第253話「第二世代の魔物」
今回は挿話のため少し短いです。しばらく不定期な感じになっており、申し訳ありません。頑張ります!
メデロンとマコトの戦いは、ホールに傷跡を残していた。衝撃波によってガラスは砕け、いまだそこかしこに魔術による氷を残している。
ホールの中央付近に、両目を失ったメデロンの死体が転がっていた。すでに心肺は停止しており、その身体はただ腐敗を待つのみ。普通の人間ならば、だ。
メデロンの死体の直上。その空間から、黒い霧が染み出していた。不自然に湧きだした黒い霧は、そのまま球状に凝縮すると、一つの形を取った。
眼球だ。
巨大な眼球が浮かんでいた。瞳孔の反対側には数本の触手が生えていて、まるで人体でつくった歪な球根のように見える。
じっとメデロンの死体を見つめていた眼球から、どろりとした黒い液体が染み出した。それは生き物のように這いずると、ぽっかりと空いたメデロンの眼窩に潜り込んでいく。
メデロンの眼球が再生した。
びくりと一度全身が震えたかと思うと、まるで人形の可動域を確かめるかのように、指先から少しずつ曲がっていく。
ばね仕掛けのように、いきなりメデロンの身体が起き上がった。見開かれた目は眼球が大きすぎるのか、はまりきっていない。血走った目でもって辺りを眺めていた。
「思考能力を失っても、さすがは神獣……というところか」
メデロンは立ち上がる。未だ胸はぱっくりと傷口が開いたままだ。流れつくしたのか、すでに血は出ていない。眼球が再生した以上、しばらくすれば傷もふさがる。この程度ではメデロンを滅することはできない。そもそも、メデロン自体が本体が人間社会に干渉するためのインターフェイスにすぎないのだ。
メデロンは、本体である眼球を背後に置きながら、腕を組んで考えた。未だ繋がりがある穢れの死魂はまだやられていない。これから行うことの目くらましくらいは果たせるだろう。だいぶ痛めつけられたこの身体は、もう放棄すべきなのだが、もう少し使い道がある。
メデロンは服についた汚れや埃を払うように何度か叩く。だが、こびりついた血液までは落とせないことがわかり、舌打ちする。
「マコト……か。覚えておこう」
巨大な眼球が赤光をまき散らした。<いざなうまなこ>の発動を示す輝き。だが、メデロンの眼球から発する光とはくらべものにならないほど強く、禍々しい。
メデロンは燭台を倒した。油が詰められた壺にくっつけるタイプの燭台は、中身の油をあたりにまき散らす。
火がついた。油の火をきっかけに、全てに燃え広がっていく。もえるはずのない魔術の氷や、石造りの階段すら、燃えていく。
メデロンもまた、神に近い魔物。<停止と誘惑>の神獣なのだ。
本体による<誘惑>は、意思の操作どころか、無機物を可燃物に換えてしまう。物理を越えた超常。
屋敷を包む炎は、まるで誘蛾灯のように野次馬を集めつつあった。ざわつく空気、延焼を防ぐために慌ただしい動きが起こる。集まってできた人込みの中に紛れるようにしてメデロンは動く。いつの間にか、巨大な眼球は姿を消していた。あまりこちらの世界に居すぎると、〝歪んで”しまうからだ。
「果たして、本当に意識がないのか……それとも……」
額に宝石持つ神獣のことを思いながら、メデロンは夜闇へと消えて行った。




