れした怪力ではあるが、どうやら波動を使えるわけでは無いらしい。素でこの力だということには驚きだが、どうやら戦闘能力自体はヴェルマーが格上のようだ。
「えー? だめだよー! 教えるなーって言われたもーん!」
「どうせ私を殺すのだろう? 冥土の土産に聞かせてくれてもよいではないか」
「うーん……、仕方ないなー! おじさんの頑張りのご褒美として教えてあげるー! 僕ってヤサシー!」
押し込まれながらも狂人はその不気味な程に明るい口調を一切変えない。先ほどのヴェルマーの猛攻をほぼ無傷で耐えた耐久力の自信からだろうか。
「今回僕にお仕事を頼んでくれたのはねー! 無属性狩りっていうとこー! おじさん知ってるー? 僕知らなーい!」
「無属性……狩り…間違いないな?」
「ホントだよー! 僕ってスッゴク頭良いからー! なんでも覚えてるのー!」
「――話は終わりだ。ここからは……本気で行かせてもらうッ!!! 双・波動拳!」
ヴェルマーの体を纏っていた波動は両手に集中し、手の空いていた左も出刃包丁壊さんが為に加勢。流波動の時とは比べ物にならない攻撃力の高さに、出刃包丁が悲鳴を上げる。
「そんなに強くしないでよー! 壊れちゃうじゃーん! ――ウイルガ!」
流石にこのままでは武器が折られると判断したのだろう、狂人が風の基礎魔法「ウイルド」の上級版ウイルガを唱える。周囲の大気が男の下腹部に集中し始めるのを見ると、直撃するのを避けるためにヴェルマーは双・波動拳での力押しによる武器破壊を断念し、大きく後ろに引き下がった。
ヴェルマーがまだ着地していない段階で、大気の集合体がヴェルマー目掛けて音速とも言える程の速さで直進する。ヴェルマーに直撃するのは明らかだった。音速の風の刃の集合体が、ヴェルマーと激突する――
ヴェルマーの苦しむ姿は見たくない。そう思ったレイジは思わず目を背けたくなる。――が、実際に目を背ける前にレイジは先ほどしたヴェルマーとの約束を心の中で強く唱えた。
――何があっても、目を逸らさない。
先生が僕に初めてしてくれた約束を破るのだけは絶対に嫌だ。それに、先生がこれだけで負けるはずがない。だから、ちゃんと先生の戦う所を見ないと!
レイジはヴェルマーがなぜこの約束をしてきたのかはわからない。わからないが、それでもこの約束は絶対に守ると心に決めていた。この約束を破ったらヴェルマーがこの戦いに負けるとすらレイジは思っている。自分を強く持ち、これだけは守らねば。
「――これが、波動の護りの基礎、波動壁だ」
直撃したかのように見えたウイルガは、ヴェルマーの波動の壁によってその音速を完全に止められていた。次第に大気が周囲に分散していき。やがて完全にウイルガは消滅した。
「どんどんいくよー! そぉーれっ!」
男は両手を水平にし、その場で回転を始める。風の魔法を利用した回転であろうそれは速度を加速度的に上げていき、風を切る音が聞こえた瞬間勢いよくヴェルマーに突進する。両手に刃物を持った殺人駒だ。先ほどのウイルガ程の速度では無いが、明らかに人間が出せる早さでは無い。
「ならばその回転を一瞬で止めるだけの強力な一撃をぶつければ良いだけの事。 波動拳・極!」
波動を纏った拳が眩しく光る。それ正拳突きの構えで襲い掛かってきた殺人駒の刃物であろう場所に凄まじい覇気を持って突き出した――
拳が殺人駒に触れた瞬間止まる。紫髪の男の武器の片割れがヴェルマーの拳によって破壊され、更には武器を支えていた腕を不自然に拉げさせる。男の肩にまで拳が到達すると、男は苦痛に顔を歪ませながら自らが襲い掛かってきた際の速度よりも更に早いスピードで吹き飛ばされた。
「貴様の我力、見切った。一定量の攻撃力に達しない攻撃はすべて無効化される、であろう?」
ふぅ、と息を吐き男の不自然なまでの耐久力の高さの理由の正体を男に言う。が、男はそれに答えない。答える変わりに発した言葉は今までの余裕のある口調から一転、怒りと痛みの混じったものだった。
「ク、ソ、ジ、ジイィィィー!!!!! いてぇ!!!! 痛いんだよオォォ!!!! 腕がアァァ!!! あああああああああああ!!!!!」
「貴様が殺してきた人達の痛み、少しは理解したか、狂人め」
男の頭上の周囲に複数のウイルガが発生し、ヴェルマー目掛け次々と襲い掛かかる。ヴェルマーはそれを波動壁で防ぐ。男は自棄になったのか次から次へとウイルガをヴェルマーに飛ばしていた。
「死ねよォォォ!!!! ウイルガァ!!! ウイルガァ!! ウイルガウイルガウイルガァァァ!!!!」
それは男の無駄な足掻き、実際男もこれが何か意味を成す行動だとは思っていなかったが、それでもこの怒りをヴェルマーにぶつけざる終えない。何しろこの男にとって痛みと言う感覚は我力を手に入れて以来のことだったからだ。久しぶりの痛みという感覚に、男は完全に我を失っていた。
「……っく」
が、意外にも男の思考停止攻撃にヴェルマーが苦渋の顔を見せる。ウイルガの威力が異常に高いわけでもない、むしろ先ほどの単発ウイルガよりも劣っているであろう連撃になぜヴェルマーはこの戦いで初めて見せる負の表情をしているのだろうか――
――波動が尽きかけている?
レイジの頭にこの状況で、あまりにも恐ろしい考えが過った。
バトルシーン書くの楽しいですね!




