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第七話「恐怖と悪魔」

 抜け落ちた髪の毛。


 高校生とは思えないげっそりした顔。


 これが僕なのか?

 小学校ではクラス一面白い奴で通ってた僕か?

 中学校では成績優秀で通ってた僕か?

 いつからか全てが虚しくなって家に篭もるようになった。



 高校入ってからずっと暗い部屋でネトゲしてるような気がする。

 小遣いで課金して作り上げた僕のキャラ、凶怨きょうえん

 レベルはカンストまであげ、漆黒のアバターに身を包む竜騎士。ギルドになんて入らない一匹狼。これが本当の僕であったらどんなにいいだろう……


 コントローラーを脇に置く。今日もいつものように徹夜して、我に返った時には全てが虚しくなって自己嫌悪に陥る。

 頭の中からゲームの虚像が離れない。現実にいるのに、現実にいないような、嫌な気分だ。頭がボーっとする。全身がだるい。


 闇闇闇闇闇闇闇闇。この世は闇だ。


挿絵(By みてみん)

 

 はぁ……今日は少し遅れて行くか。

 

 

――蕪木凶介は学校の裏山にある廃墟にやってきた。凶介のサボリ場所はいつもここである。


 一番高いビルの屋上の縁に、ポケットに手を入れて立つのが凶介のお気に入りだった。

 屋上の縁に立つという行為は奇しくも風子と同じだったが、胸の内は全くの正反対だった。

 

「ああ、全てが下らない。周りはクズばかりで頭がおかしくなる。自分が自分じゃなくなる。だから僕はいつもここに立って自分の精神を俯瞰する。この屋上の縁があの世とこの世の境界……世界認識の始まりと終わり。一歩戻れば生、一歩進めば死……」


 世の中にはパワースポットというものがあるが、もしそういった場所に力があるとすれば、廃墟には廃墟の邪な力があってもおかしくないだろう。であれば凶介の『力』は廃墟によって培われたものなのかもしれない。

 

 凶介はここで死ぬつもりなどなく、逆に目覚めた『力』の発現に胸が高鳴っていた。

 

「……この世界を混沌に陥れてやる」


 

                  *

           

「へぇ、ハグ実ちゃんって言うんや」

「そう、面白い子だよ~。土曜はピザ屋でバイトしてるんだけど、配達中に一枚食べて、空いた所に他の切れ端を均等に寄せて、ごまかしてるんだって」

「そ、それはバレたらクビどころか、ピザ屋の存続も危ういレベルやん!」

「本人は命がけって言ってたよ」


 風子と読子が談笑している。まだ凶介は来ていない。

 読子がふと首を伸ばして周囲を見渡すと、ある異変に気付いた。

 

「どうしたの?読子ちゃん」

「……何か恐ろしいものが、学校におる」


 読子が両腕を抱え込み、ブルブルと震え出した。

 

「読子ちゃんが言ってた蕪木の事?まだ来てないし」

「ちゃう、何か別のもんやと思う。あかん、ビジョンモードはもう限界や」


 そう言ってビジョンモードを解くも、今度は汗をかいて苦しみ始めた。

 

「読子ちゃん!」

「大丈夫……。

 でも何でやろう……今まで思念に触れるだけでこんなに苦しくなる事なんてなかったのに……」


 風子はハンカチを取り出し、読子の汗を拭いた。授業がそろそろ始まる。

 

「おら、出席とるぞー」


 担任の藤田沢がやってくる。

 

「今日は全員いるのか……何だ、蕪木はサボりか?全く、根性の無い奴だな」


 いつものように好き放題言う担任の藤田沢。すると……


「ひどい言い草ですね先生。それでも教師ですか?」


 どこからかエコーのかかったような声が教室中に響いた。

 

「いるのか?蕪木!どこだ!」

「ここですよ」


 すると突然、黒板に出来た黒い空間から凶介が現れた。

 その隣にはこの世のものではない、マントを被った死神とも言える存在が凶介の肩にもたれかかっていた。

  

「キャー!」


 女子の叫び声がこだまする。


「驚かなくてもいい、こいつはただの死霊術師だ。君らに直接危害は加えないから安心してくれ。

 意外と人懐っこいんだよ、ほら」


 そう言うと、その宙に浮いた死霊術師は担任の藤田沢の肩にしがみついた。

 

「ひぃいいぃぃ!」


 藤田沢が失神して倒れると、死霊術師は凶介の元に戻った。


「頼りないですねぇ、先生。それでも教師ですか?まあそれが本当の姿ですよね。僕がいじめられていても見て見ぬふりするようなクズだから、しょうがないですよね」


 凶介は失神した藤田沢を、ポケットに手を突っ込んだまま蹴り飛ばした。


 その態度はもはや、いじめられっ子の凶介ではなかった。その虚ろな目は世界そのものをあざけっているようにも見えた。

 凶介は視線をクラスメイトに移して言った。

 

「みんな、今の世の中はおかしいと思わないか?それもこれも、導くべきはずの教師が堕落しているからだ。藤田沢のような自己保身しか頭にない、小者しかいない。そのくせ口だけは偉そうな事を言って権力で生徒を支配する。

 お決まりの授業にお決まりの学芸会、音楽会、体育祭、そして何かにつけて何度も行われる軍隊みたいな予行演習。もうこんな教育ごっこはやめにしようじゃないか。僕たちはもっと自由と混沌を望んでいるはずだ。そうだろう?」


 いつもの凶介との違いに、クラスの人間は圧倒され、言葉を失っていた。

 それは凶介に取り憑いた死霊のおぞましさのせいもあっただろう。


「さて、僕はどこかの人間みたいに口先だけの人間ではない事をこれから証明しようと思う。驚かないで聞いて欲しい。僕はこの学校に混沌の象徴である『デーモン』を解き放った。デーモンとは言葉の通り、正真正銘の悪魔だ。存在を信じたくないならそれでも構わないけどね」


 すると読子が立ち上がって凶介に言った。

 

「蕪木君!どこで力を手に入れたん!?悪魔なんてすぐに消して!」

「黙れ月原読子!お前も僕と同じ側の人間だろうに、なぜ分からない?力を手に入れて親や教師や、僕をいじめてきた連中に復讐するんだよ!」

「復讐なんてする為に力はあるんとちゃう!」

「バカな!僕は契約したんだぞ!これからの不幸だらけの人生と引き換えに、この屍とデーモンを召喚したんだ。復讐以外に目的なんかあるわけないだろうが!」


 怒鳴り声を上げる凶介。

 ……しばしの沈黙の後、凶介は平静を取り戻して言った。


「これで明らかになるだろう。生徒を守るべき教師がいかに惰弱だじゃく脆弱ぜいじゃくな存在かという事を。その時がこの学校の終わり。もう誰も教師を信頼せず、学校は混沌に陥り、やがては崩壊を迎えるだろう」

「どうして……蕪木君……」


 邪悪な思念に影響を受けたせいか、読子は崩れ落ちるように机に倒れこんだ。


「怖かったらすぐに逃げる事だな。デーモンは目にするだけで三日三晩はうなされ続けるほどの恐怖を感じるという。ましてやデーモンの瘴気に触れたとあらば、その場で発狂してもおかしくないだろう。せいぜい気をつけてくれ。ああ、それと僕をいじめていた奴らは後で僕が直々に制裁を加えるから逃げるなよ。と言っても、群れる事しか能の無い腰抜けだから、どうせ逃げ出すんだろうけど」


 いじめっ子に釘を刺すように言い残し、凶介はまた黒板に出来た黒い空間の中に入っていこうとする。

 すると風子が怒鳴り声を上げた。

 

「蕪木!こんな事していいと思ってるの!?この学校に何人いると思ってるんだよ!」

「他の人間がどうなろうと知ったこっちゃ無い。自分の身ぐらい自分で守るべきだろう?」


 そう言って凶介は屍と共に黒い空間に消えていった。


「何てやつ!他の人の事なんて全く考えるつもりないんだ!」


 風子はすぐに教室を出てみんなに知らせようとする。

 

「あ……あかん、風子ちゃん……!」


 読子が苦しみにこらえながら風子を止める。

 

「でも読子ちゃん、早く知らせないと!」

「デーモンは目にするだけで倒れるんやで……?出ていってもし遭遇したらどうするん?」


 威勢よく席を立った野薔薇が拳を打ち鳴らしながら答える。

 

「そんときゃ、そん時だろ。悲鳴と倒れた人間が道標だ」

「デーモンって悪魔の事やで。そんなんと戦えるわけないやん……!」

「でも実際にいるもんは仕方ないだろ。いいから月原はここでジっとしとけよ」

「読子ちゃんは力使ったらダメだよ。またさっきみたいに苦しくなるから!」


 そう言って野薔薇と風子は教室の外に出ていった。


 風子は隣のクラスに事情を説明する。しかし悪魔が出たなんて言って信じられるわけがない。失神した藤田沢を見せようと、隣のクラスに運び込もうとする風子。

 野薔薇は知らせる事など無駄と判断し、真っ先にデーモンを探しに行った。

 

 

                  *

 

「キャー!」


 声のする方にひたすら走って行く野薔薇。

 だが正直な所、悲鳴など追わなくても野薔薇には分かった。行ってはいけないと体が拒否する方向、それこそが行かなければならない方向だと野薔薇は感じた。

 

 逃げ惑う生徒たち。その逆方向に向かう野薔薇。野薔薇は周囲と全く反対の行動を取る事に高揚感を抑えられず、体中の血がたぎっていた。

 しかしそれは一時の事で、すぐにその高揚感は反対の感情に取って代わった。

 野薔薇の感情を抑えつけたのは、野薔薇の内側からやってくる声だった。


 その『声』を聞いた瞬間、野薔薇は急に子供時代の事をフラッシュバックした。体が拒絶反応を起こすあまり、過去のトラウマを強制的に引きずり出してきたのである。忌々しい野薔薇の思い出が野薔薇の足を止めさせる。

 

「う、ううっ……」


 両腕を抱えてうずくまる野薔薇。全身を走る悪寒、こわばる肉体、野薔薇は普段とかけ離れた最悪のコンディションだった。


 しかし、そんな野薔薇の事など知らず、奴はとうとう野薔薇の前に現れた。

 3mほどの筋肉の塊、短く大量に生えた毛、黒紫色の肉体、醜い顔、白い瘴気、紛れも無く悪魔だった。

 

 息を飲む野薔薇。周囲では教師や生徒が積み重なるように倒れている。

 野薔薇は気力を振り絞って立ち上がる。

 

「……来いよ!糞野郎!」


 そう言って渾身のストレートをお見舞いする野薔薇。

 しかしデーモンはその腕を三本の巨大な指でいとも容易く掴んだ。振り解こうにも、ものすごい力で抑えられ、野薔薇の右腕はビクともしない。

 体中から出ていたデーモンの瘴気が野薔薇に絡みつく。


「うああああああ!」


 野薔薇はかつて味わった事のないほどの恐怖を覚えた。体の細胞そのものが恐怖で機能を停止させてしまったかのように、野薔薇は体に力を入れる事すらできなくなってしまった。

 そして野薔薇の根気より、意識そのものが危険を感じ、野薔薇はスイッチを切ったように、フッとその場に倒れた。

 悪魔は野薔薇など気にかける素振りも見せず、野薔薇を踏みつけて再び歩き出した。



――ついにその悪魔は風子達のいる3階までやってこようとしていた。

 

 風子は近くにデーモンが来た事を直感し、覚悟を決めた。

 廊下でデーモンがやってくるのを待つ風子。生徒は逃げている為もう悲鳴は聞こえず、辺りは奇妙な静寂が支配していた。

 その巨大な悪魔は階段からヌッと風子の視界に入ってきた。風子がその悪魔を目にした瞬間、強烈な『憎悪』を自分の中に感じた。

 

(何だろう、この感覚。いつも戦っている何かにすごく似てる) 

 

 デーモンはピタリと止まって風子を見下ろした。

 瘴気は風子を取り込もうと伸びていったが、風子の風に阻まれ、風子の体に届く事はなかった。

 

「何か知らないけど、お前が憎くてしょうがないよ。悪いけど容赦しないからね!」


 風子は猛ダッシュして跳躍し、膝蹴りをデーモンの顔に直撃させた。

 そこから後方に飛び、両手を組んで後頭部を後ろから殴りつけた。

 少し仰け反ったものの、風子得意の連携技にもまったく怯まないデーモン。着地した風子は恐怖で足が震えている事に気付き、思わず手で抑えた。

 

 デーモンが風子の元に近寄ってくる。しかし足が震えて動けない風子。

 巨大なデーモンの三本の指が風子の頭を掴もうとゆっくりと手を伸ばした。


 ……しかし次の瞬間、風子の眼前に『足』が現れた。その足はデーモンの顔面を蹴り、一回転して後方に着地した。

 

 その足の持ち主は風子のよく知る人物だった。

 

「トレパン!」


 トレパンの蹴りはデーモンを大きく仰け反らせた。

 トレパンの顔は真剣そのものだった。

 

「風子。よく見ていろ。これが俺の全力だ」


 そう言って助走を付けて飛び上がるトレパン。

 そのままトレパンは空中で横に三回転回った後、デーモンに延髄斬りを浴びせた。

 デーモンはよろけながら反撃しようと手を出すも、華麗にかわすトレパン。

 

「すごい!あの悪魔が怯んでる!」

「こいつは実体のないものだ。こちらが恐怖している限り、一切の攻撃は通じない。だが恐怖していなければ倒すのはたやすい」

「な、何で分かるの?」


 風子が聞くと、トレパンはこの局面でもニッコリと笑ってみせた。


「悪魔ってのはそういうもんだ」


 トレパンが笑った真後ろからデーモンは鋭い爪を持った手で相手をなぎ倒すような勢いで殴りつける。

 それをしゃがんでよけたトレパンは、逆立ちから足を回転させて後方にいるデーモンに蹴りを入れた。

 

「風車蹴り!」


 悪魔の瘴気はトレパンの風車蹴りに巻き付くように渦を巻いた。しかしトレパンの動きは瘴気に阻まれることは無かった。

 

「こいつでトドメだ!」


 トレパンは二回転側宙からの浴びせ蹴りをデーモンにヒットさせ、ついに悪魔をノックダウンした。

 するとデーモンは、まるで最初から存在しなかったかのように瘴気を放ちながら消え去っていった。

 風子はトレパンの勇姿に感激した。


「すごいよトレパン!こんなに強かったんだ!」

「俺は昔、カポエラの選手だったんだ。これから風子にも教えるつもりだから、その覚悟でな。

 ……それよりこいつを生みだしたのは一体誰だ?」

「うちのクラスの蕪木だけど、教室にはいないよ」

「あいつか~、何度か話そうとしたが俺をバカにするだけで、どうにもできなかった奴だ。ついに能力が発現したのか」


 その時、教室から読子が出てきた。


「五十嵐先生、私蕪木君の居場所分かるかも」

「ホントか月原?」

「読子ちゃん!もう大丈夫なの?」

「うん、悪魔がおらんならビジョンモードにしても大丈夫やと思う」


 そう言って読子は何かを探るように目を動かし始めた。

 

「上の階、視聴覚室の辺りにおるはずや」


 急いで階段を駆け上がる3人。

 3人が視聴覚室に向かうと、凶介は窓から生徒が逃げ惑う姿を何の感情もなく見ている所だった。その様子はすでにデーモンが倒された事を知って観念した様子だった。

 

「蕪木!もう観念しなさい!あんたなんかモゴッ……」

 

 風子の口を抑えるトレパン。

 

「蕪木。お前かあれを召喚したのは」

「……お前が倒したのか?お前みたいなエセ体育教師が」

「ああそうだ。お前がいつか言っていたように、教師は確かに生徒を見る目がない。しかし、お前にも教師を見抜く目がなかったようだな」

「計算外だよ。お前みたいなギャグ要員に倒されるなんてな」

「誰がギャグ要員だ!それよりどうやって生みだした?あんなもの、個人で生み出せるような代物じゃないぞ」

「こいつだよ」


 凶介は一枚の紙切れを出した。そこには何やら契約書のように箇条書きがビッシリと並べられていた。


「僕の能力『ブラッディ・ロア』は、僕の不幸を糧にして死霊を召喚する能力だ」

「不幸?」

「そう。その支払いはこれから僕の人生を持って払い続けなければならない。死ぬこともできずにな。まあ死んだ所でカルマを背負ったまま幽界の闇を彷徨うだけだろうし、もうどうなったって構わない。制裁でも何でも好きなだけしてくれ」


 全てを諦めたような蕪木の表情。

 するとトレパンは震えながら言った。

 

「……エライ!エライぞ蕪木。自分から不幸を選択してまでここまでの事はなかなかできない」


 トレパンの賞賛に蕪木は驚きの表情を見せた。


「だがな、人間なら不満があれば一対一でぶつかれば済むだろう。なのにお前は自分の力を見せたり、迷惑をかける事でしか不満を主張できないじゃないか」

「だ、黙れ!」


 観念したはずの凶介だったが、自分の弱い部分に触れられるのは応えるようだった。


「周囲の反応に甘えるのは子供のやる事だ。お前は能力に覚醒したんだから、その時点でもう子供じゃないだろう。お前が悪魔なんかに頼らなくてもいいって所を俺に見せてくれないか?」

「そんな事できるか!もう僕の人生は終わりなんだよ!これからずっとみんなから軽蔑されて、苦しめられて一人で死んでいくだけの運命なんだよ!」

「いや、違うぞ蕪木。人生はそういう風にはできてない。不幸を経験した分だけ何倍も飛躍するようにできてる。例えそれが契約で作られた不幸だったとしてもな」


 凶介はトレパンの言葉に少しだけ揺り動かされたようだった。


「……それは本当か?」

「ああ、お前より沢山生きてるんだから信じてくれ。人生なんてのはな、焼肉定食を食べるようなもんなんだ。先においしいものを食べるか、後で食べるかの違いだけだ。

 俺は先に辛い選択をしたお前を褒めてるんだ。お前がそれを乗り越えて一人前になれる事が約束されてるんだから、こんなにやりがいのある人生は他にないじゃないか。そうだろ?」

「……」


 返事をする気力のなくなった凶介を見て、読子も近くに寄ってきた。

 

「蕪木くん、私も協力するで。まずはその背負ってる沢山の悪い霊を取り除かんとな」

「お前には見えてるのか。僕の不幸が」

「うん。でも悪い霊だって、蕪木君が変わったら出て行くと思うし」

「……僕は、僕が悪魔と契約する事も世界を恨む事も、全て霊に動かされていたかのように、そう思えるんだ。今は少しシラフに戻ったような気分だけど…………それでもきっとまた憎悪と憂鬱がやってくるんだ」


 凶介は初めて自分の弱い部分を見せたようだった。


「それならそれを表現していこ。表現していくと憂鬱な気持ちも消えていくで。それを助けるのが私の能力の使い方やと思ってるし。風子ちゃんも、助けてくれるやんな?」


 風子はあまり納得のいっていない様子だった。


「……みんなにちゃんと謝るならね」


 なおもトレパンは蕪木を諭した。


「蕪木。お前のした事は許されるような事じゃないし、許されもしないだろう。それでもお前をこんな人間にしたのも周囲の責任だとすれば、周囲の人間にこれ以上お前を責めさせても解決はしない。お前はお前のしたことの結果を受け止め、罪を償うつもりで生きろ。それなら俺は喜んで協力してやる。それでいいか?」

「分かったよ……」




――こうして学園を襲った事件は幕を閉じた。野薔薇は意識が戻らず、病院に運ばれてしまい、他の生徒も数日は学校を休む者が多かったが、不思議とほとんどの者には悪魔を見て倒れたという記憶は残っていなかったという……

 

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