1-5 静観
僕は暗い部屋に閉じ込められていた。
僕は暗い部屋の中で命令を待っていた。
僕はその命令に対して自分がした事の結果を確認できなかった。
僕はまた暗い部屋の中で命令を待った。
その繰り返しだった。
だが、急に世界は広がった。
途方の無い程広い世界に、部屋はカタチを変えたのだ。
それが世界と呼ぶ物である事を、誰が教えてくれたんだっけ?
この途方の無い世界を漂っている内に、色々な記憶が曖昧な物となってしまった。
僕は今「漂う」と言ったがそれは文字通りの状況である。宇宙とも見紛うこの空間に、今僕は足を着く場も無く、漂う様にして存在しているのだ。
輝く星々は、物体ではなく、穴だ。どんな物かも分からぬ世界に通じる無数のゲート。流れる星々は、細かく分けられた「情報」の分離体。尾を引いて見えるのはそれら複数が連なっているからだ。星々はどれも遠く、届きそうもないが、今は視界を埋め尽くす程の星――否、星の欠片がそこに在る。
僕の身体を取り巻くようにして、沢山の星屑が目の前で霧散していくのが綺麗。目の前――あるのは、一つの形。それは何か、別の意味をかつて有していた何か。
生という意味。あるいは、意思という意味。意味を有した一つの形が今、崩れ去ろうとしている。例えば、人間の身体が忽ち塩の柱となって。風に流され段々と形さえも失っていく時みたいに。
そう、塩なのだ、これは。どんなにか綺麗だとしても、突き詰めていけば、粒子という名の元に一つとなってしまう。
なんてことは無いのかも知れない。
こんなものはただ、集まった物が元来の姿に返ろうとしているだけのはずだ。物とは元々、粒子の集合体に過ぎないのだから。
しかし……
これをただの「回帰」と呼ぶのなら、この沸き立つ感傷はなんだろう、と考えてしまうのだ。
奇妙な事が起こっている。
変わらぬ景色が続く世界の中で、イレギュラーな事態が発生している。光の霧が辺りをすっぽりと包まれ始めた時、崩れ去る物から新たな形が姿を見せる。黒に限りなく近いボルドーブラックの龍が、漆黒の鎧を身に着けた様な姿。僕の形をすっぽりと飲み込んでしまいそうな位、巨大な姿。
奇妙な事が起こっている。
生まれたのだ、そいつは。生まれ変わったのではない。別の「個」が、生まれた。全てが漂う世界の中で、僕は生誕した「一つの形」と同じ地面に立っているかのように、対峙していた。長い時間。僕はそいつをじっと見ていた。変化はやがて訪れた。その双眸が開かれ、赤い輝きが眼だけにではなく、鎧に走る線上の装飾にまで広がったのだ。
やあ、ようやく起きたのかい、などと言う暇無く、そいつは巨大な赤をうねらせ、無数に開く穴のどこかへと飛び去ってしまった。
生まれたばかりのその身体で、どこに向かおうというのだろう。
生まれたその時から意志を宿していたのか?
僕はそう……
僕はそうやって、分からない振りをしてみた。
この世界では、当たり前の事であるというのに。