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♡♡♡完成!

 オレと美香は、ついにプリンケーキを使ったケーキマジックを、美香の父親に披露することになった。

美香の希望で、美香がプリンケーキを作り、父親と母親を驚かせた。


「バカな! あの美香が、あの美香が、一人でプリンケーキを作っているなんて……」


「しかも、とってもおいしそうですよ、お父さん……」


「うう、生きてて良かった! 美香のプリンケーキが食べられる日が来るなんて……」


「本当ですね、お父さん……」


二人して涙を流す。それにつられ、男達も泣き出した。


(大げさ過ぎるだろ……。美香は別に、料理が下手なわけじゃない。

ただ、アホなだけなはず……)


オレは焦って、冷や汗を流す。


「まあ、父親と母親なんてあんなもんだろ。

娘が作って美味しそうな料理なら、何でもうれしいんだ」


「なんで反応が、小学生が初めて料理を作ったような反応なんだよ。おかしいだろ?」


「ふっ、それだけ美香の失敗は頻繁なんだ。成功する可能性は、かなり低い!」


「なんて悲しい理由なんだ……」


聡美ちゃんの話を聞き、オレも思わず涙が、頬を濡らした。

美香のプリンケーキが完成し、次は、オレが練習した手品を披露することになった。


「このプリンケーキは、まだ切られておりません。

しかし、オレの魔法の指により、ケーキは人数分切られていきます!」


オレは練習した通り、スムーズに手品を見せていく。


「さあ、人数分切れました。どうぞ、ケーキをお取りください」


美香はトングを使い、ケーキを皿に乗せていく。八人分のケーキが行き渡った。


「ん? なるほど、なかなかやるな!」


「まあ、ケーキが自然に八人分にカットされたわ!」


美香の時の反応とは違い、二人のオレの手品に対する反応は微妙だった。

美香の父親は、オレの手品を分析し始めていた。


「ふーむ、なるほど。手にワイヤーを持っているな? 

気付かれないようにしているが、私には分かっているよ!

指と指の間にワイヤーを張り、それでケーキを八人分に切ったというわけだ」


「あら、そうなの? 全然、気が付かなかったわ……。すごいわ!」


「ああ、確かにすごい技術だった。

ワイヤーの影を、自らの影に隠すことで、気付かれないようにしていた。


手の怪我が完全に治っていなくても、これほどの手品ができるとは……。

これは期待できそうだ」


「まあ、手を怪我していたの? それさえも分からなかったわ!」


「しかし、詰めが甘かったな。私達と君達、全員合わせても七人分しかいない! 

人数分までをしっかりと把握しておかなければ、客は驚きはせんぞ!」


父親のその言葉を聞き、聡美ちゃんが助け船を出した。


「ちょっと待った! 実は、もう一人いるんだよ。

紹介するよ、アタシの友達の八房玉子ちゃんだよ。今日は、一緒に遊んでたんだ」


「どうも、八房玉子です。聡美ちゃんとは、仲良くしてもらってます!」


その子の登場により、必要なケーキの数は八つになった。

美香の父親と母親は、かなり驚いている。


「バ、バ、バカな……。あの聡美ちゃんに友達だと……。

同い年のクソガキとは、話題が合わないと言っていたあの子に友達だと……」


「しかも、すごい礼儀正しい子ですよ。え、本当に? 

いつも遊んでる、なんて驚きなのかしら……。あ、涙が……」


なぜか、美香の父親と母親は、今日一番の感動をしていた。


「ふーむ、手品の技術、手品の見せ方、ともに合格だ! 

私は大輝君を、美香のパートナーと認めよう。

ケーキマジックも自由にできるように出来る限りの協力をしよう!」


美香の父親は、オレにそう言って褒めてくれた。美香も大喜びする。


「やりました! 新しいジャンルのマジックを開発できますよ。もちろん、二人で……」


しかし、美香の父親の話は、まだ終わっていなかった。


「ただし、ケーキ大会に参加するのは、反対だ! 

今のままでは、予選を通ることすらできまい。

結果が分かっている勝負を、君達にさせるわけにはいかんよ……」


「そんな……」


美香の父親は、厳しい表情でオレに語る。


「もしも、ケーキの大会に参加するとなると、中途半端なマジックは、あだとなるだろうな。それこそ、大輝君の両腕が邪魔となる。

両腕がない状態でケーキを作るなら、グランプリも可能かもしれないがね……」


「え? どういうことです?」


「大輝君は両腕もあるし、怪我もそのうち完治するだろう。

そうなったら、マジックという手段でケーキを演出したとしても、誰も感動しないだろうな……。


それどころか、大会自体をバカにしたと見られるだろう。

なら、どうすればいいか分かるかな?」


美香の父親は、オレを挑発するように尋ねる。


「ケーキマジックで、ケーキ大会に参加して勝ち抜くには、技術もケーキ作りも全く知らない美香を参加させて、美香にできる範囲内でケーキを作り出すこと。

これがケーキ大会を勝ち抜く方法ですね!」


「ふむ、正解だ! 

君も分かっていると思うが、美香は小さい時に怪我をして、手がうまく使えないのだ。

細かい作業は、全く期待できない。


その限られた状況下で、美香がケーキマジックでうまいケーキを作り出すなら、多くの人が感動することだろう。

君は、ケーキを作り出す知識がある。


それで、美香に作れるケーキをマジックのように生みだすこと、これが私の思い描くケーキマジックだ!」


美香の父親は、オレの様子を窺うように見る。


「別に、無理強いはしないよ。

君なら、普通にケーキを作っても、ケーキ大会に勝てるだろうからな……」


オレは、美香をちらりと見てから言う。


「オレは、美香とケーキマジックで、最高の舞台に連れて行くと約束しました。

それに、あなたなら分かると思いますが、こんな面白い挑戦を、オレ以外の奴ができるわけありませんよ!」


「そうか、私の娘は、君に頼んだよ!」


美香の父親はそう言って、オレの背中を軽く叩いた。


「テレビに出ることを、心待ちにしていますよ」


美香の母親もオレ達にそう語る。

そして、プリンケーキを食べて満足し、二人はお供を連れて帰って行った。


「玉ちゃんももう帰れ。だいぶ遅くなってきたからな」


「うん! お兄ちゃん、また今度、ケーキの作り方を教えてね!」


聡美ちゃんは、玉子ちゃんを送って行った。

オレと美香だけが、家に残されていた。

美香は心配そうに、オレに話しかけて来た。


「いいんですか? 私なんかのために、あんな無謀な挑戦をしてしまって……。

両腕が完治して、普通にケーキ大会に参加すれば、大輝さんなら優勝できます。

私のために、そんな危険を冒さなくても結構です!」


「はあー、危険? 美香、実はオレ、来年のケーキ世界大会に無条件で参加できるんだ。シード枠で参加することになった。

もう、来年の日本ケーキ大会に出る必要もないぜ! 


怪我が理由で参加できないなんて、かわいそうってことで、多くの人が支持してくれたんだ。今年はもう間に合わないけど、来年の世界大会なら余裕! 

まあ、暇潰しに、お前のケーキマジックの指導をしてやるぜ!」


美香はくやしい表情をして、オレを睨む。


「そうですか。それは良かったですね……。

私なんて、ケーキの知識も、手品もろくに出来ないのに……。

すぐに負けてしまうのが、落ちですよね……」


「バーカ、最高の舞台に連れて行ってやるって言っただろ! 

世界大会の決勝は、俺とお前の対決だ! 

最高の舞台で、お前を、ボロクソに蹴り落としてやるよ!」


「ふんだ、ケーキ作りと手品を覚えて、私のケーキマジックで、世界一のピエロにしてあげますよ!」


「楽しみにしてるぜ!」


オレと美香は、しっかりと握手をした。


「あっ、忘れてました。あの、これ……」


美香は、オレに手紙らしきものを渡して来た。


「ん? 何だ? お前の父さんと母さんの感感謝の手紙か? それとも果たし状?」


オレは中身を確認する。


「いえ、今月分の家賃です。

丁度一ヶ月住んでたんで、一ヶ月分の家賃を丸々払ってください。


もー、家賃を毎月払うの大変だったんですよ。

ずっと居てくれてもいいですよ。てか、居てください!」


「アホか! 今月だけで十分だ、こんな家!」


「え? 大輝、この家を出て行っちゃうの? 

やだ! 大輝が出て行ったら、アタシ死んじゃう!」


玉子ちゃんを送って帰って来た聡美ちゃんが、オレに泣き付いて来る。


「そうですよ。大輝さんがいなかったら、私達、来月食べる物が無いんです。

自生しているキノコや山菜で身を繋ぐしかないんです」


「うわ―ん、リアルにニュースで、毒キノコを食べて死亡なんて、嫌だよ!」


「お父さんとお母さん、本当にやばくならないと助けてくれないんです。

今、大輝さんが出て行ったら、飢え死にか、毒キノコで死んでます!」


オレは、美香と聡美ちゃんに言う。


「なら、両親に頼むんだな。今が、本当にやばい時だろ?」


美香と聡美ちゃんは、恐ろしい事実を述べた。


「バカ! 本当にやばい時は、美香とアタシが毒キノコを食って倒れたときとかだ!」


「人間、そう簡単には、死なないもんだとか言って、真剣に取り合ってくれないんです。部屋に侵入しても、あの男達に取り押さえられます。

もう、大輝さんに頼るしか方法がないんです!」


(そうか、あの男達は美香対策だったのか。

しっかりした子に育って欲しかったが、こんな変態になってしまったんだな……)


オレは妙に納得した。


「分かった、分かったよ! オレの怪我が、完治するまでだぞ」


「大輝さん、う・れ・し・い!」


美香は、オレに抱きついてくる。

美香の胸が、オレの腕に当たる。


オレは思わず、美香を抱きしめてしまった。

聡美ちゃんは美香に尋ねた。


「おお、美香、それも恋愛マジックなのか?」


「はい! 人間には、パーソナル・スペースと呼ばれる空間があり、相手との人間関係に応じて、近づいても良い距離が決まっています。


親しい友人なら約四十五センチ、恋人なら十五センチです。

これ以上の距離に近づく状況を作り出すことにより、アズ・イフの法則が……」


「この、お前らがこの家から出て行け!」


オレは、淡々と語る美香に怒りを感じた。


「ああ、分かりました。このマンションは、今月いっぱいにします。

来月は、大輝さんのお家で生活します。意外と近い場所でしたから……。

そう言うことですね?」


「全然違う!」


「でも、ケーキの修業をするなら、大輝さんの工房から近いほうがいいかと……」


この後、彼女達は、オレの家に強制的に住みついて来た。

オレの波乱は、幕を開けたばかりだ。変態女手品師、山口美香。

彼女が魅惑なケーキマジシャンになるのは、まだまだ先が長く遠いようだ。

その後、なんやかんや遭ってオレ達は結婚した。

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