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第60話「地の底の住民」

 魔術ゴーレムが起動する。

 フェイは魔術ゴーレムを床に置くと、少し離れた。俺とフェイはドキドキしながらその様子を見つめていた。

 球形の胴体部分に掘り込まれた魔術溝を光が走る。一瞬のち、胴体部分に小さな緑色の光円が点る。

 フェイが息を呑んだ。


『――――起動完了』


 この球形の胴体のどこから声が出ているのかわからないが、確かに喋った。同時にギクシャクとした動きで立ち上がろうとして、失敗する。ガシャン、とひざから崩れ落ちて転がる。何とか起き上がろうとじたばた腕を動かす姿はひどくユーモラスに見える。


「……起き上がれないみたいだわ」

「……みたいだな」


『経年劣化ニヨル機能不全ヲ確認。命令遂行機能ニ支障ガアリマス』

「何か言ってるわね……何て言ってるのかしら。声を出す機能があるなんて、さすが古代の魔術ゴーレム、すごいわ」


 フェイが難しい顔をして、ジタバタ床を転げまわる魔術ゴーレムを見る。クーちゃんがべしべしと前脚でパンチを繰り出すたびに、起き上がりこぼしのように揺れている。この様子を見るに危険はないと判断したんだろう。フェイは魔術ゴーレムのわきに手を入れると顔の高さまで持ち上げる。


「何て言ってるのかわからないわね……これ、たぶん古代語よ」

「いや、俺には……」


 そこまで言って途中で俺は言葉を切った。

 そうか、思い当たる節がある。パルスト(かみさま)による言語翻訳だ。

 これまで俺は不自由をしてなかったので気にしてなかったが、たぶんこの世界の言語は翻訳されて俺の耳に届いている。ハーヴェの時代錯誤な話し方も、その翻訳の変換の差異のはずだ。

 人間の神様だけあって、人の話す言語であれば翻訳が可能というわけだ。それがたとえ古代の言語であったとしても。世界が生まれた時から存在している神様にとっては、古代語も現代語も方言の違いでしかないんだろうか。

 だが、理解できるのは運がいい。音声入力とか出来ないだろうか。そこまでは願いすぎか。


「それにしても、坑道作りに魔術ゴーレムを利用してたのかしら?」

「まあ、事故で人命が失われたりはしなくなるんじゃないか」



 危ない仕事は機械など無人機にやらせるようになるのはどの世界でも同じなのだろう。できるだけ安全に、できるだけ効率よく。

 ここは電気と回路の世界ではないが、代わりに魔術という技術があったわけだ。使う技術は違えど、発想にはあまり変わりはないな。


「あの魔道具オタクがいればもっといろいろわかるんでしょうけど……、この子がすごいってことしかわからないわね」


 魔術ゴーレムはじたばた暴れると、フェイの手から逃れる。こけるかと思ったが今度は着地した。両の脚で立つと、俺達を無視して歩き始める。


「あ、追いかけるわよ!」

「お、おう」


 俺達は光球を道しるべに設置しながら魔術ゴーレムを追いかける。幸いおじいちゃんが歩くくらいの速度しか出ていないため、追いかけるのは容易だ。


「どこに行くつもりだろ」

「採掘しにいくか、拠点に戻るかだと思うわ」

「賭けだな。採掘ポイントだと無駄足だぞ……」

「うるさいわね。その時は戻るわよ」


 魔術ゴーレムの後を追う。いつしか俺とフェイは無言になっていた。無邪気なのはクーちゃんだけで、明かりが届く範囲をちょろちょろと行ったりきたりしている。

 

 やがて魔術ゴーレムはある部屋に辿りついた。扉の表面をさざ波のように緑色の光が走り、扉が開く。

 俺とフェイは中を覗き込む。


「何……これ……」

「…………」


 中には大量の人形がその身を折りたたむようにして座っていた。フェイが起動させたのと同タイプのものもあれば、腕も脚もかなり大きめの魔術ゴーレムも座った状態で止まっていた。場所も様々で、歩き回っていた最中に急に動きを止めたかのような……。


「す、すごいわ! こんなに魔術ゴーレムが!! やっぱり探索して正解よ!!」


 フェイが歓声をあげながら部屋に突入する。待ってくれと伸ばした手が空振った。目を輝かせて動きを止めている魔術ゴーレムたちを触ったり叩いたりし始める。クーちゃんもフェイにじゃれつくように後を追う。


 すごく嫌な感じがした。

 何か思い違いをしてないか?


 フェイを連れ戻さないと。俺は室内に足を踏み入れた。

 うずくまる魔術ゴーレムたちをおっかなびっくり避けながらフェイの下へと進んでいく。見てみると五体満足じゃない魔術ゴーレムも多い。


「フェイ、戻ろう。なんだか嫌な予感がする」

「何言ってるの、これだけの大発見よ……。全部持って帰りたいわ!」

「初めのほうの<光源>が消える。元の場所に戻れなくなる」

「しょうがないわね。全部持って帰れるわけじゃないし」


 フェイは言いながら野球ボールサイズの球体を両手に俺のもとへとやってくる。黒に近い紫色をした球体。まるで宝石みたいなそれを、大事そうに抱えると布に包んでウェストポーチに突っ込む。


「何だそりゃ」

「たぶん魔術ゴーレムの核のマナストーンよ。壊れてるやつの内部にも同じ球体があったわ。ゴーレム研究所に売りつければ破格の値がつくはずだわ」

「……俺にも分け前が出るんだろうな」

「魔術師ギルドの活動資金になるわ、もちろんね」


 高揚感からか熱っぽく語るフェイの背中を押して部屋の出口へと向かう。クーちゃんを呼ぶと、すぐに戻ってきて俺の身体を駆け上がり、フードにおさまった。

 フェイの脱出アイデアとやらで早く脱出したい。持って帰るつもりか、フェイは途中で通路で出会った魔術ゴーレムを抱えあげる。


「持って帰るつもりか?」

「もちろんよ。この子一体くらいなら抱えられそうだわ」

「好きにしてくれ……。ところで、フェイの言ってた脱出の考えって――――」


 うずくまる魔術ゴーレムの身体を、さざ波のように赤い光が走った。

 さっきも見た起動の合図。痙攣のような動きで、両腕を動かし始める。

 俺とフェイの動きが止まった。


 連動しているかのように、二体目、三体目と魔術ゴーレムの表面を赤い光が走り、ぎこちなく蠢き始める。


 すごく嫌な感じがした。

 宇宙船に宇宙生物が徘徊する映画を見たことがある。卵を宇宙船に産み付けて、それが孵って船員達を襲うのだ。その卵を見つけてしまった時のような……。


「フェイ、マナストーン突っ込んだりしたか?」

「し、してないわよ……! そんなに持ってるはずもないでしょ」


 言っている間に起動は伝播していく。いまや壊れている、壊れていないにかかわらず、全ての魔術ゴーレムが蠢いていた。

 赤色の円光が点る。同時に赤の光の前あたりで魔法陣が出現、割れ砕けて起動した。


「……きゅっ!」


 クーちゃんの短い鳴き声。


体得(ラーニング)! 魔術「空間把握(エリアロケーション)」 をラーニングしました>


 何だこれ!? 知らない魔術!

 俺の身体には異常はない。変な現象もない。<探知>や<印>のような調べる系の魔術!?

 ていうか魔術ゴーレムって魔術が使えるのか!? 


 魔術を放った魔術ゴーレムから、古代語での音声が聞こえる。


『――――排除対象2、確認。動力確保ヲ』


 腕を突き出し、明らかに俺達に向かって動こうとしている魔術ゴーレム達。これ以上この部屋に留まり続ける理由は無い。


「逃げるぞ!」

「わ、わかったわ!」


 俺とフェイが通路に飛び出す。

 魔術ゴーレム達はガキョン、ガキョンと足音を響かせて追いかけてきてる。部屋の出入り口に殺到して一度詰まるが、膨れ上がるようにして通路へ転がり出してくる。さっきよりも挙動が安定してきてるのがわかる。


「さっきはスケルトンで、今度はゴーレムかよ!」

「スケルトンより足は遅いわよ! 急ぐわよ!」


 通路にところどころ点在するガラクタの山からも赤い光が見える。どうやらそこかしこに追手が存在するようだ。

 <身体能力上昇>をかけている分俺の動きは強化されている。進路上で待ち構えていた魔術ゴーレムに蹴りを入れて吹き飛ばす。大人くらいの大きさの魔術ゴーレムだ。見た目より重い。


「ッガアアアァァアアアアアッッ!!」


 <衝撃>+<たけるけもの>の衝撃咆哮が進路上でスクラムをつくりつつあった人形サイズゴーレム達を吹き飛ばす。


 どうやら魔術ゴーレムは大きく三種類。

 フェイが抱えている人形サイズゴーレム。軽い。脅威度は低い。

 大人サイズの中型ゴーレム。ちょっと重い。数が多い。

 三メートルほどの巨人サイズのゴーレム。正直ぶつかりたくない。足が遅いので気にしない。


 開けっ放しの外への出入り口をくぐる。ここから出れば追いかけてこないかと言えば、そうではないらしい。後ろから赤い光の大群が雪崩のように迫ってきているのが見える。


「落ちてきた地点まで戻るわ!」

「わかった!」


 点々と浮かぶ光球を追いかけて落下してきた地点を目指す。


 見えた! 瓦礫の山! 最初の地点だ!


 フェイが抱えていた魔術ゴーレムを降ろす。ウェストポーチからベルトのようなものを取り出すと、素早く自分の背中におんぶひものようにくくりつけた。さらにウェストポーチから美しい腕輪、指輪をいくつか取り出すと全て身に着け始める。


「それは?」

「マナストーン装備よ」

「んで、俺はどうすればいいんだ?」

「魔術の詠唱が終わるまで守って!」


 フェイはぐっと頭のゴーグルを引き下げると、正しい位置で装備する。

 自信たっぷりの表情で、にっと笑う。不敵な笑み。腕をまっすぐ上に伸ばし、人差し指で天を指す。


「――――飛ぶわ!」

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