第13話「印<マーカー>」
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荷犬車や、一輪車。山のような荷物を背負った商人が行き交う大通り。人を呼び込む声、活気がある騒がしさは、電気街を思い出させる。露店からはおいしそうな食べ物のにおいが。クーちゃんもつられて鼻をふんふんと動かしてにおいをかいでいる。
路面にござを広げて刀剣や怪しげな装備を売っている露天商も存在した。あれ、盗品なんじゃね? 血のしみ、ついてない?
俺はベルランテ南の門へとやって来ていた。
普段は冒険者ギルドから東門を出て、森でスライムを狩るのが日課なのだが、今日は気分を変えてこっちにきてみたのだ。
東の森の浅い層で楽に狩れるようになってきたが、さらに奥に行くためには自分を強化する魔術が欲しいところ。
<身体能力上昇>を狙ってシーナさんを探しているのだが、今あの2人はベルランテにいないのか、ここ最近は姿を見かけていない。あと、なぜか回復魔術の<いやしのはどう>は使ってみても発動しなかった。クーちゃんのようなビームが出ないのだ。いろいろとポーズを試しても掛け声を変えてみてもダメ。何か条件があるのか?
考えすぎるとこんがらがってきて、だからこその気分転換だ。たまには門から南下して魔物を探してみるのもいいかもな。
考えながらぶらぶらしていると、見知った人物が門からやってくるのが見えた。
「お? オマエさん、マコトじゃないか」
「あれ、レジェル。久しぶり!」
四角くいかつい髭面。レジェルだ。何か依頼をこなしてきた帰りなのか、レジェルはいつもの大きめの鞄を担いでいた。全体的に泥や砂でどろどろになっているのは、きっとなにかトラブルがあったんだろうな。
「元気でやってるようだな。冒険者になったと聞いたぞ」
「まあな。ぼちぼちやってるよ」
「ぼちぼちどころか。東の森のスライムバスターだったか? 流石じゃないか、オレの見る目もまんざらじゃなかったようだな」
うおおおおお、やめて! そのあだ名やめて!
だが、レジェルに認められるというのはなんとなくこそばゆい気分になる。確かに冒険者を薦めてくれたのはレジェルだ。その期待に応えられたようで、ちょっと誇らしい。
「あれ? シーナさんは?」
いつも一緒だと思ってたんだが、違ったのか?
「ああ。実はさっきまでベルランテ南のダンジョンに潜っててな、そこなし泥沼のトラップにはまりこんで全身泥だらけだ。シーナは一足先に宿に向かったよ」
「そっか……。そりゃ、残念だな」
もし出会えたら<身体能力向上>をかけてもらおうと思ったんだが。まあ、しょうがない。
「そういえば、レジェルは魔術とかは使えたりするのか?」
「オレか? オレはさっぱりだな」
「いや、あまり魔術師で冒険者ってやつを見ないな、と思ってさ」
俺の言葉にレジェルはあごに手を当てて考え込む。俺の言葉が本当か考えているのだろうか?
「冒険者には少ないかもしれんが、そういえば騎士団に魔術師が配属されているはずだぞ」
「騎士団?」
がぜんファンタジーじみてきたな。騎士団か。でもベルランテに王様はいないはずだぞ?
「ベルランテは海からの侵略を防ぐ要所でもあるからな。王都から騎士団が駐屯している。海に向かって魔術を放つ光景はすごいぞ」
なるほど、そういうわけね。ふうん。一度覗きにいってみるのもいいかもしれないな。
「駐屯騎士団はベルランテの治安機構でもあるからな。ほら」
「お?」
レジェルが指し示す先に、警邏と思しき鎧姿の2人組が見えた。両方とも帯剣していて、片方にいたっては短めの片手槍を持っていた。白金色に青いラインが入った鎧は、スッキリとしたデザインで、いかにも「正義の味方」という感じを与える。
「オマエさん、会えてうれしいのはわかるが、オレも休みたいし、そろそろ行かせてくれ。またゆっくり話そう」
「ああ、ありがとな、レジェル」
俺はレジェルと別れると、思案する。さて、これからどうしようか。
とりあえずさっき聞いた騎士団の魔術師ってのを見てみたい。運がよければ何かラーニングできるかもしれないしな。
さっきの2人組を追いかけるか。
雑踏にまぎれるように俺は騎士団員の2人組についていく。クーちゃんは器用に人ごみの足元を縫って歩く。踏まれるんじゃないかとちょっとひやひやものだ。2人組はまさか尾行されているとは思ってもいないのだろう。俺が2人組の後ろにくっついていっても、気づいた様子はない。
異変が起こったのは尾行を始めて少したったときだった。
<体得! 魔術「印」をラーニングしました>
は――!?
ちょ、ちょっと待て!?
今何も無かったぞ?
俺はあわてて自分の体を触るが、痛むところや異変はない。だが、ラーニングした以上は、俺はこの魔術を食らったはずだ。
「<印>!」
俺の掌の上に魔法陣が出ると砕け散る。青っぽいマナの光球が出現した。
そんな魔術を往来で使ってるのが間違いだった。後ろから誰かにぶつかられ、つんのめった俺は思わず光球を、2人組の背中に放り投げる。
「――っ!?」
俺はいつのまにかつぶっていた目をそろそろを開けた。
……何これ?
爆発も何も、思ったような大惨事は起きなかった。鎧の上に絵の具をぶちまけたように、べちょっと染みがついた感じがしている以外は。
あー、そうか。これ、あれだ。カラーボールだ。
どうやら青いマナの染みは、騎士団員には見えていないようだ。集中すればつけた物体の位置がわかる。
つまり、これをつけられたってことは、今追われてるのは俺のほうか……?
これ、どうやって解除するんだ? 時間経過? 術者との距離か?
俺は露店を見るふりをしながら立ち止まった。騎士団員の2人組が離れていく。
しばらく経つと印が感じ取れなくなった。同じ距離でついていけばよかったか?
距離か時間かどっちかわからん。
それにしても、騎士団員を尾行してたから印をつけられたのか、それとも別の用事で印がつけられたのか……。
ちょっと気になる。気を抜かないほうがいいな。
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