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キルトリ KILL-TORI  作者: モノクロック
EP.04 to京 WARGAMES
61/63

4-15

 局室内は静寂に満ち満ちていた。

 苦い物を噛み千切る事を、そこにいる全ての人間が惑っているかのように。

 巨大モニターに投影されたものは、『メタグロシィ』とモノレールの車両同士を構築するネットワークを表したものだった。

 今は真っ黒で、何も表示してはいなかったが。

 モニターは何も映さないのだ。

 状況の更新が無い限り。

 それがあれば、自動でそれは更新する。それは局室内にいる全ての人間に共有されていることがらだった。

 しかし、彼らの期待も、弥生の祈りも、香流の諦観も、すべてを置いてけぼりにしてしまうかのように――

 モニターは何も映さない。

 モニターは何も映さない。

 モニターは何も――


「八雲ォ!」


 香流の叫び声がいち早く『それ』を捉えた。


「はいっ」すぐにキーを叩く八雲。

 打鍵する指は踊り。

 張りつめる、

 まとわりつく、

 緊張感、空気。

 なかったかのように。

 なかったものとして、

 弥生の頭の中では。

  

 最適化の近道であるハック、その最速が、彼女の頭の中に宿っていた。








 朱里は目を上げた。

 車体が少し、上がったのを感じたからだ。

 目を反らすと、視界を塞いでいた黒は再び離れていた。

 否、それは……

 また擦れる、甲高い声。

 しかし不快ではない。

 朱里は――

 外で車体に覆いかぶさっていた4脚が、もう遥か前方まで、

 緩やかにカーブした線路の向こうにまで進んでしまっているのを見た。


 あんなにぴったりとくっついていた恐怖が。

 解放されたのだ、と思う頃には電車の速度はもう通常に戻っていた。

 そして、彼女はまた見た。

 空を飛ぶ見慣れない戦闘ヘリ。

 射出される弾は正確に、4脚の2つの足を狙い撃ち。

 バランスを崩したそれは、回転し、火花を散らしながら。

 海へと落ちていった。

 悲しげな表情を浮かべていた。

 朱里はそう思ったのだ。

 ベッドに今も眠る、母親のような――

 

 海で立ち上がった水柱の残骸が、朱里が手を押し付けていた窓を叩き付けていた。

 飛沫の中をモノレールは勇ましく、今迄よりもゆっくりなスピードで、安全に走り続けていた。

 沈黙。


「助かった……」


 誰かの呟き声。歓声。

 朱里も同じ気持ちだった。しかし今は無関係であるかのように沈黙していた。

 高く昇った日向が、

 窓の影が少しずつずれていって、朱里の目を射ったときも。

 何かの沈んだ後にできる気泡が海上にあがっていくのを、朱里はいつまでも切なげに見つめていたのだ。


『大変ご迷惑をおかけいたしました。本線はお客様をこのまま、安全に京まで送り届けまーす』


 調子に乗ったような大学生くらいの年の女の子の声が、車内に響き渡ったので、さすがに朱里はおかしそうに口を歪めた。

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