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キルトリ KILL-TORI  作者: モノクロック
EP.04 to京 WARGAMES
60/63

4-14 Stage:網状都市[中層⇔下層] “全力出撃603”





 前方。

 遥か前方。

 ――海だ。

 海の向こうまで、しかし線路は続いていない。

 街に沿うように、線路は急カーブしている。


 将司の視線の先に目を留めていた悠月は、驚いた表情のままで将司を見た。


「上のデカい奴があの急カーブを曲がり切れると思うか?」

「思わない、でもそれは下の車両も同じだろ」


 悠月は起こり得る状況を考える。脱線。現実の車両は、制御を失い、同じようなカーブに差し掛かった所で弥生がハックに掛る前に――海へ落ちるだろう。

 悠月は車両の前に張り付く。

 衝動的に舞い。

 脚を2つの車輪の回るレールとレールの間につける。

 轟音と共に、脚まで削れてしまうような感覚。

 悠月は危険を感じ、数秒で足を引っ込める。


 車両の天井から、将司が笑いをこらえながらそれを見ていた。


「塩梅を見ただけだよ」

「はいはい」


 舌を打ちながら、振動する車体にくっついたままで、カードを手で探る。

 熱い感触。

 そのまま徐々に、引き離し。

 霧散する感覚をも確かめる。

 実体化されたものは、グラディウス。

 刃の面積の広い刀剣。

 これで止められるか……


「俺もいってくる」え、どこへ?訊く前に将司は飛び出し、流れる景色に振り落とされることなく、踊る様に翻り、BUGの漆黒のボディの後方へ回った。

 大砲となった右腕を突き出したままで、左腕をBUGの後ろにつける。将司は歩行するBUGのジェット・ブースターとなるつもりだと悠月は確信した。

 互いに反対のベクトルを加えるのだ。


 再度前方を確認する悠月。

 数百メートル先の急カーブ。

 斜めによれている視界。

 水平に戻し。


 悠月は剣を、レールとレールの間に突き刺す。

 削れる物質全てが、瓦礫へと変わり。

 瓦礫が悠月の頬を裂く。

 痛みはない。

 手が痺れる事も、疲れる事も無い。

 だが、汗が伝う。

 形の無い、目の見えない重みが、襲う。

 これらは現実か?


 次第に目に見えない重みは、頭から消えていく。

 今目の前に映る状況、それだけが全て。

 頭がそうだと処理し始める。

 

 次第に緩まるスピード。

 だが、上を被う黒い物体はぴったりとくっついている。

 離れようとはしない。

 何かでしっかりと、つながれてしまっているようだ。

 糸か何かで。

 

「将司!」叫ぶ悠月。

「わってらい!」


 視界の外で、火を噴く将司。

 断続的に。

 将司の腕の大砲が、どんなものであるかは分からないが。

 背中を押される勢いに、戸惑うように、

 足をもたつかせるBUG。

 リズムを刻む衝撃。

 電車の振動と一緒くたになっている。

 


 急カーブは目前。

 せめて曲がり切るだけ、速度を緩める事ができれば。

 悠月は片腕にグラディウスを預け、

 カードを指の間に、3つ挟み。

 一斉に切る。

 具現化される剣。

 種類の違う太刀。

 全てをグラディウスと同じ地点に、突き刺し。

 剣同士の激しく擦れる音。

 吹き飛ばされて、回転しそうになる身体も、剣も。

 全てを1点に抑え込む。


 流れる景色。

 ビル群は視界の右、その外側に消え始める。

 カーブに差し掛かり始めたのだ。

 レールそのものが、右へ傾くように。

 揺れる車体。

 放り出されそうになる。

 悠月も。

 そして将司も。

 BUGの脚の、内角にある2つがレールから離れ、

 斜めに傾く。

 勢いはそのままで。

 車両は傾かない。

 レールからも離れていない。

 固定された黒い海と灰色の空の風景が、悠月の目に一瞬とまる。

 止まる。

 止まるのだ。

 このまま勢いを止める。

 だが――

 横転せず、距離も引き離さないBUG。

 姿勢を直し、まだ歩き続けている。

 悠月は4つの剣を握ったまま、その方向を見上げる。

 将司はBUGの横側、進行方向の右側へ回り込み。

 断続的に火を噴く大砲を。

 それと一緒の右手を、

 千切れそうな右腕を。

 制限の尽きるまで、火を噴き続ける。


 悠月は――

 気付く。

 衝撃の度、離れそうになるBUGと車両の間。

 つなぎとめている物。

 見えない糸。

 張る度に姿を現す、光の糸は、

 悠月の方からしか見えなかったのだ。

 

 悠月は全ての剣を股と、右手に挟み込み。

 震える左手で、正確にそのカード、スクエアを手に取る。

 霧散。

 具現化。

 投擲。

 投げ打たれたナイフが、回転し。

 正確にその糸を、切断した。

 

 傾くBUG。

 大砲の効果が尽き、それをあらぬ方向へ投げる将司。

 2つの物が車両と距離を離し。

 4脚のBUGはレールから完全に離れたところで、

 レールの下の港へ、その身体を叩き付け。

 沈黙。

 

 悠月はそれを確認したあとで。

 握る剣に力を入れ。

 いつの間にか隣に貼りつく将司と、

 剣がある所と同じ場所へ振り下ろされる巨大な爪には、

 目もくれることなく。

 訳の分からない声を、

 完全に車両が動きを止めてしまってからも、

 叫び続けていた。








 

 

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