4-15
局室内は静寂に満ち満ちていた。
苦い物を噛み千切る事を、そこにいる全ての人間が惑っているかのように。
巨大モニターに投影されたものは、『メタグロシィ』とモノレールの車両同士を構築するネットワークを表したものだった。
今は真っ黒で、何も表示してはいなかったが。
モニターは何も映さないのだ。
状況の更新が無い限り。
それがあれば、自動でそれは更新する。それは局室内にいる全ての人間に共有されていることがらだった。
しかし、彼らの期待も、弥生の祈りも、香流の諦観も、すべてを置いてけぼりにしてしまうかのように――
モニターは何も映さない。
モニターは何も映さない。
モニターは何も――
「八雲ォ!」
香流の叫び声がいち早く『それ』を捉えた。
「はいっ」すぐにキーを叩く八雲。
打鍵する指は踊り。
張りつめる、
まとわりつく、
緊張感、空気。
なかったかのように。
なかったものとして、
弥生の頭の中では。
最適化の近道であるハック、その最速が、彼女の頭の中に宿っていた。
朱里は目を上げた。
車体が少し、上がったのを感じたからだ。
目を反らすと、視界を塞いでいた黒は再び離れていた。
否、それは……
また擦れる、甲高い声。
しかし不快ではない。
朱里は――
外で車体に覆いかぶさっていた4脚が、もう遥か前方まで、
緩やかにカーブした線路の向こうにまで進んでしまっているのを見た。
あんなにぴったりとくっついていた恐怖が。
解放されたのだ、と思う頃には電車の速度はもう通常に戻っていた。
そして、彼女はまた見た。
空を飛ぶ見慣れない戦闘ヘリ。
射出される弾は正確に、4脚の2つの足を狙い撃ち。
バランスを崩したそれは、回転し、火花を散らしながら。
海へと落ちていった。
悲しげな表情を浮かべていた。
朱里はそう思ったのだ。
ベッドに今も眠る、母親のような――
海で立ち上がった水柱の残骸が、朱里が手を押し付けていた窓を叩き付けていた。
飛沫の中をモノレールは勇ましく、今迄よりもゆっくりなスピードで、安全に走り続けていた。
沈黙。
「助かった……」
誰かの呟き声。歓声。
朱里も同じ気持ちだった。しかし今は無関係であるかのように沈黙していた。
高く昇った日向が、
窓の影が少しずつずれていって、朱里の目を射ったときも。
何かの沈んだ後にできる気泡が海上にあがっていくのを、朱里はいつまでも切なげに見つめていたのだ。
『大変ご迷惑をおかけいたしました。本線はお客様をこのまま、安全に京まで送り届けまーす』
調子に乗ったような大学生くらいの年の女の子の声が、車内に響き渡ったので、さすがに朱里はおかしそうに口を歪めた。