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第77話「刀匠」

 俺の顔はにやけていた。

 大熊屋、その工房に俺たち四人と一匹は揃っていた。

 作業台の上には、様々な形状、拵えの剣が転がされていた。ツヴォルフガーデンから持ち帰った戦利品である。


 一級品の剣、二十二本。

 魔術剣、五本。

 古代の剣、一本。

 稀少鉱石類。


 これが俺たちが持ち帰った成果だった。剣の紋章入りカトラリーセットはこっそりと部屋のかばんの中に置いてある。きれいにしたら使用する予定だ。

 宝物庫には三級品の剣がまだ三十も四十も残されていたが、持ち帰ることができるわけもないので、置いてきている。

 これだけの剣も、魔術ゴーレムとアルドラがいなければ持ち帰ることはできなかっただろう。

 かなりの成果が出ていると言っていい。

 一級品の剣だけでもかなりの値がつく。フェイの護衛としての報酬として剣をもらっていいわけだから、実質ミトナと山分けだ。まあ、そこまで欲張る気はないが。


「しかし……これ、すごいな」


 俺は一本の剣を手に取った。刃の根元あたりに魔法陣が彫られている。精緻な紋様は何かの彫り物のようだ。だが、この魔法陣が持ち主のマナを吸うことで起動、永続的に効果を発揮するという。彫り込まれた魔術がラーニングできないか紋様を触ってみたが、特に何も起きなかった。残念。


「どうやって使うんだ?」


 いまいち使い方がわからない。手にもって気合いを入れてみたり、マナを集中してみるが、どうも起動する気配がない。


「ちょっとしたコツがあるわ。貸してみなさい」


 フェイが手に取ると、目を閉じて集中しながら魔法陣に指を当てる。マナの光が魔法陣を満たした。

 同時に剣身から冷気が漏れ出し、温度差故の白煙を上げる。

 おお。<「氷」初級>効果の剣になるのか。


 残りの四本はそれぞれ<「雷」初級>、<「火」初級>が二本、<「麻痺」初級>の魔法陣が刻まれていた。電気剣とか、赤熱剣とか、それだけで相対する相手はいやだろうなあ。


 問題なのは古代の剣だ。鞘から抜くと、その異様さがよくわかる。

 まず、形状が変だ。叩いたり研磨したりしていない鉄の板をそのまま柄にくっつけたかのような形状をしている。剣身は長さ六十センチメートル、幅二十センチメートルほどの長方形、厚みは二センチメートルほど。しかも剣身にはびっしりと何か文字だか模様だかわからないものが彫られている。

 次に、何の素材で出来ているかわからない。鉄にしてはやたら軽い。そして、やたら頑丈だ。


「ミトナ、わかるか?」

「んー……。普通の武器じゃないね。これだけ彫ってあれば強度的にすぐ折れると思うけど」


 ミトナが剣を手に持つと何度か振ってみる。

 ハンマー使いだと思っていたが、意外と慣れた手つきで振り回す。ミトナはそれなりに怪力だが、それ以上にかなり軽々と扱っているように見える。


「これだけ軽いなんて、何の素材かもわからない」

「儀礼用かもしれないわね。武器としては使っていなかったのかもしれないわ」

「……そんな無駄なことを、あのナントカ将軍がするのか? 残された武器とか見ても、実利一直線って感じを受けたぜ?」


 言っているフェイもその点は感じているらしく、微妙に納得のいかない顔をしていた。


「一度ショーンに見てもらってくれるか? 魔道具関連なら何かわかるだろ」

「そうしてみるわね」


 ミトナが古代の武器を魔術ゴーレムに手渡す。魔術ゴーレムは背負っていたバッグに鞘ごとつっこんだ。そこまでじっと見ていたマカゲが質問とばかりに手を挙げた。


「拙者、気になるのでござるが……。さきほどみたいにフェイ殿が起動させてみればよいのでは?」

「魔術武器なら起動できるかもしれないわね。でも、さっきの魔術剣と違って、効果範囲が読めないのよ」

「と、言うと?」

「起動した瞬間辺り一帯が大爆発の可能性もあるわ。それでもやってみる?」


 マカゲは納得したように頷いた。ピンとヒゲがはねる。やりとりをしていた俺の方にも感心した視線を向けてくる。

 いや、俺は何も考えてなかっただけなんだが。


 ひととおり戦利品の検分が終わったあたりで、俺はマカゲに声をかけた。


「うし、それじゃマカゲさん、例の件よろしく頼む」

「了解した」


 マカゲは荷物と一緒に置かれていた二振りの刀を持ってくると、作業台に載せた。

 ミトナの目が輝いた。魔術について語る時のフェイのような顔をしてる。

 ゆっくりとマカゲが鞘から刀身を抜く。波紋の入った美しい片刃が現れた。強度、切れ味だけでなく、見た目の美しさが同居している。やはりこれは刀だ。


「すごい……」


 ミトナが感嘆の声をあげる。

 刀を手に取ると、その刃の様子や、拵えの意匠などをつぶさに観察している。


「どうやったらこんな武器が打てるようになるんだろう……」

「いや、たしかベルランテあたりでやってる武器の作り方とは違った気がする……たぶん」


 何だっけ。たしか大熊屋で売ってる武器類は、素材を溶かして型に入れて成型して、それから叩いたり研磨したりして刃をつけていくんだっけ。

 日本刀もかなりたたいて造っていた気がする。なんか違うんだよな。

 ミトナが刀について聞きたいと言っていたし、ここで教えてもらおう。興味もあるし俺も同席させてもらうか。


「マカゲさん、造り方も教えてくれます?」


 マカゲは一息熱のこもった息を吐くと、真剣な表情で切り出した。


「マコト殿たちは命の恩人ゆえ、謹んで伝授させていただく」



「拙者、マコト殿もご存知の通り、ここよりはるか南、カツランの刀匠だ」


 ……カツラン? 聞いたこともないけど。

 ミトナの耳がピンと立つ。すすす、と俺の横まですべるように移動すると、こそこそと小声で話しかけてきた。なんだか興奮してる感じがする。


「マコト君。この人カツランの刀匠ってホント?」

「いや、いまマカゲさん本人が言ってただろ」

「カツランの刀匠というと、かなりの稀少技術だよ。作品自体は残されてるけど、あまり表に出ることはないの」

「へぇ。人助けはするもんだな」


 確かに大熊屋でも刀は売ってないもんな。冒険者で装備してる人っていたっけな。今度気をつけて見てみるとしよう。


 そうするうちにマカゲの準備が整ったらしい。

 マカゲが作業台の鉱石類を指し示しながら説明を始めた。


「まず、大事なのは素材の選別――――」

「何度も叩くことで鋼を均一に――――」

「泥を使――――」

「――――水打ち――――」


 マカゲの説明に、ミトナが真剣な顔で聞き入る。なぜかその後ろで熊の巨体も頷きながら聞いている。いつの間に来たんだウルススさん。

 真剣な三人をよそに、面白くない顔をしたフェイが俺に話しかけてきた。


「ねぇ、マコト。何を話してるかわかる?」

「うん。――――さっぱりだ」


 鍛冶屋にしかわからない専門用語だらけで、何を話しているかまったくわからない。興味はものすごくあったが、やっぱりこれは長いこと修練を積んでいる人じゃないととわからないな。

 しばらく話し込む三人を眺めこんでいたが、まだまだ時間がかかりそうだ。場合によっては一日中かかるかもしれない。

 クーちゃんが退屈そうなようすで毛づくろいを始めた。


 言葉にする必要はない。フェイと意見が一致したのを感じた。


「魔術師ギルドに行ってショーンに見せに行くわ」

「俺は冒険者ギルドでも行ってこよう」


 きっと鍛冶の技術はウルススさんとミトナが獲得してくれるはずだ。それに期待しよう。

 適材適所! 自分にあったことをしよう。

 

 俺とフェイは三人を残すと大熊屋を出たのだった。

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