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第43話「衝突」

 俺とアジッドの睨み合いが続く。

 俺たち混成パーティとアジッド率いる青鮫(ブルーシャーク)は戦力差がある。

 こっちは俺とミトナ、マルフに乗ってないクィオスのおっちゃんの三人。俺は黒金樫の棒が手元にないのが少し不安だ。

 対して青鮫(ブルーシャーク)はアジッドを含め剣士が三人、威力の高そうなバトルアックス使い一人、後衛としての魔術師が一人。さらには例の白尽くめの盾使いの少年がいるのだ。

 正攻法でいけば勝てない。それがわかっているからこそ、むこうは強気なのだ。


 だが、冒険者という職業は舐められたらダメだろ。

 山賊というわけじゃないのだから、できるだけ殺す気はない。だが、怪我したり折れたりしてもしょうがねえよな?


「ちっ! やっちまえ!」


 高まる緊張感が弾ける。アジッドが号令を吠えた。

 抜き放たれる剣、構えられるバトルアックス。応じるようにミトナもバトルハンマーを構える。おっちゃんはあわてたように巻き込まれないように離れた。


 いける。こいつらはバルグムほど威圧を感じるわけでも、ケイブドラゴンほど強靭なわけでもない。

 アジッドが小さく合図を出すのがよく見える。


「<火槍(ファイアパイク)>!」


 先手は先ほどから一言も喋ってない魔術師。おそらく小声で詠唱を続けていたのだ。

 魔術師の声が力ある声を放つ。魔法陣が割れ、火炎の槍が出現した。貫通力強化の単体火魔術。即座に射出され、先頭に立っていた俺を狙う。


「<探知(ディテクト)>!」


 俺も同じだ。会話中にマナを練り続けていつでも魔術が使えるようにしていた。

 俺の手のひらで魔法陣が割れ、探知の魔術と同時に不可視の探知フィールドが広がっていく。二重起動で<まぼろしのたて>を起動。


「おおおおおッ!!」


 叫びながら、迫りくる火炎の槍を両の拳で真上から叩きつぶす。水の中に火種をつっこんだような音がした。火炎の槍がひん曲がり、形を保てなくなったかと思うと、ぐじゅっと潰れて散る。

 さすがケイブドラゴン革の手袋。魔術効果を減衰すればこんなことも可能か。


 <探知>の効果でそこらへんの地面に仕掛けられた<(マーカー)>が見える。俺自身にはつけられていないが、地面にいくつか設置されているのが見える。

 普通に考えればそこをホーミングで狙うということなんだが……。くそ、どう使うのかわからない。地雷みたいにつかったり、反射させたりするのか?

 

 悩んでいる俺以上に、度肝を抜かれたのは青鮫(ブルーシャーク)の面々のようだった。そりゃあ素手で魔術を潰されたことはないだろうからな。全員の動きが止まっている今がチャンス!


「<火弾(ファイアショット)>!」


 おかえしとばかりに俺は火弾を放つ。魔術師が慌てて火炎の盾を生み出すのが見える。火弾は火炎の盾に阻まれる。

 俺は同時に発生させていた<いてつくかけら>の氷塊を思いっきり投げつけた。ぼすっと火炎の盾を貫通して魔術師の体に命中する。魔術師の身体がくの字に折れ、お腹を押さえてしゃがみこむ。


 これで少しの間魔術師は行動不能。この間に残りをやっちまわないとな。


「この……!」

「なにしてやがる!」

「殺す……!」


 殺気立った敵前衛が顔を真っ赤にして走り出そうとする。盾使いの少年だけは微妙な顔をして動こうとしないところを見ると、こいつはまだ大丈夫な奴なのか?

 ミトナが俺をかばうために前に出ようとする。俺はそれを手で制した。


「<フリージングジャベリン>!」


 俺の全力の叫びと同時に掲げた手の上に氷柱の槍が出現する。魔術名はハッタリの適当。なんのことはない<魔術「氷」初級>と<いてつくかけら>の合成呪文だ。

 だが、急に出現した魔術氷にアジッドたちの足が止まる。


「この魔術は大気中のマナを吸収して巨大化する!」


 氷柱の槍がメキメキと音を立てながら膨らんでいく。魔術の部分で槍の形を整えておいたので、平たい三角の刃の部分が長い槍という凶悪な形のまま巨大化していく。もはや巨人が使う大剣のようにしか見えない、氷の大刃が完成する。

 俺のマナを流し込んで増大化させてるだけなんだが、そんな理屈はアジッドたちにはわかるまい。

 

 アジッド達の顔色が目に見えて青くなっていくのが分かる。

 だが、あきらめきれない顔で、盾使いの少年のほうに叫ぶ。

 ということは、盾使いの少年なら、このレベルの魔術も防げるということなのか? どれほど信頼してるんだよ。


「な、なんとかしてくれ!」

「この依頼が終わるまでは、パーティメンバーとして貴方たちを守りましょう。ですが、この獲物については諦めてください。この人たちの言う通りだと僕も思いますよ」


 盾使いの少年は盾を手に提げたまま普通に近寄ってくる。アジッドの横に並ぶが、積極的にやる気はないようだ。

 こうやって見ると、顔立ちの整った少年だと分かる。ふわふわした茶色の髪、まじめそうな光を宿す青色の瞳。主人公顔ってこういうのを言うんじゃないか、と思える顔だ。

 服の色が違うことや、セリフから考えるに、臨時的にパーティに入ってるのか?


 アジッドは微妙な顔をしはじめた。俺の魔術を見て、できればやりあいたくないと思っているのだろうがプライドからひっこみがつかないのだろう。


「まさかそれで俺たちを殺すわけじゃねえよな? 冒険者同士のもめごとで、人死にまで出せばどうなるか分かってんだろうな? ギルドから干されるぜ?」

「それなら怒らすような挑発すんじゃねええええっ!」


 ぶちっときた。

 確かに冒険者同士の利権争いで人殺しをしていては殺伐とした職業になってしまうだろうし、ギルドからも目をつけられるだろう。

 だが、こいつらは先に剣を抜いといていけしゃあしゃあとそれを言う。


「いっぺん氷点下味わえええッ!」


 意識のトリガーを引く。氷の大刃が徐々にスピードを上げて空中を動き始める。直撃すれば真っ二つの前に圧死させてしまうので、狙いは直前の地面。炸裂時に荒れ狂う氷点下の空気を浴びるがいい!


 地面に突き立つ氷の大刃。しばらく地面に突き刺さっていたが、刃の部分がブリザードになって炸裂する。

 盾使いの少年が盾を構えた。あの若さでどれほどの修練を積んだのか、その構えは揺るぎそうに見えない。魔術的な攻撃だが、盾で防げるものなのか?


「ぐえええぅ!」

「ぎょあっ!?」

「げェうッ!」


 生み出された暴風にあおられて、全身に霜を張り付かせながら吹き飛んで転がる青鮫(ブルーシャーク)の男たち。盾で受けた少年は気にした様子もなくそこに立ち続けていた。

 俺は氷の大刃射出直後に距離を詰めている。もしかしたら少年が<範囲防御>を使うかと思ったんだがな。そしたら触れればラーニングできると思ったんだが。コイツ、自分だけガードしやがった。


 俺は転がっているアジッドの剣を蹴り飛ばすと、雪山の遭難者のようになっているアジッドの頭あたりにしゃがみこんだ。顔面をベアークローで掴む。<しびとのて>を弱く起動し、不快感を与えるようにマナを吸収する。


「命があってよかったなあ?」

「うぎぎ……!」

「できればこれからも出会わないようにしようぜ?」


 <しびとのて>の不快感は喰らった俺がよくわかっている。マナ切れでアジッドが気絶したあたりでその手を放した。ごとん、とアジッドの頭が落ちて地面を打つ。

 俺が立ち上がると盾使いの少年が近くまで来ていた。やる気か、と思ったがそうじゃないようだ。盾も背中に戻し、戦闘状態を解除している。

 少年は俺に向かって礼儀正しく頭を下げた。


「ご迷惑をおかけしました」

「お前、なんでこんなやつらと一緒にパーティ組んでるんだよ」

「僕もそう思います……。冒険者証の階級上昇試験の依頼なのです」

「なるほどな」


 冒険者の証が次の色へいくための試験として指定された依頼をこなす、ということだろう。さすがに一人で白妖犬の群れやマルフの群れを討伐するのは難しいだろう。

 こんな奴らと一緒にやらされるなんて少年も運が悪いな。


 少年はもういちど俺に謝罪すると、青鮫(ブルーシャーク)の面々の容態を見て回り始めた。

 アジッドはマナ切れ気絶。剣使いとバトルアックス使いはブリザードに巻き込まれて寒さに倒れてる。魔術師はお腹に氷塊が直撃してるから行動不能。とりあえずしばらくは大丈夫だろう。


 俺はきびすを返すとミトナのところに戻った。少し心配そうな顔でミトナが出迎えてくれた。


「大丈夫だった?」

「余裕。魔術師ギルドで鍛えてるからな」

「いやあ、さすがだね。マコト君」


 クィオスのおっちゃんもにこにこしながら戻ってきた。

 ミトナの表情を観察する。いつもの眠そうな顔に見えるが、どことなく元気がないように見える。


「あいつらの言ってたこと、気にするなよ。俺は気にしてない」

「……うん」


 もともとこの世界の人間じゃない俺は、パルスト教(人間至上主義)の考え方はわからん。見た目も人に近く、むしろ耳がついて愛らしいくらいなのに、どうしてミトナのような半獣人が蔑まれるのか。

 アジッドなんて、敬虔なパルスト教徒には見えないのに差別意識だけはバリバリだからな。なんだか時勢や雰囲気に流されて自分勝手に差別の尻馬に乗ってる気がする。そんな奴は相手するだけ無駄だ。

 ミトナもあまり気にしてほしくないな。



 しばらく待つと騎士団の人たちが大八車のようなものを押しながら現れた。騎士団装備に身を包んだ男たちがおっちゃんの前で整列して敬礼する。

 おっちゃんの指示に従って麻痺しているマルフを大八車に載せ、おっちゃんも伴ってベルランテの街へと戻っていった。

 そのころには青鮫(ブルーシャーク)の剣使いたちも寒さからなんとか回復して座り込んでいたが、騎士団にいちゃもんをつけるほどの体力と気概はないらしかった。まだ気絶しているアジッドを男たちが、魔術師を少年が背負って帰っていった。


 残されたのは俺とミトナと白妖犬(アルラフ)


「名前、つけてあげないとね」


 ミトナが白妖犬(アルラフ)の毛並みを撫でながら言う。白妖犬はされるがままになってる。伏せた状態でもかなり大きい。いまさらながらによく勝てたと自分で自分を褒めたくなるな。

 クーちゃんが白妖犬の頭の上、耳の間にすっぽりとはさまって気持ちよさそうにしていた。安定してるな。


 名前か……。そうだな、確かにそれは重要だ。いつまでも種族名で呼ぶわけにはいかないし。エルナトやアルマクみたいなにかっこいい名前を……。


「名前……ファングとかどうだ」

(……否)

「ダメ出しが入るのかよ」


 白妖犬からの思念が伝わってくる。はっきりと会話するようにわかるわけではないが、集中すれば途切れ途切れの単語のようには理解できる。


「シロ」

(……否)

「ウルフ!」

(……否)

「げれげれ」

(…………)


 最後のは無言の意思で牙を剥いたぞ、こいつ。ダメだ。もしかして名づけにもリフトア特有のルールでもあるのか? ここはあきらめてミトナを頼ろう。


「ミトナも考えてくれよ」

「ん~……。『アルドラ』とか?」

(…………是)


 いいんだ。


「じゃあ、決まりだな。よろしく、アルドラ」


 なんとなく釈然としなかったが、決まったのならよしとしよう。

 アルドラの足の怪我を魔術で癒すと、俺達もベルランテに戻ることにした。

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