4-終 Zone:BlueDragon
車両の幻が消えたレールの上で、隊列を組む鳥の群れを悠月は見た。
十羽。
二十羽。
否……
「おい、悠月」
呆れたように立ち尽くす将司の目線の先を見ると、もう既に何百羽、何千羽ものトリが、レールから外れた黒い残骸に集まっていた。
まるで食い尽くそうとしているかのように。喰らい、殺す、鳥。
「『親』か?」
悠月はその時になって、残骸となったBUGが子どもに過ぎない、という事に気付いた。
だとすれば……
黒い残骸と鳥はやがて一つになって、カタチを作り始めた。
何かのテレビで見た様な、戦車の様な、ロボットの様な形をした四脚の車両。
黒く濁ったそれは、軋むように動き出し。
赤く濁った光を、パーツとパーツの間から漏らし。
それはラインとなる。
まるで、BUGのように。
「冗談はよし子ちゃんだぜ」
冗談になっていない震え声をあげる将司は、狭いレールの足場をたどたどしく辿っている。悠月も同じ足場にいたが、ここにいては危ない……立ち上がる不安に素直になって、悠月はG・スクエアを使って港の上へ降りた。将司も後に続き、レール、コンテナの順で最後には港の地面へと降り立った。
四脚の『それ』はカタチを変え始めていた。後ろ足が大きく回転し、二足になり。重々しい車体を天にあげたそれは、10mほどの巨大な『人』になった。指先までも正確に写し取った、人型のロボット――頭部は回転し、赤く残酷な光が、悠月達を射った。
その時だった。
光の線。
無音。
『人』となった巨体から、突き出したのかと思った。
一秒。
爆発音。
四散する巨体。
破片。そして、
赤い粉が散り。
天に昇っていく。
魂が。
魂が?
「何だってんだよ……!?」
将司も突然の爆発に驚き。
悠月は黙って、爆炎と、立ち上がる煙と。
それらを寄せ付けないように浮かぶ人影を見ていた。
人影だった。
それは、
炎の中で確かに浮かぶ、それは。
黒いスーツを、
長い前髪を靡かせる、男。
大人の男。
男は、拳銃を両手に握っていた。
歩き続けていた男は、立ち止まり。
挙動。
拳銃をクロスさせ、次に描くのは十字。
スーツの背後にカードの隊列が浮かび上がり。
空間の色の反転した半球が発現、
急速に拡大。
避けきれない。
悠月と将司は、包まれてしまう。
異様な感覚。
悠月は剣を握っている。
その事を思い出したのは、悠月が剣を握っている、という感覚が、剣の持ち手に掌が張り付いているという感覚が、この空間では決して知る事のない感覚が、確かに浮かび上がってきたからだ。
それから全身に時間を掛けて浮かび上がってくる、別の嫌な感じ。
痺れ。
――痛み。
「なんだ……!?」
将司が声をあげ、信じられないといった視線を悠月の方に向けた。
悠月には頷く事しかできない。
この空間に決して、『あるわけのない』感覚が、
二人を襲っていたのだ。
目の前の男が何をしたのか。
それを訊く前に――
「エラーでもなんでもねぇよ」
男は口を開いた。沸き立つ物を必死に押し込めている様な、心を逆撫でするような、恐ろしい声。落ち着いた声、とそれを一概にカテゴライズする事はできない。
「システムがこれはいらないと言って捨て置く道へ向かっていたものを、俺が通すようにしてやっただけさ――おめーらの『人の顔はご丁寧に肌色のクレヨンで塗る、山はそうであると決まっているので緑色の色鉛筆で塗ってやる』、みてーなくっっっだらん思考から『解放』してやるためにな」
再び、足音。
拳銃を握ったまま。
「なあガキども、お前らはいつまでぬるま湯につかってやがるんだ?いずれ浸かり過ぎて茹でタマゴになってしまうんならよお、結果的には同じ事だろうがよ」
男が消える。
そうではない。すぐ目の前まで。
悠月の目の前に、ナイフみたいな鋭い目が。
捉えていた。
拳銃も。
将司の叫びも、銃撃音も、彼の身を被う冷たさの前に、全てが無かったものになっていた。
→キルトラレ




