第12話「情報屋」
今日も今日とて労働だ!
最近は朝8つの鐘と同時に冒険者ギルドに張り付くようにしている。近頃の日課だ。
ここ最近は朝に依頼を見て、よさそうなものがあれば受ける。
なければ森へ行ってスライム狩りの日々だ。始めのほうは荷犬車に乗せてもらったりしていたのだが、最近は鍛える目標もあり、走って現場へと向かうことにしている。肉体改造!
あの森の浅いところだとあまり危険は感じないなあ。もう少し深くまで潜ればもっと違う魔物もいるのかもしれないが、迷うと死ぬしな。
迷宮にも顔を出してみたが、入り口でヴァンフォルトに追い返された。マナストーンの採掘はマナストーンの保護のために登録試験のみで、下層の探索にはもっとレベルを上げるかパーティを組む必要があるらしい。
そんな中で魔術の使い方はなんとなくわかってきた。
氷柱の方は様々なアレンジが加えられる。出した後の氷柱にマナをさらに集めて巨大化させたり、射出速度を変えたり。火の球グレネイドは変わりがない。レベルアップとかが必要なのか?
「しかし……魔術師と組めるような依頼はないのか?」
俺は掲示板に貼り出された依頼書を見ながら思わずつぶやいた。クーちゃんも一緒に見上げているが、読めるのか?
「魔術師はだいたいパーティを組んでござるからなあ」
「うおっ! びっくりした!? ハーヴェか!?」
突然かかった声に俺は思わずびくっとした。
振り返ると、気配もなく一人の少年が立っていた。
18、19くらいか20はいってないだろう。背が低く、幼い顔立ちがまだ残るこいつはハーヴェ。大きめの帽子がトレードマークだ。
なんとこのベルランテ名うての情報屋(自称)らしい。最近スライムの核ばかり納品している俺に話しかけてきたのが出会いだ。
こいつはいつも気配なく背後に立つから驚くんだよな。心臓に悪い。
しかしこいつ、いつも思うが何でござる口調なんだ。神様の野郎の翻訳ミスか……?
「“スライムバスター”とあだ名されるマコト殿なら、パーティに引く手数多でござろうに」
「なんだそのあだ名。微妙にヤだぞ」
まあ、俺の今の収入源はスライムの核だからなあ。毎日毎日スライムの核を持ってきてればそんな風にも呼ばれるモンか。
「しかし、マコト殿。あのスライムをいったいどうやって倒してるのでござるか?」
「そ、そりゃあ企業秘密で」
「むう。さすがマコト殿。ガードが硬いでござるな」
ござる、じゃねえよ。コイツ、イヤなやつじゃないんだが、こうやって人の秘密を聞き出そうとするから油断ならん。さすが情報屋。
そうだ。
「教えてやってもいいけど、代わりに俺の知りたいことも調べて欲しいんだが」
「ほう? なんでござろう」
「いや、実は俺な、奴隷商人に捕まってた子供を2人逃がしたんだが、最後まで見届けられなくてな」
おお? ハーヴェは何か言いたそうな微妙な顔をしてるぞ。
「んで、その2人がどうなったか知りたいんだ」
「ふむ……。言いたいことはいろいろあるでござるが、まずその2人の名前は何でござるか?」
「分からん」
「……。出身地とかは、分かるでござるか?」
「それも分からん」
「それじゃ無理でござるよ!?」
だろうな。言ってて俺もちょっとどうかと思った。
「どちらも15歳くらいだったかな。1人は人間で、黒い髪。もう1人は顔が猫だったぞ。黒毛だった。最後は2人とも川に流されてたからなあ」
「どうやったらそんな状況になるんでござるか……」
「なんか奴隷商人の馬車が襲われてさ。狼の顔して、鎧着た集団に。あいつら何だったんだろうな。鎧着たやつは4人もいたし。そういや、魔術を使うやつも1人いたな」
ハーヴェがぴくりと反応した。
ん? 何か気になること言ったか、俺?
「マコト殿が来たのは1週間ほど前でござるな?」
「それくらいだな」
「どのあたりで襲われたか分かるでござるか?」
「スライムが出る東の森。レジェルとシーナさんに助けてもらったから、2人に聞いたらもうちょっと詳しい位置がわかるかも」
俺の言葉を聞いて、ハーヴェが驚きに目を見開く。
「レジェル殿とシーナ殿をご存知でござるか!」
「いや、ちょっと助けてもらったことがあってな」
「大物退治で有名な、青級冒険者でござるぞ」
お、知ってるのか? あの2人ってけっこう有名人なんだな。
「何だその青級って?」
「おや? マコト殿は知らないのでござるか? 冒険者の等級でござる。駆け出しは黄、それから緑、青、紫ときて、最高等級が赤でござる。冒険者の証を見てみるでござるよ」
俺は胸元からごそごそと冒険者の証を取り出す。おお、俺のマナストーン確かに黄色い。受け取った時は気にもしなかったな。
「経験を積んで証のマナストーンにマナが蓄えられていくごとに、変色していくのでござる」
「なるほど、さすが情報屋」
俺が納得顔でうなずくと、ハーヴェは呆れたような顔を向けてきた。
さらに俺が様々な方向から冒険者の証を眺めている間、ハーヴェは何事かを考えてこんでいるようだった。やがて、まなじりを決すると、俺に声をかけてくる。
「ふうむ。東の森でござるな。まあ、できるだけは調べてみるでござるよ」
「ああ、頼んだ」
ハーヴェは帽子をかぶりなおすと、俺に手を振って冒険者ギルドから出て行った。
何か分かるといいんだがなあ。
俺はいつもどおりの依頼を受けると、ウルススさんの大熊屋に寄る。
ちょっと貯まってきたお金で防具をグレードアップさせてそろえることに。
ちょっとごついブーツ。グリップがよさそうな白い革グローブなど、数点お買い上げで財布が軽くなる。
「ボウズ、武器は新しくせんのか?」
「いや、欲しいけどお金がね! このグローブ高すぎ! 1000シームとかボってんじゃない?」
「馬鹿を言う。ボウズが魔術防御の高いモノが欲しいと言ったんじゃろうが。ケイブドラゴンの革なんてそうそう手に入るモノじゃないんじゃぞ?」
「ぐぬぬ……」
攻撃は魔術で何とかなる。やはり今は防具だよな。武器は諦めるしかない。
もうしばらくはこの ひのきぼう に頼るしかないな。
E:革のグローブ(ケイブドラゴンの革)
E:戦闘用ブーツ
いつもどおり東の門から出ると、森へと向かう。最近は目的地までたどり着くのが早くなって来ている。ちょっとは鍛えられてるってことか?
俺は森の中を注意深く進む。落ち葉や枯れ枝などを踏み分けながら、魔物を探す。クーちゃんは少し離れた位置をふんふんとあたりを嗅ぎながら移動している。クーちゃんの野生の感覚は鋭い、警告の鳴き声のおかげで先制されることはほとんどないのが嬉しい。
いつもどおりマイコニドと大ニワトリを狩る。ここ最近見かけるようになったでかいダンゴムシのような魔物も。
……最近この巨大ダンゴムシ、増えたな。
お、スライム発見。新しい装備、ちょっと試してみるか。
まずは<まぼろしのたて>を発動。
飛んでくる氷柱をひのきのぼうで叩き落す。成功!
次は素手で叩き落す!
バキョっと言う音と共に、打ち払った氷柱が粉砕される。
おお! 前より手ごたえが軽いな!
んで……次は、<まぼろしのたて>を解除してっと。
飛んでくる氷柱を集中して見る。生身で受けるのは初めてか……!
「おおおお、りゃ!」
飛んでくる氷柱を拳で打ち払う。重い感触。当たったところがピキピキと音を立てながら、少しだけ霜に覆われる。なるほどな。本来なら、命中すれば氷漬けもありえるのか。
だが、いける!
さすがケイブドラゴンの革! 1000シーム!
さて、倒すとするか。長引きすぎると他の魔物も集まってくるからな。
俺はスライムに一撃を加えると、動きが鈍ったところに火の玉グレネイドを落とした。爆発を受けて、スライムが溶けていく。
ずどっ!
「ぐお……ッ!」
何だ!?
俺の意思とは関係なく、膝を突く。
冷たいはずなのに、灼熱の感覚。
クソっ! 太ももに氷柱が刺さってやがる!
俺が視線を上げると、スライムがもう一匹。いつの間にか近寄って来てたってか!?
スライムが追撃の氷柱を出現させるのを見て、俺はあわてて<まぼろしのたて>を発動させる。
魔術で氷柱を生み出すと、マナを注ぎ込んでサイズを大きくする。
「行けッ!!」
スライムも氷柱を生み出していたが、こちらのほうがサイズが上だ!
正面から相殺し、打ち砕いた上でスライムに命中する! ぶるっと震えると、スライムはどろりと溶けた。
「おおおお、痛ってエエエエ……」
俺としたことが、検証に集中しすぎて接近に気がつかなかったか。
「きゅうぅ……」
クーちゃんが駆け寄ってくる。もうしわけなさそうな声で鳴くが、そもそもクーちゃんのせいじゃないしな。
ていうか、これ、どうすりゃいいんだ。まずは抜くのか?
俺が痛みに苦戦しながら氷柱を抜くと、血があふれてくる。うおお、なんだ、やべえ。まずは血を止めないと、押さえる? 布? なんかあったか!?
俺が焦っていると傷口を覗き込んでいたクーちゃんが、額の宝石からビームを発射した。
あったかい……。
すげえ……みるみる傷が治ってく。
<体得! 魔法「いやしのはどう」 をラーニングしました>
おお! ついでに回復魔術もラーニング! クーちゃん、ありがとう! 今夜はごちそうをプレゼントします!
足が治った俺は、大事をとってベルランテへ戻ることにした。
気をつけていかないとなあ。レジェルとシーナさんが2人でやってる理由がよくわかる。ソロだと儲けは1人占めできるが、いかんせん危険もでかい。
うーん。儲けも催促しない、しかも俺のために全身全霊で戦ってくれるような奴っていないかな。
何か手がないか考えてみるか。