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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

JACKET フリーワンライ企画

イ・ロ・ト・リ・ド・リ・ノ・セ・カ・イ

 我が家は坂の上だった。いや、それは崖の上だと言い切って良かったのかも知れない位に高い所だったのだ。

 二十代半ばを過ぎて生家暮らしの日常、無職にて。

 そう、オレはクズだったのだ。

 薬局を営む実家には、来る日も来る日も客が居なかった、何故なら容赦ない角度の坂道は、病人には無論転がり落ちる以外無い鬼門であった。おかげで、誰ひとりとして、病人は…


 カウンターに立つ、部屋の奥からオレが飛び出した、居るはずのない客人、閑静な狭い一室、オレの棲家の玄関に程近いその部屋にはどういうわけか、店員すら姿を消してしまっていた。何処へ行ったんだ!

 レジ横のテーブルには、殴り書きにされた置き手紙一枚、

「(いっぱい)教えて」

 どういう意味だ!訳も分からずにオレは錠剤の瓶を手にする、まるでラムネか何かのように無造作に、それを取り出して…

 それは鬱病への処方箋としてこの店には常備されていたものであったが、その真偽は信用ならないくらいだった。

 嚥下する…喉が唸りを上げて…数え切れない二酸化炭素の泡玉がオレの食道を焚いていた…そしてイメージがやってくる…入道雲が巨大にクリーミーに…まるでこの北半球を飲み込んでしまった津波のように被さって…そして世界中の樹木という樹木が…一斉に揺れ動いて…シャチが噴出し巨体が地面で撥ねた!オレの喉からは反吐と吐瀉物と蝶や蛾やがひらひらと舞って…肛門から巨大ジェットの爆風…透明な結晶の天井をすり抜けてオレは…

 …オレはそれが夢か現かわからなくなっている…ただ…それを抜け出そうと…ただ必死に…

 …全速力で……

 幻影が通過する…幻想を泳いで…偽りに列んだその世界と世界をオレは…突き破り氷柱を砕くように…

 玄関が聳えていた…それは…宇宙の果てまでも高く聳えた…黄金の…無限の巨大な門…


「はあっはあっ…はあっはあっ…」

 息を切らしている…張り付いた咽喉の襞と襞…金切り声のように強烈な音響!幻覚剤がオレを裁いていた、そしてオレは運命に囚われた、幸福なる生贄の羊であったと思わずにいれなくなる…

 アブラゼミが啼いている!それは生命の凝縮を謳うような…自らの魂を唄声にして謳われた…

 震えていた…オレが一体、厚着をし過ぎているからなのか??震えているのは真夏の灼熱への体反射であるのだろうか???

 …とにかく…外は…信じられない位…夏真っ盛りの情景だった。

 密林の真緑がオレのレンズを焚いた!!砂浜がポップコーンのように跳ねている…そして雪だるまが…溶けた蝋人形のようで…だらだらとなぜだか歩いている…蝶が舞う…甲虫が翔ぶ…クルクルと太陽はペロペロキャンディのようにイロトリドリで…回転しながら歪に踊っていた…真夏…メリークリスマス…

 そう…色彩の渦と言ったら…硬い地面にギュウギュウに敷き詰められた岩盤の様に巨大な宝玉がギッシリ埋められて…メクルメク色彩カラフルノセカイは麗しい光のオンパレードを固めた甘ったるいゼリーみたいで…そんなトメドナキ素晴らしき情景が洪水のように押し寄せていて…オレは…とうにオレ自身を追い越しているというのに……


 神経がピンと張り詰めて…手足を滑稽に同期させて…まるでロボットになりきったアニメーションダンサーのような歩みを見せて…

 しかし。

 その圧倒的な支配感はオレを圧倒し…それに…オレは酔った!!

 そいつは巣食っていた…それでオレは震えていた…頭部より小さなそいつはエイリアンで…頭蓋骨にはものの見事に頭蓋骨の生キャラメル状の泥濘に浸かって…脳髄にそいつはものの見事に体躯を埋めて巣食っていたのだ!

 そしてオレには信号を送って…オレをそいつが操縦していた!矛盾しているが、オレは…それを喜んだ。そして何度も言うことを聞いた…

「お願い、手綱をしっかり握っていて…道を…道を見失わないように……」

 耳から腸が垂れていた…脚がバンジージャンプのゴムのように伸びていた…永遠の引力に吸い寄せられるかのように…生涯を賭けたキャンドルライトが…ステンドグラスが綺麗だった……


 驚くことに、生首が撥ね、翔んでいく行方を、オレは何故だか凝視していたんだ…


 湖面は信じられない程の透明度で輝いた、誰かが笑っている。血潮が騒いでいた…真っ赤な潮の塊が塊となっていて押し寄せて…それが世界を津波の散弾銃のように…ザルッザルのボコボッコに蹴散らしてしまい…雨や霰が極彩色に横殴りになるばかりだった…

 写っているのはオレだったのか…?

 オレは全てから分離するかのように真っ逆さまであった…!!透明な膜はオレの身体を受け止めては呉れずに、ただ、ただ、たかい崖から投げ落とされる身体が描いた放物線だった…。

 情報の渦が凄まじいスピードでオレを通り過ぎオレを永遠に包んでいた。声が聞こえた、前方に伸びゆく声が、まるで過去のように。

 永遠は未だ尚無限の風圧でオレを殴っては。

 通過してもなお止まずに…

 湖面は信じられないほどの透明度で輝いた、誰かが笑っている。それは…遅れていた…声…だった?…それは…それは…それは悪鬼のように青ざめて…微笑んで…青ざめて…微笑みはまるで悪鬼のように……

「教えて(永遠に…)オレを(いっぱいに)満たして……」

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