4-13 Stage:網状都市[中層⇔下層]
『佐伯悠月君、神町将司君、あなた方にこの声がしっかり届いている事を祈ります。祈るというのは私達には今も貴方達の声は全く届いていない状態にあるという事。なので、この通信は私達からの一方通行です。無理矢理にでも伝えなきゃいけない事は香流先生からの通達です……車両の上にあるBUGを殲滅してはダメよ。まだ確証を得られてはいないけれど、例のモノレールをハックした「メタグロシィ」に乗っている爆弾の起爆装置になっている可能性が高い、そうです』
「バクダン……!?」
BUGと車両の間の空間に入り込んで羽を休める悠月は、ビルの硝子面に映る八雲弥生の巨大な顔に対して驚愕する。
真っ直ぐな弥生の目は右から左へ、右から左へ。流れていく。
『懸念しているという段階に近いものではあるけれど、あなた達のすべき事はBUGの殲滅より先に、4脚のBUGと車両とで構築されている小さなネットワークを断ち切ること――そちらの空間での目に見えるカタチでいえば、BUGと車両との距離を十分に引き離すこと。2つのネットワークの結束はそこにある2つのオブジェクトだけで完結していると見て間違いはないわ。うまく距離を引き離し、ネットワークを断ち切る事ができれば、車両を取り巻く結界だけでも破壊する事が出来ます。そうすれば私が車両の自動運転プログラムにハックすることが可能になり、こちらの空間でも車両のスピードを落とし「メタグロシィ」と車両との距離を引き離す事ができるでしょう……』
『いいか悠月君、将司、状況は切迫している。だが焦ってはダメだ。課せられた任務を重く受け止めすぎることも許さん。君達の目的の原点は「殲滅」だ、という事を忘れるな。それ以外の責任はすべて俺達にある!存分にやれ』奮い立てるような香流の声。顔は見えない。
『もう一つ、レール外に車両自体を出す事も許されません。そちらの世界でのレールは、脱線など決してしないように、つまり、列車の自動進行を可能とする最低限の演算を担っている。それが解き放たれた時にそちらで起きる状況と同じ絵が現実でも起こり得る事は容易に想像できるでしょう。だから、……でも、そちらの状況も分からないし、こちらがどういう戦策を提示すればいいのかなんてわからないけれど、香流さんの言う通りよ。こちらの事は信じて、がんばって』
弥生の本当に祈るような言葉を最後にして、すべてのビルたちはまた息を失った。
悠月の肩を叩くもの。車両の上まで降りてきた将司だった。
「危ないところだったな」
巨大な大砲に変化したままの拳を、車両の天井に置き、彼は溜息をつく。
「要するに車両から上にあるデカいヤツをなんとかして引っぺがしてから、ぶっ倒せって事だろ?」悠月は確認するように言う。奥から昂る物を必死に抑えつけながら。
「無茶なオーダーをしてくれるな、ったくよぉ」
「どうする?この世界で車両の速度を落としても、4脚は速度を合わせてついてくるかな?」
「……今はそれをやるしかねえようだな」将司は車両の走る先に目を留めていた。




