表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
193/296

第182話「戦力補充」

 何を考えてるんだ、一体。


 俺は考える。懸念材料だったエリザベータはこれで完全に消えたように思える。何を考えているのかはわからないが、これで俺が狙われるということはなくなっただろう。


 そもそも、なんで俺は連れてこられたんだ?

 わからないことは多いが、今の俺にできることはそうない。そう結論付けた。


「王城は混乱しているでしょうね。この件で南部連合との戦争状態が止まるかはわかりませんが……」

「エリザベータ……剣聖は戦争停止(ソレ)を狙って連れて行ったとかいうことは考えられるか?」

「うーん……。方法としては不確実ですし、考えにくいですね」


 ルマルの言葉に、俺は腕組みして悩む。ともあれ、気にしすぎてもいけない。


「それで、ルマルはこれからどうするつもりなんだ?」

「そうですね。南部連合の伝手と会うつもりです」

「南との商業ルートを確保ってやつだな」


 ルマルが頷く。街道で話していた通りだ。停戦状態になるにせよ、南からの物資が滞ることも考えられる。左右されないルートを確保するということだ。


「その前に王城に行かなければなりません。私たちが襲撃された状況についての説明をせよとの連絡がありました」

「騎士団の本部で説明したんじゃないのか?」

「あの時は途中で灰竜(アシュバーン)の襲撃がありましたからね。それに、騎士団への呼び出しではなく、なぜか王城なのです」


 ルマルが言葉を切った。例の腹黒い笑みになる。

 なんだかいやな予感がする。


「ついてきてくれますね」

「コクヨウさんやハクエイさんじゃ……だめか」

「二人にはやってもらうことがあります。ガロンサさんも一緒ですが、もうすこし安心できる護衛が欲しいですね」


 回避しようとしたものの、ルマルの笑顔に封殺される。

 しょうがない、<ばけのかわ>で顔を偽装して潜り込むことにしよう。


「ワイらも、ついていってええか……?」

「フィクツ!? ミミンも!」


 後ろから衰弱した声がかかった。振り返るとフィクツとミミンが歩いてくるところだった。

 少しは疲労の色は抜けている。立って歩いているところを見ると、傷は大丈夫らしい。


「どうしてこうなったのか、知りたいんや」


 二人の眼は強い光を放っていた。

 街を襲った灰竜(アシュバーン)によって、フィクツとミミンは家を潰されたのだ。そう思うのも無理もない。

 どうするのか。俺は問うようにルマルを見た。ルマルはとぼけたように俺を見返した。


「マコトさんが来ていただけるのなら、私はかまいません」


 そう来たか。


「……わかった。だけど、顔は魔術で変えるからな」

「あ、ニイさん。ニイさんのソレ、ワイの術と同じやったら気をつけてや」


 差し込むようにフィクツが言った。

 <ばけのかわ>を使おうとした俺は動きを止めた。同じだったらもなにも、フィクツからラーニングした魔法だ。


「この術、〝顔が戻らなくなる”時があるんや」

「せやね。イメージ(創造)しすぎるあまり、もとの顔を忘れたって笑い話があるなぁ」


 笑い話じゃないだろう。それは。


「壁とかやったらええねんけどね」


 これだから説明がないラーニングは厄介だ。

 使い勝手のいい魔法ほど、よくわからない制限や副作用が存在する気がする。

 今までいろいろ使ってきて弊害がなかったのだ。ラーニングは技術だけを体得するから、そのあたりの制限や副作用からは切り離されている気もするが……。


 完全に大丈夫、と断言するのもコワイ。

 髭をたくわえたプレゼントをくれるおじいさん顔になってしまった自分を想像してしまった。

 <ばけのかわ>はできるかぎり封印しておくことにしよう。


「たぶん、大丈夫だろ。ルマル、ついて行くよ」

「ニイさん、ありがとやで」


「ありがとうございます。たぶん何もないとは思いますが……」


 ルマルが頭を下げた。勇者だけが心配だが、説明にわざわざ出て来るほど暇じゃないだろう。たぶん。


 ルマルの護衛ということで、俺とミトナ、フィクツとミミンがついていくことになった。王城に近寄りたいとは思わないのだが、何度も行くことになるのは何故だろう。

 準備を整えた俺達は、王城へと向かうことになった。



 王城へはこれで何度目だろう。


 正面の門で兵に取り次ぎを頼み、別の案内の兵に連れられて王城内を進んでいく。

 灰竜(アシュバーン)の襲撃によって、ところどころ王城の形が欠けている。石造りの城のため、二次災害としての火災が起こったりはしなかったようだ。だが、大穴が空いている壁などは見ていて痛々しい。

 すでに復旧のための石工や建築員などが壁にとりついて仕事を進めていた。


「なかなかやられてるなぁ」

「ん。直撃だったからね」


 俺の呟きにミトナが頷いた。ミトナは足元をちょろちょろしていて蹴りそうになったクーちゃんを抱え上げた。

 灰竜(アシュバーン)の投下弾。何か魔法か魔術を使っていたのかもしれないが、あの命中精度は脅威だ。


「王城がやられとるのを見るなんて、初めてやなぁ」

「そうやね。そもそも王都が攻撃されることがなかったんや」


 穴を見上げ、フィクツもそうこぼす。ミミンも同意する。


「王都には魔術騎士団がありますからね。空からドラゴンが来たとしても、迎撃ができます。南部もドラゴンを失うのは大きな痛手のはずなのですが……。この襲撃、あまり得がないんですよね……」

「そうですな。王都を攻撃するのはいいものの、無傷で抑えないと穀倉地帯は取れませんからね。王都を落とすにはドラゴンを十倍は持ってこないと厳しい」

「今回のがザルンブックのドラゴン全てではないでしょう? 噂に聞く砂帝竜(シャヌワヴ)があの中にいたとは思えません……」

「それに――――」


 ルマルがガロンサと話し込みはじめた。このあたりの地名や南部連合のことなど、知らない単語が出てきたので内容が追いかけられなくなる。

 諦めてミトナの方を見た。抱え上げたクーちゃんの喉元をくすぐっているところだった。


「こちらです。中へどうぞ」


 兵士に通されたのはごく簡単な応接室だった。中には誰もいない。聴取のためには誰か来るのだろうか。

 案内してくれた兵士は、どうしてだか室内には入ってこない。


「王城をご覧になりましたでしょうか。今、聖王国は南部連合との激戦の中にあります」


 いきなり話し出した兵士に、俺達は疑問の顔になった。


「騎士団でお話は聞いております。南部からの襲撃兵を魔術で退けたと聞きます。今、聖王国では力ある方を求めています。ぜひ、その力を聖王国で役立ててはいただけないでしょうか」

「少しお待ちください」


 ルマルの凛とした声が兵士のセリフを遮る。


「お話が違います。ここへは事情の説明に窺ったのです」

「ええ。事情の説明もかねて、どのように撃退されたかをぜひ()()していただきたいとの仰せです」

「勧誘にしては強引ではありませんか? いつから王城はそういうところになったのです?」

「強制ではありません。実演していただけるだけで結構ですので」


 つまり、強い魔術師を勧誘ということか?

 剣聖が抜け、襲撃を受けてパワーダウンした戦力を補うために?


 聖王国のために働けるか、そのために力を見るテストを()()()()()()ということか。なんという上から目線。


 若干の苛立ちを含んだ声で、フィクツが口を開いた。


「せやけど、そんなわけわからんことするわけないやろ。ワイら、ここから動かへんで。この狭い部屋でやるつもりやないやろな」

「いえ、問題ありません」

「ハァ!?」


「――――移動していただきますから」



 落とし穴。


 そう表現するのが一番近い。

 ズボっとはまり込むように、一瞬にして視界が暗転する。暗さを自覚した直後、消えた時と同じ唐突さで視界が戻ってくる。


 ジェットコースターで落ちる感覚を数十回まとめたような気持悪さ。平衡感覚を失う感覚を得て、俺は思わず膝をついていた。


 案内の兵士がいなくなっていた。それどころか、先ほどの応接室すらなくなっている。

 ミトナは――――いる。

 ルマルも、ガロンサも、フィクツもミミンもちゃんといる。全員驚いているらしく、動きがフリーズしていたが。


 目の前に広がるのは、広い草原。どうやら王都を少し出たあたりらしい。ちらりと見た背後に王都が見える。


 これは――――。


 <体得(ラーニング)! 魔術「空間転移(テレポーテーション)」 を ラーニングしました>


 やっぱりか……!

 部屋にまとめて通された後、まるごとここまで転移させられたということ。


「ということは……」


 試す者はそれなりの実力がないと『試し』にならない。

 顔を上げた先、そこにいたのは見覚えのある二人の勇者。スマートフォンを持つ少年と、盾持つ鎧の少年。


 向こうもどうやら俺に気付いたらしい。顔に驚愕の色が広がっていく。強い魔術師をおびき寄せて転移、勇者の力で痛めつけて配下に、という心積もりだったのかもしれない。


 〝俺”を引き寄せているのは偶然なのか、それとも勇者の力なのか。


 ああ、そうか。

 ケリつけておかないと、何度でも会うってことだろ?


 俺はゆらりと立ち上がると、全身のマナを練り始めた。


「何をしにきたのかは知ってるんだろ。どうやって撃退したか、だったな?」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ