第11話「修得」
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ねんがん の マナストーン が て に はいったぞ!
翌朝の俺は快調な目覚めだった。
ベルランテの時計塔の鐘が8回鳴らされるのを、なんとはなしに聞く。この世界での朝だ。時計なんて計時装置はないらしく、ある一定間隔ごとに時計塔から鐘の音が鳴ることで時刻を表しているらしい。
俺が目覚めたのを気付いたのか、掛け布団の上に丸まっていたクーちゃんが起きだして伸びをする。
よし、今日も動くか!
昨日の残りだと思われるトカゲ肉の煮込みスープを朝食にいただきながら、今日の予定を考える。
まずは冒険者登録を済ませる。んで、依頼を受けるなりなんなり、まずはお金を稼がないとなあ。
俺は宿屋のおばちゃんにお礼を言いながら席を立つ。目指すは冒険者ギルドだ。
冒険者ギルドはこんな朝からでも開いているようだった。……まさか24時間営業だとか・・?
いつものカウンターに、窓口さんが座っていた。今日もクールだな、この糸目兄ちゃんは。
「おや、マコトさん。おはようございます」
「おはよう。持ってきたぜ、マナストーン」
俺は得意げに懐から岩喰いトカゲから採れた小石サイズのマナストーンを取り出す。
窓口さんの目がほんの少し開かれた気がしたのは気のせいだったろうか。
あ、まさかこのサイズじゃ足りないとかないよね!?
「拝見いたします。……確かに、マナストーンですね。しかし、昨日の迷宮探索では成果はなかったと聞いていたので、少し驚きましたね」
ヴァンフォルトか……。あいつ本当に試験官だったんだな。
「試験は合格ってこと?」
「ええ、そうなります。少々お待ちくださいね。冒険者の証を発行します」
窓口さんは席を立つと奥の事務所エリアから、冒険者の証を持ってくる。レジェルとシーナさん、そしてヴァンフォルトがかけていたものを同じデザインだ。
「では、登録いたします。魔術的な登録となりますので、マコトさんの血を少量いただきます」
窓口さんに親指を出すように指示され、出した親指を針で突かれる。ぷくっと膨れ上がった血球に冒険者の証をつける。
おお、ほのかに光ったぞ!
「マコトさんの固有マナパターンを登録しました。マコトさんが身に着けていない限り、魔物を討伐してもマナの収集はできません」
「ふむふむ」
「ようこそ、冒険者の道へ。お互いが尊敬の念を忘れず、良い関係を築いていける限りは、我々は援助を惜しみません。よろしくお願いしますね」
……。
いい言葉っぽいけど、これってちゃんとやっているうちはいいけど、冒険者ギルドに迷惑かけたり面子ツブしたら容赦しねえぞってことだよな?
と、とにかく依頼だ!
「さっそく依頼を受けたいんだけど、いいかな? おすすめの依頼とかあったら教えてほしいんだけど」
秘儀! 人に聞く!
ここはいわゆるハローワークみたいなもんだろうから、俺に合った依頼を斡旋してくれるはずだ!
「白妖犬の討伐……、迷宮探索の手伝い……、商隊護衛……。戦闘能力にもよりますが、おすすめなのはスライムの核の納品でしょうか。近頃需要が増えておりまして、報酬も割高です」
「スライムか……」
「最近出没の増えた白妖犬の討伐もありますが、まだマコトさんの戦闘ランクがわかりませんので、おすすめできるか判断できません」
白妖犬って魔物がどんなやつかもわからないし、それは受けたくないな。
それなら確かにスライムかな。
「じゃあ、スライムの核納品で。あと、この辺の魔物で魔術を使うやつっていたりする?」
「この辺りですと、やはりスライムですね。氷の魔術を使いますので、お気を付けください」
俺は窓口さんにお礼を言うと冒険者ギルドを後にした。
商店街で食料を買うと、ベルランテ東の門へと移動する。レジェルとシーナさんとくぐった門。ここから同じように道を戻れば、スライムが出る森へと戻れるはずだ。
……できればあのときはぐれた人子と猫子のこと、何かわかればいいけどな。
途中で農家さんに荷馬車ならぬ荷犬車に乗せてもらった。あの牛のようにでっかい短足のみたいなのはマルフという種族らしい。おかげで森の近くまで楽に行くことができた。
道を逸れ、森へと入っていく。さて、やるとしますか。できれば何か魔術も覚えていきたい。
奥へと進み、スライムを探す。
初めに出会ったのはひとかかえもありそうなキノコ。足が生えて歩いている。ふぁんたじぃ。名前わからんし「マイコニド」と呼ぶか。
俺はとりあえず強さを確かめるために戦闘に入る。
ヒノキの棒を構えて、相手の出方を見る。マイコニドは俺を認識すると、でっでっでっでっと走って寄ってくる。遅い。
体当たりをさっとよけて棒で一撃。
効いてるのか効いてないのかわからんな、これ。
とりあえず何発か動かなくなるまで殴っておいた。解体もしてみたが、裂いてもエリンギみたいな感じ。どうやって動いてるんだよ。
大きいニワトリみたいな魔物にも遭遇した。マイコニドよりは苦戦したが、足を攻撃してから火の玉グレネイドで焼き鳥に。
他にも普通の動物らしき鹿やらタヌキやらは見かけたが、あいつらは魔術使わないだろうしな。魔物とちがって襲ってくるどころかこっちを見ると逃げるしな。さすが野生の動物。
クーちゃんは魔物との戦闘になると、俺と着かず離れずのいい位置にいるみたいだ。魔物を攻撃してくれるわけじゃないが。
俺がしばらくマイコニドや大ニワトリを狩ってると、目当ての魔物を見つけた。
スライムだ。
まずは対策をしておくか。
「<まぼろしのたて>……!」
あの時と同じように、ぼんやりとした白い光が俺を包んだ。でもこれ、どれくらい防いでくれるんだ?
「おし、来い!」
俺はスライムの前に飛び出す。相手が魔術を使ってくれないことには、始まらん。
スライムがぷるぷる震えて回転する。俺のほうを向いたのか? いちおう前とかあるんだな。
スライムの動きが止まった。集中!
ひゅごっ!
スライムの頭上に大根サイズくらいの氷柱が生成されるやいなや、俺に向かってものすごい速さで飛来した。
横にジャンプして避ける。当たったらどうなるかわかんねえ! うまく打ち消せるのか? あの時の火球だって、すっげえ痛かったし。
着地に失敗した。すべる足元。俺は姿勢を崩す。
着地した俺の方に、砲塔を修正するみたいにスライムが回る。やはり俺を正面に捕らえると、2度目の氷柱。
回避? 間に合わん!
叩き落す!
「おっらあああああああああ!」
左拳で上から下へ、タイミングを合わせて氷柱を叩き落とす。
拳が命中すると、ガラス細工のように氷柱は砕け散った。痛ッテエエエ!!!
でも……!
<体得! 魔法「いてつくかけら」 をラーニングしました>
「来た来た来たアアアアアアア!」
来い! 氷柱!
俺の意思に反応して、マナが氷柱となって掌の上に出現する。
「行ッけエエエエエエエエエエエ!」
風切り音を立てて、スライムに氷柱が突き刺さる。射出速度なかなか速いぞ!
しかし刺さったがまだ死なないな。もう一発! おし! 倒した!
よしよし、<まぼろしのたて>があればこれくらいなら素手でもいけるみたいだな。
俺は溶けたスライムから核を回収しながらそんなことを考える。いろいろ試してみないとな。
あの後いろいろ試してみて、けっこうわかった。
どうやらスライムには氷柱より火の玉のほうが効果が高いらしい。
<まぼろしのたて>は武器にもかかってるみたいで、武器でも氷柱を砕くことができた。慣れてきたらバッティングセンターみたいなもので、スライムを前に粘っても大丈夫になったな。
スライムと睨み合って粘ってみたが、どうやら氷柱以外は撃たないようだ。核がおいしいから、しばらくは収入源になってもらおう。
日が暮れる前にはベルランテの街に着きたい。俺は早めに狩りを切り上げた。
成果は上々。スライムの核7つと、羽や嘴など、解体した大ニワトリの素材と肉。(解体を教えてくれたウルススさんに敬礼!)それとマイコニドの一部を持って街に戻った。
スライムの核の依頼は5つセット。依頼達成で1500シーム。スライムの核残り2つは、依頼達成数貯まるまでは温存しておこう。大ニワトリの素材も含めると、なかなかの儲けだったな。
宿屋に肉を渡して、ついでに数日分の滞在費を払う。しばらく厄介になるからな。
きつかったのは歩き通しの足の筋肉痛。魔術の腕もそうだけど、身体も鍛えたほうがいいな、こりゃ。
読んでいただき、ありがとうございました!
スライムの氷柱ですが、マナを使った攻撃を防いだり減衰したりする手段がない一般の冒険者にとっては、氷柱は脅威です。接近するほど敵の命中率も上がるので、一発もらえばフットワークが乱され、連射で食らいます。