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第184話「銀騎士マース」

 転がるゴーレムの群れ、倒れる勇者達。守りを固めたルマルと、倒れた勇者の前に立つ俺とミトナ。


 この状況がどう見えるか。


 俺は冷や汗が流れてくるのを感じた。

 銀騎士(シルバー)マースは部下に待機を命じると、厳めしい顔のまま俺達のもとへと歩いてくる。

 だが、マースは俺たちを通りすぎると勇者達の前で立ち止まった。


「勇者様、これは一体何事ですか!」


 よろよろと勇者セオが立ち上がる。勇者レンの手を取って起こすと、マースの方を向いた。

 まさか自分たちが怒鳴られるとは思っていなかったのだろう。そう顔に書いてある。


「魔術師の選定があると聞きましたが、魔術ゴーレムを使うとまでは聞いておりませんが?」

「こ、こいつらが……」


 マースは言い訳をしようとした勇者セオをじろりと睨み付けた。勇者セオが口をつぐむ。


「魔術ゴーレムは王国の秘策です。それをこう軽々しく使われては困ります」

「それは謝ります……。しかし、この男は危険人物なのです」

「なにを……」

「奉剣騎士団を襲撃した男ですよ!」


 勇者レンが顔を真っ赤にしてマースに詰め寄ると、勢いよく話し始める。

 マースは困った顔になりながら、ちらりと俺の方を見た。その顔がおや、というものになる。それもそうだ、さっき会ったばかりだ。


 だが、勇者レンはそんな俺達の様子に気付きもせずに、さらにまくしたてた。


「もしかすると、近頃の街道襲撃にも関係しているかもしれません! 灰竜(アシュバーン)の襲撃も!」

「しかしですな、この魔術師殿は王国市街地にて灰竜(アシュバーン)を撃退してくれた御仁ですぞ」

「わ、わざと灰竜(アシュバーン)を倒させて目を逸らさせる作戦とかですよ! きっと!」


 勇者レンは俺をどうしたいんだ。敵にしたいのはわかるが、俺は南部連合とはまったく関係はない。

 マースが呆れた顔をした。その気持ちはわかる。


灰竜(アシュバーン)はかなりの戦力じゃないか。その作戦のために捨て駒にするのは無理があるだろ」

「ぐ……ッ!」

「この御仁の魔術があるなら、灰竜(アシュバーン)と共同で戦力として運用する方がよほど脅威だったでしょうな」


 俺とマースの言葉に勇者レンが詰まった。この様子を見るに、たぶん勇者レンも灰竜(アシュバーン)と相対はしたのだろう。


「勇者様方を王城までお送りするんだ。()()にな」


 マースは部下の方を振り向くと、鋭く命令する。ニュアンスが微妙だったのはマースの気持ちがこもっていた。


 マースの部下たちがキビキビと走ってくると、勇者レンと勇者セオを取り囲んだ。

 怪我の様子を確認し、大丈夫なようだとわかると先導して歩き出す。去り際に勇者レンがじろりと俺を睨みつけてから、護送されるように去って行った。


 俺がため息を吐くと、後ろからミトナがちょんちょんと脇腹をつついてきた。


「勇者、行ったけどよかったの?」


 そこで俺はハッと気付く。逃げられた。

 思わずマースの方を見た。指示のタイミングといい。なめらかだったから思わずそのまま見逃してしまった。


「あのままでは勇者様方が攻撃されかねないと思いましたのでな」

「殺すつもりはなかったけどな」

「それでも、ですな」


 マースは隠すでもなく、にやりと俺に笑ってみせた。


「勇者って誰にでも歓迎されてるのかと思ってたよ」

「勇者様を否定するつもりはありません。王様もご執心ですからな。しかし、まだまだ未熟な部分が多いですからなぁ」


 俺はマースの言葉に納得した。それもそうだ。

 たしかに三人の勇者は神器や特殊な魔術、常時<防御力上昇>などのチート状態で戦力はある。だが、これまで鍛えてきた一線級の兵士と比べれば、様々な部分で未熟な面が多い。年齢的な面でも、だ。


「失った戦力を有能な魔術師や戦士で補充する、とおっしゃった時も止めたのですがね」


 苦い顔でマースが言う。

 そんな子たちを重要人物として扱わなければならないこの人たちは苦労をしているのだろう。


「せめて、私めが同席している時で、と申しておったのですが、まさか魔術師殿とは思いもしませんでしたな」


 そんな苦労を感じさせない様子で、マースは朗らかに笑う。その笑みが引っ込み、マースは真剣な顔で俺を見た。

 切り替えが早いのか、それとも全て計算なのか。この人の奥の深さに、とある飼育員(おっちゃん)を思いだす。油断ならない人なのかもしれない。


「ところで、どうして魔術師殿は王城へ?」

「それは私が説明しましょう」


 マースの問いに、ルマルが前に出た。


「私は商人ハスマルの第三子ルマルと申します。お見知りおきください」

「魔術騎士団銀騎士(シルバー)のマースです」


 その名乗りに、ルマルの顔が一瞬強張ったように見える。かすかな変化なので、ルマルを知る人じゃないと気付かないだろう。表情はいつもどおりにこにこと温和な笑顔を崩していない。

 だが、緊張……してるのか? あのルマルが?


「そもそも私達は荷物を輸送中に街道で襲撃を受けた者です」

「ほう? そうでしたか」

「ええ。幸い腕の立つ魔術師のおかげで事なきを得ました」


 マースとルマルの視線が俺に集まる。なんだかくすぐったくなって、俺は目を逸らした。


「襲撃の様子からおそらく南部連合の者だと思いましたので、騎士団に引き渡したのです。その経緯説明の呼び出しだとお聞きしたのですが……」

「勇者様による<転移>でここまで、ということですな」

「ええ。その通りです」

「わかりました。そのお話、私めがお聞きしましょう。王城までご同行願えますかな?」


 マースが部下を呼ぶ。どうやら先導するらしい。ついて行こうとした俺に、マースが声をかけてきた。


「お名前を伺ってもよろしいですかな?」

「……マコトだ。水無瀬 マコト」

「覚えておきましょう。これも何かの縁です。何かありましたらぜひマースをお頼りください」

「じゃあ、南部との戦争をやめるように王様に言ってくれよ。……市街地がまた狙われるのは嫌なもんだからな」


 俺は壊れた街を思い出した。

 上がる火の手、大きく空いたクレーター。どれほどの犠牲者が出たのだろう。

 もう街は復旧しているのか?


「なるほど、善処してみましょう」


 マースは苦笑すると、俺に手を差し出した。わからないまま握手をすると、それで満足したのか部下たちと王国の方へと戻っていく。


 入れ替わるようにして、ルマルが近寄ってきた。


「マコトさん。どうやら護衛してくれるようですし、王城では大丈夫でしょう。私とガロンサさんとで行くことにします」

「ああ、わかった」


 ルマルはそこで声をひそめた。


「何やら勇者とはあるようですし、また王城で遭遇するのも気が引けるでしょう」

「まあ、な」


 確かに再び王城でやり合うことになるのは避けたい。

 あの勇者レン、俺のこと完全に目の仇にしてるからな。行かずにすむのなら助かる。

 ほっとした顔をした俺に、ルマルが優しい笑顔を向けた。


「ところで、あの方とは何を話されていたのですか?」

「あの方……ってマースのことか?」

「ええ、銀騎士(シルバー)様です」

「ああ、名前を覚えたとか。困ったら頼ってくれっていってたな。銀騎士(シルバー)……ってそんなにすごいのか?」

「マコトさんはご存じないのですね。聖王国で銀騎士(シルバー)と言うと、将軍職にあたります。謁見の間以外でも王に謁見する権利を持っている数少ない方ですよ」


 俺の動きが止まった。

 それって、けっこう偉い人じゃないか?

 街の見回りに来ていたり、俺に対しても気さくだったりしたからもっと現場の人だと思ってた。


「マコトさん達はあの店でお待ちください。コクヨウがよく取引に使っているあの店です」

「わかった。マースとの話が終わるまでそこで待ってる」

「ええ。確かにこれも何かの縁――――」


 ルマルの顔に黒い笑顔の花が咲く。何か腹黒いことを考えている時の顔だ、これ。


「ぜひ仲良くなってくるとしましょうか」


 このバイタリティはどこからくるのだろうか。ハスマル氏のところはそれほど実力主義のご家庭なのだろうか。

 ルマルはガロンサを伴うと、マースの後を追って王城へと向かっていった。


 後には俺とミトナ、フィクツとミミンが残される。いちおう隠れていたクーちゃんも。

 破壊されたゴーレムは、残ったマースの部下が片付けを始めている。<氷閃刃>の直撃付近のゴーレムはバラバラになっている。パーツは機密扱いならば全部拾わないといけないわけだ。

 魔術ゴーレムのボディや細かいパーツはともかく、統括ゴーレムは大きすぎて動かせないようだ。


 その風景を見ていると、不意に声がかかった。


「ちょいと、いいかのう?」


 そこに、ミオセルタの声が小さく聞こえてきた。そういや、こいつもいたな。


「ちょいと、頼みがあるんじゃよ」

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