第9話「マナストーン」
いつもありがとうございます! ブックマークありがとうございます! ゆっくり進行ですがぜひお付き合いください。マコトくんは両方覚えるので混乱しがちなのですが、「魔術」と「魔法」という2種類がこの世界にはあるのです。ちょっとわかり辛いかもしれません。
2月19日修正 魔法「光源」→魔法「ゆらぐひかり」
採掘穴に足を踏み入れた俺を出迎えたのは、幻想的な光の玉だった。
天井付近そこかしこに浮かんでいるものもあれば、壁際をふよふよと漂っているものもある。明るくなったり暗くなったりはしているが、これのおかげで採掘穴がそれなりに明るい。
これも魔術の明かりなのか? 何か燃えているわけでもないしな。
歩きながらなんとはなしに見る。俺は光の玉の足元に必ずラッパのような形をした花が咲いていることに気付いた。
なんだ……? この光、花から出てるのか?
俺はよくよく見てみる。光が消える。しばらくすると、ぷわっとシャボン玉のように光の玉が花から浮かび上がる。
光の玉が消えてから数十秒で、花から光が生み出される。その光の玉が採掘穴を照らしている、という仕組みなのだ。
これって暗い中でも育つために、自分で光源を確保してるってことなんだろうなあ。
たぶん、魔術か何かの光だろ? ……触ってみるか?
俺はそうっと手を伸ばすと、おそるおそる光の玉に手を伸ばす。
触れたら手が消し飛ぶとか、溶けるとかないよね?
<体得! 魔法「ゆらぐひかり」 をラーニングしました>
「おお! 出た!」
頭の中に響く音声。予想通りなら、やはり触れた魔術を覚えられるってことか。修行とかいらないのは楽でいいな。
俺は意識を集中させると、光の玉を生み出す。さらに明るくなったな。これはけっこう便利かもしれないな。
体得……か。
試してみないとわからないが、俺の体なら「手」以外でもいけるのか?
しかし、攻撃にも使われる魔術を触れってけっこう条件厳しくね?
「……ん?」
そういや、「魔法防御力上昇」ってのも。体得してなかったか?
次、試してみるか。
採掘穴は一本道だったため、迷うことなく奥までたどり着いた。ところどころ盛られた土砂があったところを見ると、冒険者によって掘り進められてきたのだろう。
もっとトカゲが出るかと思ったが、そうでもなかったな。
「おお……!」
俺の口から思わず声が出た。突き当たりの採掘所には、そこかしこに水晶が花開いていた。
「これがマナストーン……なのか?」
なんだ、結構簡単に見つかったな。ちょっと拍子抜けだ。
近くにあったマナストーンひと株を、ケガをしないようにつかむ。
けっこう硬いな。これ、どうやって採るんだ? だめだ、採れん!
なら、食らえ火の玉! うお! 爆発したけど欠けすらしてないぞ!?
岩盤から直接生えてるマナストーンは動かせる気がしない。でも、どうにかして大きいマナストーンを持って帰りたい。
採れやすそうな株を探すこと十数分。俺は土の上に生えているマナストーンを発見した。
おっ。動く動く。
「よおおいしょお!」
大きなマナストーンひと株が、めりっと地面からはがれて、俺の腕の中に納まった。
おおお! でかい! 重い! 冒険者の証のサイズの何倍あるんだ? これを持って帰れば……!
持ち帰ることができるよう、ひのきの棒など荷物を整理し、俺はさっそくマナストーンを抱えて歩き出す。大きい上にトゲトゲと飛び出した形状のせいでかばんに入らない。なかば引きずるようにして運んでいく。
「きゅー!」
クーちゃんが鳴く。警戒している声音に、俺は落としていた視線を上げた。
「……っ!」
神殿側から、トカゲが顔を出していた。
牛サイズほどのトカゲが。
え! 何!? 何、この大きさ!
全身が総毛立つ。あの巨体で体当たりでも食らったら……想像したくもない。
じりっと一歩後ろにさがる。ずいっと一歩分巨大トカゲがこちらに踏み出してくる。
俺は巨大トカゲを刺激しないようにゆっくりとマナストーンを置いた。こんな重いもん抱えたままだと動くに動けないからな。
俺はさらに一歩さがる。どうにかして打開策を考えないと死ねる……!
トカゲは俺の動きをつぶさに観察しているように見える。いやな緊張感。
先に動いたのは巨大トカゲ。俺が反応する隙間も与えず、口を開いて飛びかかる。
巨大な脚と、強靭な筋肉から繰り出されるスピード。しまったと思った時にはもう遅い。
うお! 俺、死んだ……!
しかし、俺が考えていた結果は、いつまでたっても来なかった。
見ると、巨大トカゲは、俺ではなく俺が捨てたマナストーンにかじりついていた。
そうか。こいつも巨大だけど、「岩喰いトカゲ」なのか。
ああ……。にしても、俺のマナストーンが……。
一口目で半分くらいを。二口目でそのほとんど半分を口中に納めた。ボリンボリンと牙で咀嚼する音が聞こえる。口の隙間からぽろぽろとマナストーンの欠片が落ちた。
あのトカゲ、食べるのに夢中になってやがる。
今のうち、逃げるべきか?
逃げる。俺は決断すると。クーちゃんを荷物のように腕に抱えた。すり足で壁際を伝っていく。
あと少し……。あと少し……。抜けた!
あとは全力で神殿の大広間を駆け抜けた。後ろを振り返るが、また食べているのだろう、追いかけてくる気配はない。
ああ、もったいない。俺のマナストーンちゃん……。
迷宮入り口の詰め所には、あいかわらずヴァンフォルトが座っていた。俺はひとまず安心すると、抱えていたクーちゃんをおろした。
「おや、さきほどの後輩候補君であるな? 目的の物は手に入ったのであるか?」
「大きいやつが手に入ったんだが...」
「どうしたのであるか?」
ヴァンフォルトがいぶかしげに俺を見る。まあ、手ぶらだしな。
「でかいトカゲに喰われた」
「欲張ったであるなあ、後輩候補君。大きなマナストーンを持ち帰ろうとすると、匂いに惹かれて巨大岩喰いトカゲがやってくるのである」
そう言ってヴァンフォルトは笑う。ちくしょう。知ってるなら先に言え。
どっと疲れた。そろそろ暗くなってきそうだし、今日はもう街に戻ることにするか。
ぐおおおお、悔しい!
読んでくださり、ありがとうございました! 次の更新は2月21日予定です。