第17話「死闘」
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いつもどおりゆっくり進行ですが、気長にお付き合いくださいね。
全体的なイメージは、2脚で立つ爬虫類だろうか。だが、異様に大きい。
白い肌、前傾姿勢の状態でもこちらより頭3つは高い巨躯。
熊やゴリラといった、凶悪な膂力を感じさせる2本の腕。滑らかに伸びる太い尻尾。
その巨躯の頭に目はなく、かわりに鋭い牙を持つ巨大な顎があるのみ。
圧倒的な存在感が、そこにはあった。死を目の前にした重圧が、等しく圧し掛かっていた。
誰もが動けない。
ゴフっ、ゴフっという、ヤツが放つ獣の息の音が響く。
最初の犠牲者は覆面の1人だった。レジェルと戦ってた1人だ。
逃げようとしたのだろう、駆け出した瞬間にその胴体に噛み付かれていた。突進の勢いそのままに繰り出された牙は、どれほどの威力か。
ヤツはひと噛み力を入れたあと、大の男の体を振り回して放り投げる。
悲鳴も無い。どちゃ……と濡れた重い音。うごめく腕を見るに、死んではいないが、時間の問題だろう。
――動けば死ぬ。
そんな状態なのに、俺の顔にはにやけた笑いが張り付いていた。
なんという、予想外!
俺の力で、斃せるか? やれるか?
確かにヤツの動きは速い、だが、今の俺に反応できないほどの速さじゃない!
「う……」
耳に届くうめき声。先ほど張り倒した覆面魔術師だ。加減した分復活も速かったのか?
覆面魔術師は目を開けると、ふらつきながら立ち上がる。そして、目の前の光景に呆然と立ち尽くした。
「ケ、ケイブドラゴン……!」
驚愕の叫びが覆面魔術師の口から放たれた。
そうか、コイツ、ケイブドラゴンだったのか。こんだけ凶悪なら、そりゃ、手に入りづらい素材だな。
覆面魔術師の叫び声に反応して、ケイブドラゴンが目の無い頭をめぐらせる。
全てが動き出した。
シーナさんが一足飛びに自分の荷物に向かって駆け寄り、レジェルがシーナさんを庇える位置取りに移動する。
覆面たちは撤退を決め込んだようだ。シーナさんと相対していたやつはすでに背を見せて走りだし、脚を怪我している覆面はなんとか撤退しようと這いずる。覆面魔術師は逃げる時間を稼ぐためか、ぶつぶつと呪文を唱え始めた。
ケイブドラゴンが息を吸い込んだ。
極大の咆哮が放たれる。
「ゴオオオォォォオアアアァァァァァァアアアアッッッ!!」
「ぐ――ッ!?」
予想外の衝撃が全身を打ち据えた。この、咆哮、物理的に威力があるのかよ!?
< 体得! 魔法「たけるけもの」をラーニングしました>
これ、魔法かよ!?
目線を動かすとよろけるだけですんだのは俺だけで、他全員は一時的な行動不能状態になっている。
この咆哮! 叫び声に乗せてマナを叩きこんでやがるのか!? っやべえ!
主導権を握ったケイブドラゴンが動く。巨大な左前脚で、這って逃げようとしている覆面をひっかけると、覆面魔術師に投げつける。ものすごい速さで激突する。巻き込まれた方も地面を転がると動かなくなった。
さらにケイブドラゴンは巨体に似合わぬスピードで、足が氷漬けにされている覆面に接近。左の前脚で打ち据えた。頚椎あたりから、人間としてはありえない方向にへし折れる。氷も破砕して、覆面の身体が舞った。
覆面ばかりが犠牲になってるが、近い順に攻撃されてるだけだ! いずれ味方に被害が行く!
今! 今、動かないと!
俺は地面を蹴る。抉る勢いで走る速度を加速する。
叩きつけるようなケイブドラゴンの左前脚。かろうじて回避!
噛み付きが来る!? こ、れ、で、も――、
「――喰らっとけ!」
突き出される顎に、胴体より先にひのきのぼうを噛ませる。きしんだ音を立ててへし折れるひのきのぼう。武器を失うかわり、打撃の射程圏内!
「<痺れろ! 麻痺!>」
俺の手に魔法陣が出現、割れると同時に黒いもやがあふれだす。すれ違いながら後ろ脚に呪いのもやを塗りたくった。がくん、とケイブドラゴンの姿勢が崩れる。姿勢が崩れたのは一瞬だった。すぐに呪いのもやを散らされる。
反撃で俺の体に尻尾が打ち込まれた。
「ぐほッ!?」
吹っ飛ぶ。俺はごろごろと何度か地面を転がってようやく止まった。
起きろ俺! 追撃が――!
何故かケイブドラゴンの追撃は来なかった。焦りながら立ち上がる。
「マコト! 耳をふさげ!」
レジェルさんの大声。 耳!? 何!?
シーナさんが何かを投げた。<身体能力上昇>で強化された投擲。投げられたモノは狙いたがわずケイブドラゴンの正面で炸裂する。ものすごい大音量が荒れ狂い、耳をふさいだ手を貫通して鼓膜を振るわせた。
離れたところにいたクーちゃんがくしゃん、とくしゃみをした。俺の鼻にも異常な臭いが届く。
効果は抜群だった。耳を潰されたケイブドラゴンはくらくらと酔ったように動きが覚束ない。臭いで嗅覚もやったのか左の前脚で鼻をこすっている。
目がないってことは、目が退化して、耳や鼻が鋭敏なんだろう。
それは今潰された。チャンスだ!
「撤退だ! 逃げるぞ!」
「はっ!?」
レジェルが剣を構えると駆け出した。ケイブドラゴンから離れはじめる。すでにシーナさんはハーヴェを伴なって駆け出していた。
置いていかれるわけにはいかない。俺もあわてて走り始める。
「ちょ! トドメささねえのか!?」
「あの外皮に普通の剣じゃ攻撃が通らん!」
「魔術なら!?」
「ケイブドラゴンの外皮は! 魔術が効きづらい!!」
レジェルが俺を見ずに叫ぶ。そういや、俺のグローブもケイブドラゴンの革で出来てたな。
逃げるしかないのか!?
シーナさんとハーヴェを先頭に、レジェルがその後ろを走る。さらに遅れて俺。
「ゴオオオォォォオアアアァァァァァァアアアアッッッ!!」
うおっ!? 後ろから!?
俺たちの背後からの咆哮。衝撃で体がよろめく。迷った分出遅れた俺が走る足を止められた。
シーナさん、ハーヴェ、レジェルは効果範囲外。走る背中が見える。
あのヤロウ、どうやら、俺を逃がす気はないらしいなあ!
俺は笑いながら振り返る。
やっぱりここで仕留めるしかないだろ!!
イメージしろ! 覚えているなら覆面魔術師の魔術は使えるはず! 飛んでいく火の塊!
「<飛べ! 火弾>!」
魔法陣が割れると同時に、火の塊がケイブドラゴンに向かって飛んでいく。ケイブドラゴンは火の塊にぴくっと反応する。そのまま左の前足を振るって叩き落とした。
くそっ! どうやって見えてんだ。 なんか熱源でも探知してんのか!?
「なら、これでどうだ!」
俺は左に火の塊と右に氷柱を二重起動する。さらに氷柱にマナを注ぎこんで氷柱を大きくしていく。
剣サイズを超え、槍サイズへ。さらに大きく! もっとだ!
ケイブドラゴンの突撃が見える。俺はヤツが自分からぶつかるように火の球グレネイドを投げ放つ。
「ゴァツ!?」
熱を感知してか、ケイブドラゴンはとっさに体を右に振って避ける。ハッ! 見え見えなんだよ!
「そこだアアアッ!」
避ける先を読んで、氷の巨大槍を解き放つ。最大出力で射出する! 近距離の火の球で、コイツは見えんだろ!
だが、ケイブドラゴンは崩れた体勢から、後ろ脚を踏ん張る。尻尾を振り、体を逃がそうとする。
「おおおお……おおおおあああああああアアアアアアァァァァアアアアアアッッ!!!」
――もう一手! <たけるけもの>!
俺の口から最大級の咆哮が吐き出される。魔術防御の高いケイブドラゴンには、ほんの一瞬の行動阻害にしかならない。だが、その一瞬が必要なんだよッ!
体がだるくなってきてる、これで決まってくれ!
ケイブドラゴンの横っ面に、氷の巨大槍がめりこむ。くっそ! 突き刺さらねえのか! 冷気が炸裂するが、空気が凍るくらい。その忌々しい皮にはあまり効果はないのか!?
だが、顔面から地面に倒した!
俺は隙だらけのケイブドラゴンに駆け寄る。これが最後のチャンス!
氷柱をもう一回! いけるか!? 二重起動で<麻痺>!
「口の中から! いっちまえエエエ!!」
俺はケイブドラゴンの顔面を麻痺させると、同時に口の中に氷柱の槍を叩き込む。喉奥に突き刺さり、さらにその奥で冷気が炸裂した。
それが、決着だった。
どずん、と音を立ててケイブドラゴンの左前足が地に落ちる。
……危ねえ。あと一瞬遅かったらこの腕で一撃もらってたのか。
痛いほどの静けさ。荒く呼吸する俺の息遣いだけが響いていた。
尻尾に打たれた打撲も痛いが、何より全身の虚脱感がすさまじい。これってアレか? マナ切れ直前ってやつか?
だが……、
ひひ……勝った……。勝ったぞ!
やった! ざまあみやがれ!
俺はこわばる足や腕を何とか動かし、ケイブドラゴンの死骸にもたれるようにして座り込んだ。
今までどこに隠れていたのか、クーちゃんが木立の陰からそろっと顔を出す。安全を確認したのか、俺の膝元まで走ってきた。
クーちゃんの頭をなでると、急速に安心感が湧き上がってくる。
何とか、切り抜けた……。
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