第8話「迷宮」
ブックマークありがとうございます! 元気が出てきます。
ゆっくり進行です。気長にお付き合いください。
東門から出て、窓口さんに教えてもらったとおりに歩いていくと、その入り口が見つかった。
山を巨大な剣でぶった斬ったかのような崖に、神殿風の入り口がぽっかりと口を開けている。
迷宮。
曰く、道中には様々な魔物が待ち受け、最深部にはボスが待つ。
数々の財宝が眠る。ファンタジーやゲームの定番だ。
いわゆる迷路的なラビリンスから、神殿、洞窟、廃墟、城。冒険者が踏破していく必要があればそれは、迷宮と呼ばれる。
いや、まさかその実物を見るとはなあ。
実際はどうなんだろうな。放棄された廃墟のようなものなのか?
魔術がある以上、ゲーム的なダンジョンである可能性も捨てきれない。
迷宮の前には、簡単な詰め所があった。人が1人はいれるかどうかわからないサイズの詰所に、装備をつけた男が座っていた。
受付……? とりあえず声をかけてみるか。
「こ、こんにちわ」
「何か用であるか?」
……なんだろう、この時代錯誤感。
浅黒い肌、立派な口ひげ。なんだか怪しい手品師みたいな印象を受ける男だ。着込んでいる鉄製の胸当てや、緑の立派なマント。腰に佩びられた両手持ちの大剣。装備を見る限りは一流に見える。
……そのビア樽のようなでっぷりした腹が無けりゃな。
見事なまでの肥満体型。剣とか振れるのか?
「冒険者登録試験を受けにきたんだけど」
「おお! 新しい後輩候補であるか!」
ビア樽おっさんは胸元から冒険者の証であるネックレスを取り出した。鎖の先で青色の石が揺れる。
「我輩はヴァンフォルト・ムング・ドロスデンと言う。本日の登録者試験を受け持っておる」
「登録者試験監督って、冒険者がするんですか?」
「むしろ、冒険者以外が試験結果を判定するほうがどうかと思うであるぞ」
それもそうだな。
ボランティアみたいな感じなんだろうか。
「まあ、装備もしっかりしておるからして、1Fでは死ぬようなことはないであろう! 頑張れ! 若人よ!」
「あ、はあ……」
「何かあればすぐに助けを求めるのであるぞ! 我輩が駆けつけよう!」
うれしそうだね、おっさん。
俺はビア樽おっさんの激励を受け、苦笑いしながら迷宮の中へと入る。
フードの中に入っていたクーちゃんが身じろぎすると、そこから這い出してきた。
入り口からの通路を抜けると、そこには大広間だった。あたりを見回しながら奥へと進んでいく。クーちゃんは俺の足元を跳ねながらついてきていた。
それにしても、思ってたのとだいぶ違うな。
俺は迷宮の中が思っていたより明るいことにびっくりした。
元は神殿とか、そんな建物だったんだろうなあ。壁自体がなんか光ってるように見えるな。
壁はところどころ蔦に覆われているところもあり、年月を感じさせる。
しばらく見て回ってみた。どうやら入り口の大広間から、いろいろな廊下や部屋につながっているらしい。とりあえず大広間を隅々まで調べようと奥まで行くことにする。
何だこれ? 祭壇の奥が破壊されて、穴が……。
奥にあった祭壇。その背後の壁がぶち抜かれていた。むりやり穴を掘ったかのようなトンネルになっている。
元は隠し通路だったんじゃねえか、これ。そこを無理矢理ぶちぬいて、鉱石見つかったからさらに掘り進めたって感じか?
「きゅっ!」
クーちゃんが警戒した鳴き声を上げる。何か出たか!
見ると祭壇裏の採掘穴から、犬くらいのサイズのトカゲが出てくるところだった。でかいな!
目が合った。あまり考えてる時間はない!
俺はひのきの棒を振り上げた。トカゲの頭に叩きつける!
トカゲの体がぐらっと揺れた。いける! もう一撃!
2発目を受けたトカゲは、全身の力を抜いてその場に倒れた。
やったか?
「おりゃ!」
こういうときは「やってない」時があるので、もう1撃ダメ押しをしておく。何かが砕ける感触。びくんと大きくはねて、トカゲが今度こそ完全に沈黙した。
「ふう……」
「きゅーっ!」
クーちゃんの警告。衝撃。俺の体がふっとんだ。
安心した瞬間の、横からの打撃。ひのきの棒が転がっていく。
何だ!?
どうやらもう1匹いたらしい。シャアアと警戒音を立てながら、トカゲがこちらをにらみつけている。
お前か、体当たりしたのは! 打たれた腹が痛いが、幸いダメージはあまりない。俺は急いで立ち上がる。
ひのきの棒は遠い。ここは……。
燃える火の玉をイメージ!
俺の掌に魔法陣が出ると、割れて光の粒子となる。俺はスライムの時と同じように火の玉を投げつけた。
食らえ! 火の玉グレネイド!
トカゲはのたのたと動くと着弾点から逃げ出す。ずどっと小爆発が起きる頃には、効果範囲から抜け出していた。
「もう一発!」
俺はもう一発火の玉を出すと投げつけた。今度は逃げる方向も予測して!
ずどっ!
よし! 巻き込んだ!
小爆発の後に残るのは、こんがりとなったトカゲの死骸のみ。
「おっし!」
思わず俺の口から喜びの声が出る。
しかし、もうちょっと速度がどうにかならんかな。これじゃなかなか当てられないぞ。
俺はひのきの棒を拾うと、トカゲの死骸に近づいた。つついて見るが、動き出す気配は無い。
俺はトカゲの尻尾を持つと、目の前まで持ち上げてみた。うお、けっこう重い。
「んー……。こいつが岩喰いトカゲか? 見た目だけではわからん。とりあえずちゃんと掘る方でも手に入れておくか」
んで、この死骸どうしよう。解体とかよくわからないし、とりあえずかばんに入れておくか。
俺は叩いた方のトカゲはかばんに入れ、焦げた方は放っておくことにした。
「クーちゃんもありがとな」
「きゅぅー」
お礼の意味をこめて、ごしごしとのど元を掻いてやる。
クーちゃんの警告がなければ先制攻撃されるところだった。すごい役に立つな、クーちゃん。
「さて、この先かな」
目の前に広がる採掘穴。そこに俺は足を踏み入れることにした。たぶん、この奥が採掘所だ。
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