第3話「レジェルとシーナ」
ゆっくり進行です。気長にお付き合いくださればうれしいです。
「おい! ――大丈――!? 今――――らな!」
――寒い。苦しい。
――体が重い。
「――――し! 息――――!?」
「水を飲――――!――! 吐――――わよ!!」
何だろう……。何か聞こえる……。
俺、まだ、生きてる……のか……?
あの子たちは……?
暖かい……。
んで、いい匂い。
「……んあ……」
俺の目を覚まさせたのは、とてもおいしそうな匂いだった。
パチパチ、ジュージューと何かが焼ける音が聞こえてくる。
俺……どうなってたんだ? 川に落ちたところまでは覚えてるんだが。
それに、俺にかかってるのは、毛布?
うっすらと目を開けると、暖かな光を放つ焚き火が見えた。ついでに、火の近くで丸まって寝てるクーちゃんの姿も。あたりはすでに真っ暗になっていた。
よかった、無事だった。
「お、起きたか?」
そんな俺に野太い声がかかった。
30代くらいだろうか。四角くいかつい髭面に、茶色の髪が乗っている。がっしりした体格、俺と同じような服の上に革鎧とマントを着込んだ男だった。
男は木の串で何かの肉を炙っている。どうやら音と匂いの発生元はこれだ。
「よし、焼けたぞ。食えるか?」
俺は男が差し出す串焼きを、じっと見つめる。
これ、もらっても大丈夫なのか……?
リメルダのババァの時みたいに、何か裏があるんじゃねえか……?
警戒だけはしておこう。
俺は串を受け取る。
まあ、肉に罪はないからな。
……うまい。
「オレはレジェルって言うもんだ。冒険者をやってる」
「俺の名前はマコトです」
「マコト……ね。ところでオマエさんどうして川なんかに流されてたんだ?」
「答える前にひとつ聞きたいです。俺より前に、2人子供が流されてきませんでしたか? 1人は人間で、1人は猫の顔した……」
「いや、流されていたのはオマエさんだけだ。……連れか?」
連れ……ってわけじゃないが。あの2人、無事に逃げ切れたってことか……?
この男、レジェルって言ったか。いい人そうに見えるが……。どこまで信用していいものやら。
「ふうむ。オマエさん……。いや、今はよそう。肉が冷める。早く食べろ」
ありがたい。余計なことは言いたくないしな。
俺は肉を食べることで口を閉ざす。
クーちゃんがぴくっと反応してこちらに顔を向けたので、冷めた部分を裂いて渡してやるとおいしそうに食べ始めた。
しばらく俺もレジェルも口を閉ざす静かな時間が流れる。
気まずい。
俺は肉が無くなって、手持ち無沙汰になる。
クーちゃんは満腹になって満足したのか、また丸くなってお腹に鼻をうずめて寝始めた。
しかし、レジェルはどうして俺を助けたんだ? ババァと同じように売るつもりか……?
本当のことは答えないと思うが、聞いてみるか?
「なんで俺を助けたんですか?」
「ん? おお。そんなことか。オレは冒険者やってるって言ったろ? 他の冒険者や遭難者を救助した場合も、ギルドから報奨金がもらえるんだよ」
レジェルは焚き火をかき混ぜながら答えた。
「それ、建前でしょ?」
焚き火の明かりの外から、若い女の声がした。
うお! きれいな人!
赤みかかった茶色のロングストレートの、勝気そうな顔立ちのきれいな女の人だ。
俺と同じ年くらいか? レジェルと同じ動きやすい服に、革鎧を着けている。短めの剣を腰の左側に佩びて、小さな弓に腕を通して肩にかけていた。
「シーナ。驚かすなよ」
レジェルがぼやいた。
シーナ……さん、と言うのか。覚えておこう。
「驚くほうが悪いのよ。魔物が出るんだから警戒くらいしなさいよ」
「うるせえ」
レジェルがシーナさんに串肉を投げてよこす。器用に空中でキャッチすると、シーナさんはそのまま食べ始めた。食べながら、俺を凝視してくる。ちょっと恥ずかしい。
「大変だったんだからね。君を助けるの。まさかキノコ取りに来て人間獲るとは思わなかったわ」
「た、助けていただいて、ありがとうございます」
「気にしないでよ。レジェルのやつがお金がどうとかいってたけど、あれ、気にしなくていいわよ。こいつ、『冒険者は人助けをするのが正しい道だ!』とか恥ずかしげもなく思ってるやつなんだから」
「シーナ! オマエな……」
シーナさんは肉の無くなった串をぴこぴこ振りながら屈託なく言った。
レジェルは恥ずかしそうに顔を赤くしてほほを掻いた。
シーナさんはそのままレジェルの横、焚き火をはさんで俺の向かい側に腰を落ち着ける。
「マコト。こいつはシーナ。同じ冒険者で、オレとパーティを組んでる」
「シーナだよ。マコトって言うんだ。よろしくね」
「よ、よろしくお願いします」
な、なんだ?
なんでシーナさんは俺をじっと見つめてくるんだ!?
「ふうん。大丈夫じゃない? 目も雰囲気も濁ってないし」
シーナさんはそう言うとレジェルのマントをひっぺがし、それにくるまって横になる。
「周囲に敵影や危険生物なーし。それじゃ寝るから、朝になったら起こしてよ。おやすみー」
そうか。周辺の偵察に行ってたのか。それでもあの2人が見つからなかったということは……。
考えるのはよそう。
「マコト。オマエさんももうちょっと寝ておけ。ベルランテの街まで行くにしても、体力がいるからな。これからどうするかについては、安全な所で考えればいいだろう」
この2人は、信用してもいいんじゃないだろうか。
もし何か害意があるなら、たぶんクーちゃんが教えてくれる……はず。
これから……俺はどうすればいいんだろうか?
読んでいただき、ありがとうございました! 更新は2日後の予定です。