表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キルトリ KILL-TORI  作者: モノクロック
EP.04 to京 WARGAMES
62/63

4-16

『「メタグロシィ」を撃ったのは一体何だったんだ?』


 僕は王塚や刑事さんと別れた後の港で、カード型の電子ペーパーを耳に押し当て、香流の声に耳を傾けていた。

 受話口の向こう側の局室の中は喜びの声に溢れていた。八雲弥生の嬉しそうな声が一番大きい、と僕は思った。

 

「王塚さんが誰と何を話したかは分からないけれど、それはいつもの事だろう?彼らと弥生さんの導き出す結果をどうにかして予見した警察は、メタグロシィの足だけを狙い撃って、海へ落とし、VBIEDの爆発を防いだ……それでいいじゃないか」


 考えに落ちる香流の返答を待つための時間がそこでできた。静寂。橙色に色を変え始めた水の塊の向こうに、霞む蜃気楼。否、街の影。今にも消えてしまいそうだ、僕は目を細めてそれを保とうとする。


『それにしても、悪夢のような事件だったな』香流の唐突な言葉が耳に入る。

「そうだね……でも、それが目に見えるカタチでの攻撃だった、という点では優しさなのかもしれないね?」

『優しさ?』

「そう、本当に怖いものは……目に見えない内に、気付いた時には全て奪われ、敵の物となっている。そんな状態の事じゃないかな」

『……それを本当に必要としている敵が、本当にいると思うか?』

「今はそうでなくても、過去はそうだったかもしれない。僕達がほんの小さいシカクの中に押し込めて来た戦いは、もう取り返しがつかない所にまで来てしまった。そう考える事もできるかもしれないね」

『あの時、この場所以外のすべては一瞬にして奪われた。それまでの過程の事を、お前は言っているのか?』

「そう、そして僕達が担うものから、その向こうへと続く道程……」

『全て過ぎ去った。「何が」続いていると考えているんだ?』

「それを知る者の心の中さ。敵はかつてあった何かを繰り返そうとしている、僕にはそう思えてならないんだよ、香流」

『過去を紐解く事もこれからの俺達の任務の一つになると、どうやらお前はそう考えているようだな』

「それは彼らの仕事でもある」海からの風。頬を当たり通り抜けていく。僕がないもののように。

「そういえば、彼らは?そろそろ戻る頃じゃあ……」

『そういえば――』

 

 沈黙。

 また風が吹く。

 不穏な風。

 海と空との境界線など、もう無いような色合いになっている。

 全てが変化していく。

 全てが変わっていく。

 全てが突然に起こる物だという事を。

 分かっていたのは僕だけでは無かっただろうに。





 何れ警察がくる、と久慈という名の刑事は言っていた。

 僕は死体がまだ残ったままの船の方を振り返り――

 気付く。

 彼らがネットワークにつながる物を所持していたとすれば、

 BUGはいつでも出てこれるじゃないか。

 そう考えた。

 BUGが人間を殺した――

 頭を銃で撃ち抜かれていた、と久慈は言っていた。

 BUGが銃で人間を打ち殺した――


 そのBUGが、人間の形をしていて、人間の心を持っていて、

 ラクティス事業所のPCを起動させたとすれば。

 とんでもない仮説などではない。

 ここに実証例があるのだから。

 

 だとすれば――

 耳鳴り。

 潮の匂いは、届かない。

 僕はカードを乱暴にポケットの中に入れ、走り出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ