悪との遭遇
第3話です。本来この話数で完結するはずだったのですが、あと2話程続きます。
――3ヵ月間毎日波動弾の修行をし、レイジは波動弾を10㎝の更に半分の5㎝の球体に、速度は相変わらず遅いが、威力は薄い木板程度なら貫通できる様になった。溜め時間も小さくすることで解決……いや、波動弾の作成に慣れたこともあり作成スピードはむしろ速い部類だろう。波動量も波動弾に全ての波動を割く必要が無くなったので、連射はできないが5秒間隔程度なら撃ち続けられるようにまで成長していた。
模擬戦闘当日、相手は同い年のレイギスだ。運動神経は良いとは言えないが、火属性の魔法を扱うのに慣れており、あまり人を褒めないヴェルマーが「火の魔法に関しては優等生」と評する程――
波動で魔法に勝てるか試す絶好の相手だ、不足は無い。
「それでは、始めッ!」
模擬戦闘が始まった――
―――結果は惨敗、自分の波動弾は一切通じず、肉弾戦もレイギスの放つ「フレア」によって完璧に封じられた。波動で魔法に勝てるわけが無い、少なくとも今の自分では。――そう思わせるには十分な試合内容だった。
敗者の罰として村を一周し、ヴェルフェドーラへ帰る。走りながら出た結論は「魔法を使えるようになれば皆に勝てる」ということ。先生に魔法を使いたいことを伝えればきっと教えてくれるはず。そう信じて孤児院へ帰ったのだが……
――オカシイ、この時間になれば必ず夕飯の準備の音や他の子達の声が聞こえてくるはず。はずなのにその音は聞こえない――
不思議に思いながらもレイジはヴェルフェドーラの正面扉を開ける――
ドォン――
開けると同時に、2階の方で大きな衝撃音が聞こえた。普段の孤児院であれば、絶対に聞くことの無いであろう異音。レイジはまだこの音の正体に気付けない――が、それでも人の気配が無いことと、鉄の腐ったような臭いが孤児院に漂っていることもあり、異常な事態だと理解する。先生に助けを求めなければ。
「先生――」
ドォン――
呼ぼうとする声を更に大きな衝撃音がかき消す。その音と同時にレイジから10メートル程離れた場所の天井が崩れ落ちる。突然の事態で思わず孤児院から逃げようとするが、足が恐怖によるものか上手く動かない。なんとかその場から逃げようと、体を落とし匍匐前進の体制で腕のみの力で逃げようと試みる。
――そしてまた突然、先ほど落ちてきた天井付近から音が聞こえてきた。今度は衝撃音ではなく、人間の声。早く逃げなければ。
「あっれー? まだ生きてる人いたんだー? ちゃんとここに居る人皆殺したのにー!」
今のレイジには男から発せられた言葉が耳に入らない。とにかくその場から離れたい一心で、這うようにして逃げる。
「あっそっかー! 今帰ってきた所なんだねー! なるほどー! 僕ったらテンサーイ!」
その声はどんどんレイジに近づいて来ている
――自分は殺されるのか、死にたくない、怖い、助けて――
声の主がレイジの真後ろに立つ、その声の主の顔を見ることすら恐怖で敵わない。レイジはそれでも生き延びようと、必死に手を動かすが、ゆっくりとその気配が近付いて来るのが足音と男が放つ異質な臭気によりハッキリとわかる。
「じゃーこれでサーイッゴっとー!」
男が真後ろに立っているのはレイジ自身も理解できた。……が、その言葉の意味を理解できない。恐怖が脳の思考を停止させ、男が言葉を発しているのはわかるが何を喋っているのか、何を言いたいのかにまで、死と直面して考えられるほどレイジは大人では無かった。当たり前だ、10歳の少年にこの状況で冷静でいろという方がおかしい――
ヒュッ
上から風の切る音が聞こえ、レイジは硬く目を瞑る――
レイジが目を瞑った瞬間、自分の体が何者かに持ち上げられ、凄まじいスピードで運ばれる。レイジは声の主が何かの気まぐれで自分をまだ殺していないのだと思った。もしかしたら見逃してくれるかもしれない、自分を殺さないでくれるかもしれない。
「お、お願いします! た、助けて下さい!」
声を出すことすら恐怖で困難だったレイジだが、絞り上げるようにしてそう叫ぶ。
「安心しなさい、私が命に代えても守って見せる」
――聞き覚えのある声がすぐ上から聞こえる。その声が聞こえると、レイジは自身を運んでいるのが声の主では無く、自分を育ててくれた孤児院の主ヴェルマーであることを理解した。
「先生……? 先生!?」
「――」
「先生ッ! お家が! お家が! 壊れて! 誰もいなくて! おっきな音がして!」
「――わかっている。大丈夫だ、レイジだけは……レイジだけは私が守る!」
レイジは涙を流しながら声を出し、しばらく間を置いてからヴェルマーがそれに返事をした。ヴェルマーが自分を守ってくれたことの安心感とヴェルマーの力強い声を聞いたことでレイジは僅かではあるが冷静さを取り戻し、先程よりも周りを見れるようになる。まずはヴェルマーの顔を見る。――皺顔におそらくついさっき出来たであろう無数の傷があり、頭部からは血が流れていた。頭部から流れた血が頬を伝い、自分の服にヴェルマーの血が滲む。
「先生……血が……」
「なぁに、大丈夫さ。若いころは毎日のように血を流していたからな」
ヴェルマーは普段こういった軽口を言わない。いつも冷静沈着で不愛想だが、いつも僕たちの為に頑張ってくれている。それがレイジの知るヴェルマーだ。そのことにレイジは違和感を覚え、頭を打っておかしくなったのではと心配になる。
「先生、ホントに大丈夫――」
「あっれぇー? まだ生きてたんだー? 死んだフリしてれば助かったのにー! おじいさん頭わっるーい!」
ヴェルマーへの心配の声を、異様に甲高い声の男の声が遮った。先ほどレイジを襲った声である。レイジはその声が聞こえると、再び体が硬直する。
「先生……」
レイジは怯えながらヴェルマーに助けを求める。それに応えるようにヴェルマーは優しくレイジに笑いかけると、スピードを上げ、とある場所で立ち止まった。その場所は孤児院を更に北東に進むとある人気の無い墓地。特にこの時間人が訪れることは滅多になく。ヴェルマーはこれ以上犠牲者を出さないために、ここまで逃げてきた。
「レイジ、これから私はあいつと戦う。なぁに、心配することは無い、必ず勝つさ私は」
「ぼ、僕はどうすれば……」
「それなのだが、レイジに少しお願いがあってな。聞いてくれるか?」
「は、はい。先生のお願いならなんでも聞きます!」
「すまんな、レイジ。では私からのお願いだ――」
「――」
「私とあいつとの戦いを、最後まで見届けてほしい。聞けるか? レイジ」
そういえば先生からお願いされるのは初めてかもしれない。いつものヴェルマーさんなら逃げろっていうはずだけど、なんでだろう。まぁいいや、僕は先生が勝つって信じてるから逃げる必要も無いし……襲ってきた人を見るのは怖いけど……
「もちろん大丈夫です!」
「――そうか、ありがとうレイジ。何があっても、私とあいつとの戦いに目を逸らすでないぞ」
「はいっ!」
約束を終え、レイジは周りの墓石より一回り大きい墓石の後ろに隠れる。この場所からなら先生の戦いを気付かれないように見れそうだ。
――レイジが隠れてから数秒後、あの声の男がやってくる。丸丸と太った肉体に紫の髪を不自然に綺麗に揃えた髪型、ピエロのような白化粧におそらく装飾であろう大きな丸い鼻。両手には出刃包丁を構えている。身長は165sm程度で、大人としては低いだろうかという身長。
声からして見た目の良い人間だとはレイジも思っていなかったがその考え通り、いや、レイジが想像していた人間よりも不気味な男だった。その姿を見たレイジは、先ほどあの男に殺されかけたことを思い出す。
先生が助けてくれなかったら今頃……
「あっれー? 子供はどーしたのー? 逃がしちゃったー? そうでしょー! 僕って天才だから何でもわかるんだー!」
「狂人の言葉に付き合う気は無い、私を追ってきたこと、後悔させてやろうではないか」
「ぼくー、あそこの建物の中の人皆殺せって言われてるからー! あの子も殺さないといけないのー! 追わないと行けないのー! だから――」
男は不気味に笑うと、出刃包丁どうしをかち合せキンキンと金属音を鳴らす。すると周囲の空気が途端に静かになり、執拗に重くなる。始まる、先生と紫髪の男の戦いが。
「オジサンは早く殺さないといけないんだー!」
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