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第7話「大熊屋」

いつもありがとうございます! ゆっくり進行です。気長にお付き合いください。

 俺は冒険者ギルドを出た。広場の中央にあるすり鉢ステージの客席に座りこむ。


 クーちゃんが肩からぴょんと飛び降りた。ずっと肩に乗っているのは飽きたのだろう。クーちゃんがあたりを嗅ぎまわるのをなんとなく見守る。ひとまず考えを整理したい。


 必要なのは準備だ。E:布の服 では迷宮(ダンジョン)攻略は心もとなさすぎるだろ。

 武器と防具。あとは採掘に必要な道具あたりか?

 やっぱり怪我する可能性もあるだろうな。応急手当が出来るようなものも必要、と。

 そこで俺はふとクーちゃんのことを思い出した。


「クーちゃん、回復魔術使ってなかった?」


 馬車の中で、クーちゃんの額の宝石からビームが出たのを俺は見ている。あのビームで人子の傷が治っただろ。回復魔術があれば心強い。ていうか、<ラーニング>で覚えられるんじゃないか?


「きゅ?」


 クーちゃんは小首をかしげ、不思議そうな顔で俺を見つめるだけだった。やっぱだめか、言葉は通じてないみたいだ。そもそも、なんで俺が懐かれているんだ? よくわからん。

 クーちゃんの頭をひとなで。ふわふわした毛皮がとても気持ちいい。


 人子……。猫子……。名前すら聞いてなかったもんなあ。

 無事なのかすら分からないな。

 最後の瞬間の2人の顔が思い出される。

 出来るだけのことはやった、はずだ、たぶん。気にしないようにしよう。


「とりあえずシーナさんが言ってた大熊屋ってところに向かいますか」


 吹っ切るように、俺は声を出して言った。

 とにかく買い物だ。



 目当ての大熊屋を見つけるのには少し時間がかかった。広場を中心に路地をしらみつぶしにあたったが見つからず。広場に居た人に尋ねたらあっさり場所が判明したのだ。

 ていうか、始めから訊けばよかったな。知らない街を地図もなしに探すのはかなり難しい。

 まあ、歩き回ったおかげでこの辺の地理には詳しくなったけどな。大熊屋捜索の途中で宿屋とかあやしげなマジックショップも見つけたし。収穫はあったな。


 吼える熊の顔の看板が軒先に下がっている。おそらくここだろう。

 おそるおそる入り口のドアを開けて中に入る。


「らっしゃい!」

 

 年季の入った渋い声が俺の耳に届いた。

 声がしたほうを向いた俺は、全身が硬直した。脂汗がどっと出る。


 熊だ! 熊がいる!

 俺の耳がおかしくなったんじゃなければ、熊がしゃべった!!

 いや、熊がしゃべるなんて耳がおかしくなった!!

 クーちゃんも全身の毛を逆立てて硬直してる!


 しかもあの熊、毛皮の上からシャツを着込んで、しかもエプロンまでつけてやがる……!

 なんなんだ!


 いや待て! くわれる!? これは生命のピンチか!?


「ボウズ? おい、ボウズ! ……だめじゃな、こりゃ」


 体長3mくらいはあろうか。天井に頭が着きそうに見えるほどの巨体。これほどの巨体だ。威圧感がすごい。あの腕を見てみろ! 頭に一撃くらったら頭蓋なんて吹っ飛ぶんじゃねえか?

 ていうかこんな街中に!


「く、熊が……!」


「お、気がついたのう。大丈夫かボウズ」

 

 しばらく呆然としていた俺の意識は、目の前でぶんぶん揺れる熊の手に気づいて戻ってきた。

 よく見ると、熊の手じゃねえな。毛皮に包まれてはいるが、五指がちゃんとある。

 猫子のことを思い出した。これも獣人の一種……なのか?


「おお、よかったわい。急に動きが止まるから死んだかと思っとったぞ」


 ガハハと笑いながら、熊男がのっしのっしとカウンターへと戻っていく。


「ようこそ大熊屋へ! ワシが店主のウルススだ! 何か入用かのう?」


「あ、ああ。武器が欲しいんだ」


 俺はいまだ硬直しているクーちゃんをなでると、抱き上げた。

 死ぬかと思ったほどびっくりしたが、とりあえず害は無いようなので、当初の目的の買い物をせねば。

 死んだふりをしようと思ったのは内緒だ。


「まあ、ここは武器屋じゃからのう。して、どんな武器が欲しいんじゃ?」

「どんな武器って……剣とか? かな?」

「剣といっても様々じゃぞ。ナイフ、短剣、片手剣、両手剣。直剣か? 曲刀か?」

「よ、よくわからないんで、何でもいいんだけど……」

「そもそも何に使うんじゃ。目的があろう?」


 俺は腕組みしたウルススさんに言った。


「俺、冒険者になりたいんだよ。それで、魔物とかに対抗できるような武器が欲しいんだ」

迷宮(ダンジョン)に行こうって言うんじゃな? まあ、生き方は個人の自由じゃて、止めはすまいがのう……」

 

 え、何? この「オマエには無理」みたいな雰囲気。


「俺、この街に出てきたばっかなんだけどさ。荷物も今持ってるもんが全部だし、全財産で200シームくらいしかないけどな。そんだけ身軽だったら、何にでもなれるだろ?」


 そうだよ。

 あんな会社で、死ぬほど頭下げて、生きてるって思えなかったもんな。安定のために、生きるためにとかいって、結局死んだ原因はあの生活のせいだもんな。

 いま、何もないギリギリの生活だけど、すっげえワクワクしてる。不謹慎かもしれねえけどな。


 俺はウルススさんにじぃーっと見つめられてるのに気づいた。

 え、何? 怖ェー。俺、食べられる?


「よし、わかった!」

「え、何が!?」


 しばらく難しい顔……だろう、たぶん。顔は熊なのでたぶんそんな雰囲気だ。その難しい顔をしていたウルススさんだが、急に吹っ切れたように叫んだ。


「ボウズ、金はどんぐらいある?」

「予算は200シームくらいだな」


 ウルススさんは再びのっしのっしとカウンターから出てくると、店内に展示されている物品を探り始めた。壁際にかかってる盾や、床に置かれたでかい包丁立てのようなホルダーにはいった剣などを物色する。壁や床に色々な物が当たるたび、クーちゃんの耳がぴくぴくと動いた。


「ボウズ、<身体能力上昇(フィジカライズ)>は使えるかの?」

「いや、まだ覚えてないけど」

「なら、革系防具で揃えるか。荷物袋も要るのう……」


 大きく丈夫そうな荷物入れ。革の胸当て。丸められた大きな布。どさどさとカウンターの上に商品が載せられていく。


「よし、こんなもんじゃろ。この近辺で働くにゃ必要なモンを用意しておいた」


 満足そうにウルススが言う。

 あれだ。言わゆる「冒険者初めてセット」というやつか。

 て、アレ? 大事なモンがないよ?


「ウルススさん。武器ないよ武器」

「おお、そうじゃったそうじゃった。ワシの目利きによると、おぬしにはこれがピッタリじゃ。これを使うがよかろう」


 俺はウルススさんから投げられた武器をキャッチした。




 E: ひのきのぼう


 すべすべに磨き上げられ、手にフィットするこの感触。

 両手を広げたくらいの長さが、あなたの歩行をアシストしてくれます。

 そう、今一番ベルランテでトレンディな武器!

 

 ちょっとおおおおおおおおお!

 初心者武器の定番すぎて! すぎて!


「ウルススさん、ピッケルとかもないんだけど?」

迷宮(ダンジョン)じゃろ? 採掘所で掘るより、岩喰いトカゲを叩くんじゃ。そいつらは仰山マナストーンを体内に溜めこんどるからのう」


 いいことを教えてもらった。

 それに、これ、だいぶ値引きしてもらってるんじゃないか? 相場がよくわからないから何ともいえないが。


 俺は200シームをウルススさんに払う。


「それと、門出の祝いじゃ。持っていけ」


 俺はウルススさんから渡された布地っぽい何かを広げてみる。

 これ、フード付きマントだ。いろいろとさっそく装備。


 E:革の胸当て

 E:フード付きマント


 おお、冒険者っぽい!


「ありがとう、ウルススさん」

「礼はいい。代金はもらっとるからのう。それより、金を稼いでまた来るんじゃ」


 ガハハと笑うウルススさん。


 絶対にまた来よう。次こそ武器っぽい武器を売ってもらいたいものだ。


 クーちゃんをともなって外に出た。


 そろそろ夕方か?

 暗くなる前に、一度迷宮(ダンジョン)を見てみることにするか。

 

読んでいただき、ありがとうございました! 更新は2日後の予定です!

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