第5話「貿易都市ベルランテ」
とうとう街にたどりつきました。ここを拠点でがんばってもらいましょう。ゆっくり進行です。気長にお付き合いください。
森を抜けてどれくらい歩いただろうか。
かろうじて道といえそうなところを歩くが、周りには田畑と粗末な小屋が見える。一面の畑に麦のような作物が実っているのを見る。
前の世界では目にすることも珍しくなっていた景色だ。風に揺れる穂を見て、ちょっと感動する。
「すれちがう人が多くなってきたな」
「そろそろベルランテが近いからな」
レジェルが俺に向かって言う。
森を抜けた今、レジェルとシーナはとても気楽そうに歩いている。クーちゃんはレジェルが背負っている荷物の上で丸まって楽している。ときおり耳がぴくぴくと動くところを見ると、寝ていないのか?
2人もリラックスしているし、クーちゃんもおとなしい。農家さんのような人の通りもそこそこあるところを見ると、こういった大きな道で魔物が出ることはあまり無いんだろうな。
うお! なんだあの生き物! 牛のようにでっかい短足の犬みたいなのが荷車を牽いてる。
あんなのもいるんだな。
こりゃ、何が起きても驚かないようにいろいろ聞いておいたほうがいいか?
「聞いていいか? ベルランテってどんな街なんだ?」
初めての大きな街だ。どんな街がくらいは知りたいからな。
「ベルランテは海に面している貿易都市よ。王都も王都でおもしろいけど、貿易の窓口だけあって、色んな人や色んな情報が集まるのが面白いかな? やっぱり獣人の数が多いから、依頼でパーティ組む時なんかは面白いよね」
人差し指を立てて説明口調でシーナさんが説明してくれる。ありがとうございます!
「そういや、ベルンさんとウルススさん元気かな?」
「あの熊親父たちなら殺したって死なんだろ」
レジェルとシーナさんが2人にしかわからない話を始めたので、放っておくことにする。別にさみしくなんてない。本当だ。
それよりようやくベルランテの街らしき姿が見えてきていた。
大きめだが簡素な門と門兵。そして街をぐるっと囲むのだろう壁が見える。しかし、大きな貿易都市って言ってたわりになんか規模がしょぼいな。
「……っと、すまんなマコト。見えてきたあれがベルランテだ。こちら側は森があるくらいだからな。門も質素なもんさ。王都へ続く主街道がある正門はかなりでかいぞ。竜も通れるだろうな」
まあ、そりゃそうか。門がひとつしかないわけがないしな。
ってか今『竜』って言った? いるの? いるんだろうなあ。何たって異世界だしな。
そんなことを言っている間に門に到着する。門兵にレジェルとシーナさんが胸元から取り出したペンダントみたいなものを見せると、あっさりと通ることができた。俺って一体どういう扱いなんだろう?
大通りに出ると、目に見えて人の数が増えた。
なんだか駅前を思い出すな。
俺たちは大通りに入る手前で足を止めた。
「マコトはベルランテに来るのは初めてだな?」
「そうだな」
「このまま進むと大広場に突き当たる。そこから海方面に行けば港、そのあたりに主要な施設がある。街の仕事に就いたり農民になるなら市政局、冒険者になるなら冒険者ギルド、保護を求めるならパルスト教会、船乗りになるなら港だな」
「冒険者になるつもりなら、大熊屋っていう武器屋がオススメよ」
レジェルはそういうと俺の肩を励ますようにドンと叩いた。シーナさんものっかって背中をバンバン叩いてくる。ちょ、痛い。
「せっかく拾った命なんだから。ドーンと生きなきゃね?」
「がんばれよ! 縁があればまた会えるだろ」
レジェルはそう言うとさっさと歩いていってしまう。
その背の荷物の上からクーちゃんが飛び降りると、滑らかな動きで俺の足元に擦り寄ってくる。
「って、あれ? 俺がいなくてもギルドからの報奨金ってやつはもらえるのか?」
「報奨金がもらえることもあるけど、かなり状況は限定されるわね。レジェル、かっこつけたいだけなんだから、かっこつけさせてやってよ」
シーナさんが笑顔でそう言う。レジェルの兄貴、その気持ち、ありがたく受け取ります!
悪い奴もいるが、もちろん良い人だっているもんだな。当たり前のことか。それはこの世界でも元の世界でも変わらねえな。
「まだまだ魔術もヘタなんだから、いっぱい練習してうまくなるんだよ」
シーナさんの声。考えているうちに、シーナさんも離れていっていた。こちらに笑顔で手をふると、雑踏の中へと消えていく。
さて、俺はどうするかな?
どの世界でも生きていくためには色々なものが必要だ。洞窟石オノ生肉生活をするのでなければ、お金を稼がねば生きていけない。
レジェルの言葉を思い出す。
街で働く、農民になる、冒険者になる、教会のお世話になる、船乗りになる。
第1候補は冒険者だな。魔術も使えるからな。
農民になる……パス。
教会の御世話になる……宗教とかなんか怖そうだからパス。
船乗り、力仕事、大変、パス。
第2候補で街で働くって感じか?
スライム玉も換金したいし、何が売ってるかも見てみたい。
住むところも考えないとな。
この『魔術』ってやつも色々試してみないとだめだしな。『ラーニング』も条件よくわからんし、調べないと。これは俺の生命線。できるだけ早めに取り組みたい。
「ああ、もう!」
考えることが多い! 俺は思わず頭をかきむしる。
「きゅー?」
クーちゃんが不思議そうに俺を見上げる。
「とりあえず、冒険者ギルドに行ってみるか!」
まだ日が高い。とにかく動いてみよう。
読んでいただきありがとうございました! 2日後更新予定です。