4-14 Stage:網状都市[中層⇔下層] “全力出撃603”
前方。
遥か前方。
――海だ。
海の向こうまで、しかし線路は続いていない。
街に沿うように、線路は急カーブしている。
将司の視線の先に目を留めていた悠月は、驚いた表情のままで将司を見た。
「上のデカい奴があの急カーブを曲がり切れると思うか?」
「思わない、でもそれは下の車両も同じだろ」
悠月は起こり得る状況を考える。脱線。現実の車両は、制御を失い、同じようなカーブに差し掛かった所で弥生がハックに掛る前に――海へ落ちるだろう。
悠月は車両の前に張り付く。
衝動的に舞い。
脚を2つの車輪の回るレールとレールの間につける。
轟音と共に、脚まで削れてしまうような感覚。
悠月は危険を感じ、数秒で足を引っ込める。
車両の天井から、将司が笑いをこらえながらそれを見ていた。
「塩梅を見ただけだよ」
「はいはい」
舌を打ちながら、振動する車体にくっついたままで、カードを手で探る。
熱い感触。
そのまま徐々に、引き離し。
霧散する感覚をも確かめる。
実体化されたものは、グラディウス。
刃の面積の広い刀剣。
これで止められるか……
「俺もいってくる」え、どこへ?訊く前に将司は飛び出し、流れる景色に振り落とされることなく、踊る様に翻り、BUGの漆黒のボディの後方へ回った。
大砲となった右腕を突き出したままで、左腕をBUGの後ろにつける。将司は歩行するBUGのジェット・ブースターとなるつもりだと悠月は確信した。
互いに反対のベクトルを加えるのだ。
再度前方を確認する悠月。
数百メートル先の急カーブ。
斜めによれている視界。
水平に戻し。
悠月は剣を、レールとレールの間に突き刺す。
削れる物質全てが、瓦礫へと変わり。
瓦礫が悠月の頬を裂く。
痛みはない。
手が痺れる事も、疲れる事も無い。
だが、汗が伝う。
形の無い、目の見えない重みが、襲う。
これらは現実か?
次第に目に見えない重みは、頭から消えていく。
今目の前に映る状況、それだけが全て。
頭がそうだと処理し始める。
次第に緩まるスピード。
だが、上を被う黒い物体はぴったりとくっついている。
離れようとはしない。
何かでしっかりと、つながれてしまっているようだ。
糸か何かで。
「将司!」叫ぶ悠月。
「わってらい!」
視界の外で、火を噴く将司。
断続的に。
将司の腕の大砲が、どんなものであるかは分からないが。
背中を押される勢いに、戸惑うように、
足をもたつかせるBUG。
リズムを刻む衝撃。
電車の振動と一緒くたになっている。
急カーブは目前。
せめて曲がり切るだけ、速度を緩める事ができれば。
悠月は片腕にグラディウスを預け、
カードを指の間に、3つ挟み。
一斉に切る。
具現化される剣。
種類の違う太刀。
全てをグラディウスと同じ地点に、突き刺し。
剣同士の激しく擦れる音。
吹き飛ばされて、回転しそうになる身体も、剣も。
全てを1点に抑え込む。
流れる景色。
ビル群は視界の右、その外側に消え始める。
カーブに差し掛かり始めたのだ。
レールそのものが、右へ傾くように。
揺れる車体。
放り出されそうになる。
悠月も。
そして将司も。
BUGの脚の、内角にある2つがレールから離れ、
斜めに傾く。
勢いはそのままで。
車両は傾かない。
レールからも離れていない。
固定された黒い海と灰色の空の風景が、悠月の目に一瞬とまる。
止まる。
止まるのだ。
このまま勢いを止める。
だが――
横転せず、距離も引き離さないBUG。
姿勢を直し、まだ歩き続けている。
悠月は4つの剣を握ったまま、その方向を見上げる。
将司はBUGの横側、進行方向の右側へ回り込み。
断続的に火を噴く大砲を。
それと一緒の右手を、
千切れそうな右腕を。
制限の尽きるまで、火を噴き続ける。
悠月は――
気付く。
衝撃の度、離れそうになるBUGと車両の間。
つなぎとめている物。
見えない糸。
張る度に姿を現す、光の糸は、
悠月の方からしか見えなかったのだ。
悠月は全ての剣を股と、右手に挟み込み。
震える左手で、正確にそのカード、スクエアを手に取る。
霧散。
具現化。
投擲。
投げ打たれたナイフが、回転し。
正確にその糸を、切断した。
傾くBUG。
大砲の効果が尽き、それをあらぬ方向へ投げる将司。
2つの物が車両と距離を離し。
4脚のBUGはレールから完全に離れたところで、
レールの下の港へ、その身体を叩き付け。
沈黙。
悠月はそれを確認したあとで。
握る剣に力を入れ。
いつの間にか隣に貼りつく将司と、
剣がある所と同じ場所へ振り下ろされる巨大な爪には、
目もくれることなく。
訳の分からない声を、
完全に車両が動きを止めてしまってからも、
叫び続けていた。




