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第10話「解体技能」

いつもありがとうございます! ゆっくり進行です。気長にお付き合いください。

 俺は少しずつ傾く太陽を見ながら、大広場へ続く道を歩いていた。

 クーちゃんは俺の足元をつかず離れず進んでいる。


 せっかくの迷宮(ダンジョン)探索だったが、おしいところでマナストーンを逃したなあ。

 まあ、新しい魔術は手に入れたからよしとするか。もっといろいろ覚えたらあのでかいやつも倒せたりするのか?


「にしても、どうすっかな、これ」


 背中にかけているかばんの重みを確かめた。マナストーンの代わりに、トカゲの死骸は手に入れている。

 よくあるパターンだと、解体して、素材と肉に分けるって感じなんだろうが……。

 俺、解体とかできないしな。肉とか魚とか切り身でパックだったしなあ。

 ていうか、この世界だと解体とか村人も持ってる必須技能だったりするのか?


 誰かに相談できたらいいんだけどな。

 レジェルとかシーナさんとかか? でも、どこにいるんだあの2人。他には……。

 そうだ、ウルススさんに聞いてみよう。あの人なら解体くらいできそうだ。熊だし。


 俺はそう判断すると、大熊屋へと方向を変える。  

 いくつかのせまい道を折れ曲がり、見えてくる吼える熊の看板。ガチャリと入り口の扉を開けると、それに反応してウルススさんが俺を見た。クーちゃんは電光石火のすばやさを発揮して俺のフードの中に退避した。苦手癖がついちゃったかな?


「おお、ボウズ。どうかしたか? 迷宮(ダンジョン)へ行くのはやめたのかの?」

「いや、迷宮(ダンジョン)には行ってきたんだよ」

「ほう。にしては浮かぬ顔をしておるようじゃが?」


 俺はほほをぼりぼりかく。初心者にありがちのミスを言うみたいでちょっと恥ずかしい。


「いや、欲ばって大きなマナストーンを持って帰ろうとしんだが。途中ででっかいトカゲに……」

「まあ、若いモンはそういうもんじゃろ。なら収穫なしか。残念じゃのう」

「いや、そういうわけじゃないんだけどね」


 俺はそう言うとかばんの中からトカゲの死骸を取り出した。


「おお! 岩喰いトカゲじゃな」

「やっぱりこいつが岩喰いトカゲか。魔物の名前がわかっても姿形と一致しないから不安だったよ」

「うむうむ。頭部集中狙い……いい仕事したのう」


 ウルススさんはトカゲの尻尾を持って逆さに持つ。熊が鮭をとったどーって感じにしか見えん。


「こいつをどうしたらいいか相談しにきたんだよ。このまま素材ってわけにはいかないだろ?」

「そうじゃな。有用な部位に分けんとな」

「ウルススさんは解体できる? ていうか、この街の人、誰でも解体できるのか?」


 ウルススさんはカウンターにトカゲを置くと、あごに手をあてて考えた。


「ワシはできるがのう。他に解体技能持ちというと……肉屋、魚屋など食材を操るところじゃろ。あとはまさに冒険者じゃな」


 やっぱりか。

 こうやって街に持ち帰るならまだしも、遠出とかするだろうし、覚えないといけないだろうな。解体。ぐええ。

 ある程度基礎は知ってないと、あの巨大なトカゲを倒しても持ち帰れないしな。

 よし、決めた。


「ウルススさん、よかったら俺に解体を教えてくれませんか?」


「ほう。そんなことをして、ワシにどんな得があるのかの?」


 マジか。普通、そこは「わかった。教えてやろう」とかいうもんじゃね?

 といっても、今の俺には何もないぞ。30シームくらい残ってるけど、これ払ったら宿代なくなるし。

 なら……。


「じゃあ、今後武器はココで買うようにします」

「うーむ」

「あと、出会った冒険者とかに大熊屋の宣伝をしますよ?」


「……いいじゃろ」


 そう言うとウルススさんはトカゲの尻尾を掴む。カウンターの奥にある、住居エリアに続く扉を開けた。


「来んのか?」


 行きます行きます。

 俺はウルススさんを追いかけて住居エリアに入っていく。扉の奥は短い廊下になっていた。右手に階段、奥にまだ部屋がある造りだな。


「ミトナ! ワシはちょっと用事じゃ。店番しとれ!」

「ほいほーい」


 ウルススさんは階下から2階へ声を張り上げた。快活な若い女の子の声が返ってくる。スカートをはいた子熊が脳裏に浮かぶ。ウルススさん、娘がいたのか……。


 住居エリアのさらに奥は、工房になっていた。素材を加工するのか、様々な器具がそろった台。壁際には熱するためのかまどや鍛冶道具が揃っていた。

 うれしそうに道具を検分するウルススさん。俺はその間に荷物を置いて、その上にクーちゃんをフードマントごと置いた。


「よし、それじゃあ実践で覚えるんじゃぞ。大事なのは、何が必要な部位かを知ることじゃ。解体の仕方も魔物ごとに変わってくるんじゃが、重要な部位を知っとれば、そこだけ持ち帰ることもできるからのう」


 そう言いながら、ウルススさんはこっちにがっしりとした造りのナイフを渡してくる。

 え、俺がやるの? まずは手本とかは?


「岩喰いトカゲで素材になるものは、牙、革、肉……。まあ、まずは皮を剥ぐのじゃ」


 うひゃあああああ。おおおおお。

 言うとおりやるとべろんって取れる。何これ。気持ち悪いけど気持ちいい。


「そこ、そう。次は頭を取り外すかの」


 うおおお! うおおお……。

 こ、これはちょっと……。でも、慣れないとな……。


「内臓は腐るからのう。きちんと処理するんじゃ」


 ……。

 あれからどれくらい時間が経っただろうか。

 達成感と共に、俺の目の前にはトカゲの素材が積まれていた。やったぞ! 俺はやった!


 革と、肉と、牙。それと、あとは体内にあった小石サイズのマナストーン! 意外なところから目標としてた物が出たな。ラッキー。


「よし、どうじゃ。大体わかったじゃろ? あとは魔物の骨やら筋肉やらの形に気をつければ、だいたいは解体できるじゃろ。その解体ナイフ、持っていけ」

「あ、ありがとうございます……」


 てーれってれー。

 解体技能を手に入れたぞ! まあ、まだまだ練習が必要だな。


「肉を持っていけば宿もちょっとは安くなるじゃろうて。もちろん換金商で換金することもできる。武器になりそうな素材なら、ワシの店でも取引しておるよ」

「それじゃ、この牙もらってください。お礼ってことで」

「しっかりしとるのう」


 ウルススさんは笑顔(だろう、たぶん)で俺から牙を受け取る。

 いやあ、牙くらいですんだら安いと思うぞ。俺は。


 俺はウルススさんに見送られて大熊屋を出る。

 あ、疲れてて店番してるっていう娘さんを拝むの忘れてた。まあ、いいか。


 肉を持って昼間目星をつけていた宿を取る。よくあるタイプらしい、酒場付きの宿。肉を持っていったおかげで15シームで泊まれた。夕食はもちろんトカゲ肉の煮込み。

 豚肉っぽい味だな……うまい!

 クーちゃんも肉つき骨をもらって、美味しそうにがぶがぶしていた。




 マナストーンも手に入ったし、明日は再び冒険者ギルドだな。待ってろ、窓口さん!


  



読んでいただきありがとうございました! 

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