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第47話「属性」

一部改稿いたしました。2015.7.19

「アンタ、ほんとに非常識なのよ!」


 フェイが不機嫌な声で俺をなじる。いつものふたつおさげが怒ったように跳ねている。

 俺は訓練場の大きめの岩に腰掛けた状態で、フェイの言葉を聞いていた。フェイは、俺の前に立つと、さきほどから俺の非常識な行動についてひとしきり文句を言っていた。

 どうやらフェイの不機嫌の原因はいきなり魔術訓練場に出現したアルドラが原因だったようだ。

 フェイが魔術の訓練をしていたところに、いきなり魔物が現れたのだ。そのときのパニックたるや、すごいものだったらしい。

 その時に訓練場にいる者はパニックを起こして逃げさるし、なぜかフェイは飛び掛かられて犬の玩具よろしく遊ばれてしまったようだ。危害を加えないようにアルドラには思念で伝えている。問題はないと思っていたのだが、サイズがでかいだけで結構な脅威になるようだった。

 アルドラは満足したのか、今は訓練場の隅で丸まって遠くを見ている。

 フェイとアルドラのその時の様子を想像して俺は小さく吹き出してしまった。


「いいだろ。慣れるとかわいいぞ?」

「大きさを考えなさいよ! 死ぬかと思ったわよ。あんたもドラゴンとかの高位魔物に遊んでもらえばいいのよ」

「ドラゴンっているのか?」

「何よ、知らないの?」


 フェイはまだ不機嫌なように見えたが、律儀に説明はしてくれるようだ。というか説明をしなくちゃ気がすまない性格なんだろうか。


「世界には魔物が存在してるわ。これくらいは知ってるわね?」

「さすがにな。冒険者もやってるし」

「魔物のほとんどは獣同然の知能と身体能力を持ってるわ。ただ、長く時を過ごした魔物や、特定の種族の魔物は考えられないほどの存在になっちゃってるの。たとえば地竜や火竜とかの竜種とかね。剣や槍とかは通じないほど硬いらしいわよ。文献によると魔術のように属性を操ることすらあったとか言われてるわね」


 俺が知ってる『ドラゴン』とどれほどの違いがあるかはわからないが、聞くかぎりは似ている気がする。属性を操ることについては、おそらく『魔法』だろう。スライムですら氷を操るのだ。ドラゴンがそれができないはずがない。

 魔術に初級や中級があるんだから、もしかしてドラゴンからラーニングすればもっとすごいものが操れるんじゃねえか?


「人型の魔物もいるわね。人間と外見はさほど変わらないらしいわ。でも頑健さや攻撃力、人に対する残虐性がとても高いとか何とか。冒険者に退治されるって噂も聞くし、冒険譚や英雄譚でもよく登場するわね」

「へえ……」

「何にせよ自然災害クラスの魔物よ。死にたくはないし、出会いたくはないわね」


 フェイは言葉を切ると、俺から少し離れる。さきほど中断した訓練の続きをするつもりなのか、訓練場に設置されている的に向かって集中を始めた。ふわっとおさげが浮いたかと思った瞬間に、魔法陣が浮かび上がる。

 魔術が起動した。

 四本の火炎槍が空中に浮かぶ。ほんの数瞬だけタイミングをずらしながら射出された火炎槍は狙い過たず的へと飛んでいく。

 射出とほぼ同じタイミングで二つの魔法陣が浮かび上がった。魔法陣が割れた瞬間に、さらに四つの魔法陣が現れる。もはや雨のように降り注ぐ火炎槍。的はすでに炎に飲み込まれて姿すら見えない。


「おいおい……」


 魔法陣が二つ同時どころか、四つ同時かよ。

 フェイはひとしきり八つ当たりのように訓練場の地形を穴だらけに変え、満足そうに息を吐いた。

 俺のほうに振り向いた。


「さて、最後の講義かしらね」

「……? 最後なのか?」

「基礎講義だと今日で最後になるわね。まあ、魔術師をやっていくつもりならこれからも縁はあるわよ」

「そっか。毎日フェイのところに来てたから行かなくなるのも変な感じだな」

「…………いらないこと言わないでよ! まったく、調子狂うわ」


 フェイが複雑な顔をしてそっぽを向いた。しばらく俺に聞こえない程度の音量で何かをぶつぶつ言っていたが、持ち直したらしい。俺に向き直る。


「さっき私の魔術を見せたのはなんとなくじゃないわ。魔術の高みを知ってもらうことと、魔術の種類についてわかってもらうためよ」

「種類っていうと初級とか中級ってやつか?」

「それもあるけど、もう少し大きな分類ね」


 フェイは人差し指を立てると、俺の鼻先に突きつけてくる。


「まず、『自然魔術』と呼ばれるものよ。あんたも使ってるけど、火炎や氷結、水撃や雷撃といった自然現象に酷似したものね。自然現象じゃないけど、衝撃もここに入るわ」


 魔術と魔法をあわせると、現状俺は「氷結」、「火炎」、「雷撃」、「衝撃」の属性を使えることになるな。水撃とかあるのか。水の妖精みたいな魔物とか人魚とかが使ってきそうだな。一回海まで遠征してみるのもいいな。


「次に『付与魔術』ね。<光源(ライティング)>や<解呪(マナフラッシュ)>とかの魔術のことを言うわ。身体能力を強化したり、逆に麻痺にしたりする魔術もここに含まれるの。パルスト教とかは役に立ちそうなこの辺の魔術を『神聖術』とか言って使ってるけど、私に言わせりゃどっちもやってることは変わらないと思うわ」


 パルスト教の話になると、フェイの顔が微妙に嫌そうな顔になる。

 魔術師とパルスト教って仲が悪いのかね?


「それで、これが最後ね。それぞれ魔術師は得意属性があるのよ。たとえば騎士団のバルグムなら雷撃、私なら火炎、とかね。その人が持つ固有マナに関係してるって言われてるけど、詳しいデータが足りないわね。……一回シニフィエまでいって研究文献でも漁ってこようかしら」

「シニフィエって言うと魔術学院があるとか」

「そうよ。これでもシニフィエの魔術学院に通ってたんだから」


 フェイが自慢げに胸に手をあてて言う。

 十七、八くらいに見えるが、ホントは二十五とか三十とかなのか? それとも小学校のような幼年部門もあるとかってことか?

 何にせよフェイの知識はそこから来てるんだな。


「それで、俺の得意属性ってなんだ?」

「うーん。そうね。複数の魔術持ってても、咄嗟に使う魔術とか気に入って使う魔術って偏ってこない?」


 言われてみれば、俺はよく氷系統の魔術を使う傾向がある。最初に覚えた魔術は「火」初級だが、それよりはるかに使用回数は高いな。

 ただ、どの属性も苦手ってわけじゃないんだよな。ラーニングで覚えた魔術は反則なくらい『使える』ようになる。魔術の起動に失敗したことがないからな。


「たぶん氷結かな」

「へえ、あんたの性格だと呪いとか状態異常の類だと思ったけど」

「……それは俺の性格が悪いとか言いたいのか」

「べっつにぃ~。そういえば、あんたは今は何の魔術が使えるのよ。暇があったら覚えてない魔術について調べておいてあげるわよ。退屈が致死量超えそうなほど暇があったらね」


 このやろう。

 まあ、調べてもらえるならそれにこしたことはない。ラーニングという俺の特殊なスキルを考えれば魔術師ギルドの魔術情報はとても有為だ。


「ええと…」


 俺は頭の中で今覚えている魔術を整理する。まあ、『魔法』は言わないほうがいいだろうな。あとは<治癒の秘蹟(サクラメント)>も秘密にしておこう。

 自分の魔術構成について教えるのはちょっと危ない気もしたが、ここまで講義を受けさせてくれたことと、教えないことで魔術を覚えられないことがあっても困るし、素直に言うことにする。


「まず<「火」初級>、<「氷」初級>だろ」

「うんうん」

「んで<「雷」初級>、<「衝撃」初級>、あと<光源(ライティング)>、<(マーカー)>、<探知(ディテクト)>」

「ちょ、ちょっと……」

「あとは<麻痺(パラライズ)>と<身体能力上昇(フィジカライズ)>。あ、<解呪(マナフラッシュ)>もあったな」


 気づくとフェイは黙り込んでいた。

 俺のことを地面の上を歩いている魚を見るような目で見ている。


「ギルドに初めて来た時も、そんなこと言ってたわよね。悪いけど信じてないわ。それに、それだけ習得しているのだとしたら、私から教わることってないんじゃないの?」

「い、いや、そんなことはないぞ!」


 信じてもらえてなかったのか。よくあるレベルを上に見せるために話を盛っているのかと思われていたらしい。


「知ってるくせに講義を受けてるとしたら、すごく悪趣味だし。まさか、シニフィエの秘密試験管とかいうオチじゃないでしょうね?」

「ないない!」


 俺は顔の前で両手を左右にぶんぶん振って否定する。

 そんなふうに言われても、普通の魔術師がどれくらい魔術を覚えてるかの平均値とか知らないしな。

 全部使ってみて信じてもらうしかないのか?


 フェイのジト目を受けながら、冷や汗をかいている俺に、助け舟が現れた。訓練場に姿を見せたのはハーヴェだった。だが、様子がいつもと違う。真剣度が違うと言うか、雰囲気がいつもより張り詰めている。

 フェイも不思議そうな顔でハーヴェを見ている。


「マコト殿、ミトナ殿はこちらに来ているでござるか?」

「いや、ここは俺しかいないけど?」

「そうでござるか……」

「どうかしたか? あ、代金のことか? それなら後でミトナと相談を――――」


「そのミトナ殿が攫われた可能性があるでござる」


「ハァ!?」


 思わず俺の口から変な声が漏れる。ミトナは熊耳が生えてるだけあって、その膂力はかなり強い。かなりの重量を持つバトルハンマーを軽々振り回すところや、戦闘のセンスも含めてそう簡単に誘拐されないと思うが……。


「自分もいつもの情報源から聞いただけなのでござるが。どうやら攫ったのはアジッドで、スラムに連れて行かれるところを見た、という話でござる」


 俺の頭の中は混乱していた。

 何でアジッドが!? 俺に向かってくるならわかるが、どうしてミトナが!?


「連れて行かれたって抵抗してなかったのか?」

「普通ではない様子だったらしいでござるが……。自分もありえないと思ったのでマコト殿の所に来たのでござる」

「クソっ。わけわからん!」


 俺はイライラと岩を蹴りつける。

 可能性は低いが、ミトナが何かアジッドに用事があって会いに行ったという可能性が――――ないな。いつ、どのタイミングで、どうして。


「……穏やかじゃないわね。スラムなんて人が死んでも分からないわよ? 何か手伝おうか?」


 フェイが眉を寄せた表情で俺に言う。ミトナとは面識はないが、どうやら俺の方を心配してくれてるようだ。だが、スラムに乗り込むなら危険を伴う。そういったことにフェイを巻き込みたくはない。


「いや、とにかく確認に言ってみる。行ってみたら何にもなかったってこともあるしな」


 フェイが信じてない表情をしている。そんな顔すんなよ。言ってる俺自体がそれはないなと思ってるんだから。


 だが、動くなら急ぐべきだ。

 俺は焦りの気持ちが膨らんでくるのを感じながら、アルドラの方へと駆け出した。


 

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