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第20話「ミトナ」

いつもありがとうございます。まったり進行で進めていきます。

 お腹が減った。

 そういえばお昼食いっぱぐれたなあ。レジェルとシーナさん見つけたら、おごってくれるって話まだ有効かね?


 今まで隠れていたのが窮屈だったのか、ぴょんぴょんとはねるように路面を走るクーちゃんを視界の端に収めながら歩く。

 ベルランテの円形大広場が見えてきた。一度大熊屋に戻るとするか。


 大熊屋の看板が見えてくると、俺は少しほっとした気分になった。

 レジェルとシーナさん、まだいるかな? 

 俺は大熊屋の扉を開けた。クーちゃんが先導して入っていく。大丈夫か?


「あ、いらっしゃいませ」


 あれ……? ウルススさんじゃ、ない!?


 俺の耳に聞こえてきたのは、若い女の子の声だった。どこかで聞いたことある気がする。

 カウンターを見ると、声にたがわず若い女の子がエプロンを着用して立っていた。年のころなら、18、19くらいか。整った顔立ちをしているが、若干眠そうな顔がゆるい雰囲気をかもし出している。

 カウンターに立ちながら、広げた羊皮紙に何かをがりがりと書き付けている。


 彼女には、大きな特徴が2つ。

 まずは身長。大きいのだ。身長185cmくらいはありそう。俺より5cmは高そうだ。大きい分、スタイルもいい。エプロンを押し上げているものは伊達ではないだろう。


 もうひとつは、『熊』じゃない!

 いや、『熊』は『熊』だ。熊耳がその頭の上で存在を主張している。それは、俺の元の世界ではよく言われていた、ケモミミっ娘というやつだった。ボリュームのあるふわふわな薄灰色の髪が輪郭をかたどっている。人間でいう耳のあるところは見えなくなっているが、どうなってんだろ?


「どうしたの?」

「あ……、いや、なんでもない。ええと、君は?」

「あ、私? ミトナだよ。お兄さんはマコト君でしょ?」


 ひらひらと手を振りながら、俺に挨拶するミトナ。


 ミトナ……? どこかで聞いたような。……はっ!


「まさか! 君がウルススさんの……っ!?」

「ほえ? ウルススはパパだけど?」


 ……!!


 二度目の衝撃! あの熊から! どうすればこんなかわいい娘ができるというのだ。

 いや、おそるべきはウルススさんより、奥さんではないだろうか……!?

 しばらく無言でミトナを見つめながら立ち尽くしていたが、こうしていても進まない。ウルススさんはどこに行ったんだ?


「それで、ウルススさんはどこに行ったかわかる?」

「パパ? 冒険者の人たちとちょっと行ってくるから店番してろって言ってた」


 冒険者の人たち……レジェルとシーナさんか。じゃあ、連行された俺を心配して、あの後追いかけて来たのかもしれないな。入れ違いになったか?


「そっか。じゃあ、ウルススさんが戻ってきたら俺は無事だったって伝えといて」

「ん、わかった」

「にしても、女の子1人で店番って危なくないか?」


 ミトナは俺の言葉に、不思議そうな顔をする。


「大丈夫。ミトナ、これでも冒険者だから」


 ごそごそとシャツの胸元に手を入れると、その内側からネックレスを取り出してくる。いや、その取り出し方はどうかと思うんだ、うん。目のやり場に困るわ。

 だが、ミトナが取り出したのはまぎれもない『冒険者の証』。俺と同じイエローの輝きが見える。


「パパも昔冒険者だったから、ミトナも経験を積めってうるさいの」

「ウルススさんも昔は冒険者だったのか……」


 それは納得できる。だから冒険者に必要な物を的確に準備できたり、初級の狩場の情報を持ってたりするわけだ。まあ、強いだろうな、ウルススさん。熊だし。


「ん。伝言は伝えとくね」


 ミトナの声に俺は我に返った。まあ、伝言を頼んでおけば入れ違いになってもでも大丈夫だろう。


「頼んだ」

「うん。よかったら今度パーティー組もうね」

「俺でいいのか?」


 まあ、組んでくれるというなら願ったりだ。

 楽しそうだし。若い女の子と2人とか、法律とか大丈夫か。大丈夫だろ。大丈夫であれ!


「マコト君なら、あまり気にしてないみたいだし、大丈夫」

「……? まあ、機会があったらよろしくな」


 ん? 何を気にするっていうんだ?

 追及するのも変な気がして、俺は大熊屋を出ることにする。レジェルとシーナさん、いなかったなあ。

 いつも入り浸っているような酒場も知らないし、どうしたもんか。


 とりあえず円形大広場まで戻ってくると、屋台から串肉を買う。3シーム。

 一欠けらをクーちゃんに投げてから、俺も肉にかぶりつく。外での丸焼きとかもおいしいけど、こうやって店で買う肉はタレがかかってて格別だよなあ。


 とりあえずどうしたものだろうか。俺は肉を食いながら考える。食べ終えて残った串は一度かばんに入れておく。

 とりあえず冒険者ギルドにいってみようか。もしかしたらハーヴェがいるかもしれないし、何かいい依頼も受けておきたいな。防具代のためにも。

 決めてしまうと俺は動くことにした。剣と水瓶の看板を目指し、大広場を横切って行く。

 冒険者ギルドの建物に入ると、なんだかざわついた雰囲気が漂っていた。いつも騒がしいのは騒がしいのだが、今の雰囲気は焦燥感というかひりつくような緊張感が漂っているのを感じる。

 俺はカウンターへと向かう。列の後ろに回り、列が消化されるのを待った。俺の出番が来ると、いつもの細い目の窓口さんだった。


「いらっしゃいませ。冒険者ギルドへようこそ。今日は何の御用でしょうか?」

「うん。割の良い依頼がないかなって思ってね。……なんだかギルドの中が落ち着かない感じがするんだけど、どうかした?」


 俺は窓口さんに聞いてみた。

 俺の脳内では『緊急ミッション』とか、『大型魔物接近』とかいう単語が浮かんでいたりするのだが、それだともっと盛り上がってる感じがするんだがなあ。


「今現在ベルランテ港沖にモリステアの軍船が停泊しているのはご存知ですか?」

「ああ、知ってる」


 ルークが言っていたやつだな。


「軍船の目的は何かわかりませんが、侵攻に備えて防御戦の依頼が来ていますね」

「防御戦、ねえ。冒険者が戦うってこと?」

「そうですね。その場合は臨時パーティを作っていただきます。(ブルー)級冒険者ヴァンフォルト・ムング・ドロスデン様の指揮下で防衛にあたることになりますね」


 あの太っちょ冒険者、けっこう偉い人だったんだな。

 俺は考える。なんだかおかしな話だな。だって、騎士団があるわけだろ?


「でも、騎士団はどうする? こういうときの騎士団じゃないのか?」

「騎士団が優先的に防衛するのは市政エリアと貴族街になります。市民街などは街の方が合同出資された資金のもと、冒険者に防衛依頼が来ていますね」


 あー……。なるほどね。そりゃ、いちおう市役所とか、執政者とかが残ってれば再建できるってことか? 騎士団はそこを中心に守るため、他への防備は手薄になる。そこを街の人は冒険者に頼るってことか。


「報酬は頭割りされた基本金の他、貢献度による出来高制になっております。お受けになりますか?」

「いや、パスさせてもらう」


 俺は苦い顔で断ることにした。魔物相手に戦ったりするならまだしも、自ら対人戦はしたくないなあ。たぶん、無力化=殺すことになってしまうだろうし。覆面のときも、無力化したと思ったらケイブドラゴンがトドメ刺してたしな。

 この世界は実力がものを言う。人の命のやり取りでさえ、生きていくのが難しいこの世界では日常茶飯事なのだろうか。


「ちょっとまとまったお金が必要なんだけど、稼げる依頼って無い?」

「スライムの依頼でもかなり高額ですよ?」


 良いながら窓口さんが手元のリストを確認する。

 そういえばスライムの核、まだちょっと持ってたっけ? あとで換金しておこうか。


「そうですね。南の平原の『野良マルフの討伐』『白妖犬の討伐』……、(グリーン)級になりますが、西の『ドマヌ廃坑』から溢れてきているスケルトン討伐が来ていますね」

「あ、俺まだ(イエロー)級なんだけど、(グリーン)級の依頼って受けられるの?」

「ええ。1つ上の等級までの依頼を受けることができます。何回かこなすことが等級上昇のための条件にもなっていますね」

「なるほどね」


 迷うな。マルフもいいが、スケルトンも気になる。魔物としては定番だが、実物はどれほどのものなのだろうか。そういう興味が湧いてくる。


「マコト! ここにいたのか!」


 お?

 声の正体はレジェル。そしてシーナさん、ウルススさんが冒険者ギルドに入ってくるところだった。

 窓口さんに見送られながら、カウンターを離れる。まだ何の依頼を受けるかは決めないでおこう。

 心配顔のシーナさんが駆け寄ってくる。


「大丈夫だった? ケガはない?」

「いや、大丈夫だったよ。ちょっと話してきただけでさ」

「あのあとオマエさんだけに行かせず、やはり付いていけばよかったと思ってな」

「もう、これ以上拘束するようなら依頼で援軍でも雇って乗り込もうかと思ってたのよ」


 いや、大事になるからやめてください。


「心配はうれしいけどな。でも、ほんとに話だけだったんだって。あとは、勧誘かな。騎士団入らないかって」


 レジェルとシーナさん、ウルススさんが目を剥いた。やっぱ異例のことみたいだな。冒険者のヘッドハンティングって結構ありそうに思うけどな。


「状態異常にしてたとはいえ、ケイブドラゴンをソロ撃破だからな。あながち異例とは言えないかもしれんな」


 レジェルが呟く。シーナさんがそれにうなずいた。


「そうかもしれないわね。でも、どうやって倒したの? 爆弾? 魔術? もしかしてとっておきの魔剣とか持ってたりするの!?」


 シーナさんが目を輝かせながら俺に迫ってくる。

 ……俺がどうやってケイブドラゴンを倒したかは、見えてなかったのか?

 まあ、レジェルもシーナさんも撤退のために後ろ向いて走ってたわけだからな。ある意味幸運だ。この<ラーニング>はおそらく異質。魔術はともかく『魔法』の方はあまり公表したいものでもない。

 魔法陣なし、魔術と違ってある程度意思で強化・操作できるとか、強すぎるだろ。

 でも、命を助けてもらったレジェルとシーナさんなら知っててもらってもいいかなって気もしたりするけどな。


「それは……企業秘密で」

「まあ、お金もらってるし、口止め料も込みってことにしておくわ」

「シーナ、時間だ」


 レジェルがシーナさんの肩を叩いて声をかけた。どうやら次の依頼の時間が来ているらしい。この2人もかなり稼ぐなあ。どうやら冒険者の証のランクアップが近いらしく、一気に上げきりたいそうだ。商隊の護衛のため、これから王都方面へと旅立つ準備を始めるらしい。


「なんにせよ無事でよかったわい。わしは店に戻るとするかの」

「ウルススさんもありがとうございます」

「なんの。ボウズはこれからもわしの店で買ってもらう予定じゃからの」


 牙の見える口を笑みに広げ、呵呵と笑ってウルススさんは言う。心配してもらえて本当にありがたい。


「それで、これからボウズはどうするんじゃ?」

「あ、ドマヌ廃坑ってところに行ってみようと。スケルトンがあふれてるらしくて、討伐依頼が出てる」

「ドマヌ廃坑か……。ボウズ1人で大丈夫かの?」

「まあ、ものは試しってやつ」


 ウルススさんはふうむ、と何事かを考えこんでいたようだった。


「とりあえず依頼を受けることにするよ」

「そうかの。わしも店に戻るとするわい」


 ウルススさんに挨拶して、俺はカウンターへと戻る。

 窓口さんからスケルトン討伐の依頼を受けておく。出来高制なので倒した数だけ報酬がもらえる。このタイプの依頼はあきらめて取りやめにしても違約金などが発生しないパターンなので嬉しい。

 識別のためにスケルトンの頭蓋骨の下顎部分を持ち帰る必要があるらしい。……でかくない? まあ、頭蓋骨まるごとって言われないだけマシか。

 袋でも追加しておくかな? 様子見だから、必要があれば次回でいいか。


 

 よし、準備完了。窓口さんから場所も聞いたし、それじゃあドマヌ廃坑へと向かいますか。

 


ウルススさんの娘、ミトナちゃん。でっかい娘っていいよね!

次回もよろしくおねがいします!

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