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キルトリ KILL-TORI  作者: モノクロック
EP.04 to京 WARGAMES
58/63

4-12


もう二時間くらいはシートに押し付けられ続けているだろうか。

朱里は目を何度も瞑り、外の変化しそうにない山の稜線を何度も目でなぞっては、また瞑る。

覆い被さる車体の黒い脚が移動して、また窓の外の視界が塞がれたとき、黒に朱里の顔が映った。酷い顔だと思った。黒崎さんや悠月さんに、こんな大変な事があったよって……せっかくのいい話題にしなきゃ、と震える体を押さえつける。

その時に、別の顔が映った。


朱里は目を疑った。

別の顔。

誰の顔?

薄い眉。切り揃えられた前髪。細く、鋭い目。

……母さん?

しかし、病室で今も眠っている彼女よりは……大分若い。朱里はそう思った。


『どうして悠月のことを思うの』


窓に映った幻は口を開いた。いじめる子供のように、せせら笑う幻が。


『馬鹿みたいだって』

「思わない」どうしてだ?弟のことを思うのは「当然のことよ」

朱里は幻影の中に飲み込まれている。幻影の中で会話する。


『真実を伝えたはずよ』

突きつけられている。真実。

「そうだとしても」

『つながってはいないとしても?』

「あの子と一緒に育ってきた」

『違うものだとしても?』

「違うものではないわ、最早」

『真実をねじ曲げることはできない』

「どうせ、曖昧なものよ」貴女が、そう、あの人を閉じ込めてしまったように。「全てのことはね、人の頭の中にある限りは」


『ではこれも』

「ないモノだわ」

『ないモノをないモノだと決めた、それこそがないモノだと思えない理由はなあに?』目の前の母親の顔をした女性、もはや少女は、ひたすらに嘲るように笑う。


『全部、等しく、夢よ……』朱里は目を瞑った。

何も聞こえなくなった。

否、聞こえなくなっていたモノが聞こえだした。

電車の揺れる音。

金属の擦れる音。

目を開いた。

溜息。


「何がいけないことなの」


朱里は初めて、現実での独り言が自分の骨を伝わってくるのをきいた。


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