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第163話「マコトの正体」

 勇者達に追いかけられ、地下水路を逃げ惑う。

 怖くて振り返らないが、時折後ろから様々な色の光が放たれるたびに身がすくみそうになった。


「本当にマコトは馬鹿じゃのう?」

「うる……さいッ! お前は走らないんだから、文句、言うなッ!」

「防いでるのはワシじゃぞ? なんたる言いぐさよ」


 俺は全力で前に向かって足を出す。

 鞄からミオセルタが後部砲台よろしく顔を出して魔術を迎撃する。

 この分担によって俺はからくも追跡に追いつかれずに済んでいた。どうも勇者クロエが魔術を撃つたびに足を止めているらしく、それも追いつかれない原因だ。


 しかし、どこをどう進んでいるのかわからないのは怖い。

 さきほどの道を引き返したつもりなのだが、なんだか見たことのない壁や模様が出てきている。


「クソッ! どこなんだよ、ここ!」

「さっきのところじゃないことは確かよの」

「とりあえず上流を目指そう!」


 あちこちの角を曲がり、とにかく水路の上流に向かって進んでいく。おそらく川から水を引き込んでいるはずなので、上流に進めばいつかは出口に辿りつくだろう。


「いいかげん止まるんだ! <火槍(ファイアパイク)>!」


 勇者レンの声が響いた。魔法陣の光が後方で砕ける。

 撃ち出された火の槍は、俺じゃなく水路の天井を狙った。


「いかんぞ!」


 ミオセルタの魔術分解が届かない。


「う、おおおおおおおおおおおッ!!」


 俺は全力で身体を前に飛ばす。鍛えてるのは伊達ではない。一気に速度が上がる。

 火の槍は天井部分に突き刺さると、破壊を引き起こした。ごろっと天井が崩れて落ちて来る。

 俺の進路をふさぐための一撃だったのだろうが、俺はその地点を通り過ぎた。ギリギリの場所、背後で瓦礫が落ちてくる。


 何とか駆け抜けることができた。その代償として、足はかなりの疲労を訴えてきていたが。

 もうもうと舞う埃だか煙だかの中で、俺は荒い息をついた。

 両ひざに手をついて、咳き込むようにして空気を取り込む。


「ひとまず……何とかなったか……?」

「走らんではよくなったのぅ」


 俺は地下水路の壁に手をついた。やってきた通路は完全にふさがれていた。もともと老朽化していたのか、思った以上の瓦礫が堆積していた。勇者達とは完全に分断された形だ。


 だが、まだ安心はできない。勇者と言われるくらいだ、瓦礫を吹き飛ばして追ってくる可能性もある。


「とりあえず、こっちか……」


 俺は距離を取るために、地下水路のさらに奥を目指して歩き出した。



 薄暗い地下水路を進む。

 真っ暗だと思っていたが、足元が見えるくらいには明るい。何かの魔術の力なのか地下水路の床自体が発光しているからだ。

 どこをどう進んで来たのかもう覚えていないが、それなりの距離を歩いてきていることは確かだ。


 地下水路の壁も様子が変わってきていた。何かを示すような彫刻が彫られている。さながら古代の遺跡といった様子だ。


 ほんとに、迷宮(ダンジョン)ってことか……。


 俺は勇者とは別の意味で焦りを覚える。ここが迷宮(ダンジョン)ということは、魔物が現れる可能性があるからだ。

 そう考えると、急に心細くなってきた。今は武器もなく、魔術もない。


 何か物音が聞こえた気がして、俺は動きを止めた。静かに、小さくミオセルタに問いかける。


「…………今、何か聞こえたか?」

「ワシには聞こえなかったがのう……」


 泣きそうになりながら、とりあえず落ちていた石を拾っておく。野球ボールくらいの大きさだが、ないよりはマシだろう。

 何か聞こえたのは気のせいではなかった。ひたり、ひたりという足音を殺したような音がどんどん近付いているのがわかったからだ。


 どきどきと心臓の音がうるさくなる。


 勇者か!? それとも、魔物か!! どっちも来るな!!


 通路の角から、ひょいと顔出したのは、見たことのあるヒョウのような獣の顔、サンタークだった。

 サンタークの脚は毛におおわれており、確かに足音が消える。


 我慢していた分、どっと汗が噴き出た。俺は思わずサンタークに駆け寄っていた。


「うおおおお! よかった! 助かったぁあああ!! サンタークさん! ありがとう!」


 俺は我を忘れてサンタークに抱き着くとほおずりする勢いで抱きしめる。

 サンタークはものすごく迷惑そうな顔をしているが、知ったことではない。

 しばらくそうやっていたが、大きな前脚で思いっきり頭をドツかれて、ようやく俺は手を離した。


 サンタークはしゃべらない。ふいっと踵を返すと、サンタークがやってきた道を引き返しはじめた。どうやらついて来いということらしい。通路的にもそちらに進むしかなく、俺はついていくことにした。


「サンターク、フィクツとかミミンとか、コクヨウさんは無事なのか?」

「喋れんじゃろ。まぬけかおぬし」

「いいだろ。意思疎通できるかもしれないんだからさ」


 サンタークが俺をちらりと振り返る。呆れたようにため息を吐いたように見えたのは気のせいだろうか。なんだか恥ずかしくなって俺はついていくことだけに専念することにした。


 サンタークに連れられてしばらく歩く。何かの魔法のように、どんどんと地下水路の天井が高く、幅が広くなってきた。柱の数も増え、水路が床を走る神殿風の造りになってくる。

 ところどころに灯っている青色の炎が幻想的に辺りを照らしていた。


「…………貴方か」

「マルカーンさん……」


 広場のようなところに、マルカーンさんを含む一団が集まっていた。マルカーンさんの腕には包帯が巻かれ、護衛の人たちも怪我をしている人が多い。撤退した時よりも数が少なくなっている気がする。

 マルカーンが助け起こされ、支えられるようにして座った。小さな身体が咳き込む。


「先ほどは助けていただきましたな」

「いや……」

「あれが勇者、南の戦役の英雄。さすがというべきかやはりと言うべきか、恐ろしい存在だ」


 マルカーンは深々と息を吐くと、俺を真っ直ぐに見た。

 無言のまま、護衛の一人がマルカーンを担ぎ上げる。どうやら移動するらしい。サンタークがそっと離れて行った。

 

 どこに行くのかわからないが、置いていかれるわけにはいかない。マルカーンの隣を歩く。

 マルカーンには聞きたいことがある。襲撃がある前に話していたことだ。


「あのテントでマルカーンさんが言ってたことなんだけどな……」


 俺はちらりと護衛の人達を見た。聞かれていい話題かわからなかったからだ。

 マルカーンはフフと小さく笑う。


「安心しなさい。この人たちは口が堅い。……さて、貴方の身体のことですな」


 マルカーンは一度言葉を切った。どう言っていいか迷っているようだったが、やがてぽつりぽつりと話し始める。


「この世界には、獣人と、魔物と、人間が存在しておるのは知っているね」

「ああ」

「それぞれは、神が造った獣人の身体と、魔物の身体と、人間の身体を持っている。神が造ったそれぞれの魂がそこに入って、ようやく我々が生きている」


 何が言いたいのかまだわからないが、とりあえず俺は先まで聞くことにする。


「普通は獣人の肉体には獣人の魂が入っているし、魔物の身体には魔物の魂が入っている。だけど、貴方は違う」


 螺旋階段を抜け、通路からさらに階段を上る。どんどんと地上に向かっているらしい。

 どうやら脱出するルートの一つだ。地下水路の空気が、外の匂いの交じった物になってきている。



「貴方は、魔物の身体に人間の魂が入っている――――」



 …………どういう、ことだ?


「自分の身体でおかしいと思ったことは? 何か特別な何かがあったりは?」


 神様によってこの世界に召喚され、【ラーニング】という特殊能力を持つ。

 【ラーニング】は、人間の技である【魔術】と、魔物の能力である【魔法】を両方とも覚えることができる。


 俺は、人間じゃない?


 光が目を刺した。俺はまぶしさに思わず目を腕でおおう。


 ――――地上に出たのだ。


 辿り着いた先は壊れた神殿跡だった。どうやらここから地下水路に続いていたらしい。

 崩れて天井すらなくなった神殿は、今や柱を残すのみだった。元は儀式場か何かだったのか、コロッセオのような造りになっている。

 護衛の人に負ぶわれたマルカーンが小さく言った。


「翠玲神殿跡地。王都郊外にある遺跡よ」


 その声に、かぶさる声があった。


「へえ、こんなところに続いていたんですね。瓦礫の向こうに行かれた時には、逃げられたかと思いましたよ」


 ――まさか。どうして?

 その思いが駆け巡る。

 

 三人の勇者が、そこに立っていた。

 コロッセオの中央に立って、俺達を待ち構えていた。

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