4-11 Stage:網状都市[中層⇔下層]/???th BUG`s『子どもたち』
ヒトガタの狂ったような挙動に、将司は対応できなかった。
重たい武器を捨て、バックステップ。
カードを切り、「盾」を発動させる──
ヒトガタは無効化された回し蹴りに怯むことなく、手を前に突き出す。
重力。
腹をぶち抜くような波動が、将司の体とビルの中の3つの壁を吹き飛ばし。
勢いはビルの中央の柱が爆散したところで、ようやく停止する。
左脚の全体、灰色。動きが鈍い。
ヒトガタは浮遊しながらビルの中へと進行し、将司を追い詰めようとしている。
最悪だ、と将司は思う。
「たまんねえよな」
悔しげで憎らしげな眼光が、乱れた髪の中から三角錐の集合体を睨み付けた。
悠月は空中で、G・スクエアを操作しながら、弧を描いて飛んでいた。
連続して産み出す重力。
その全てとの離反。
方向転換される身体。
80°。
下方の悠月が吹き飛ばした方のヒトガタに目を留め、
完全に沈黙している事を確認した後で、将司の元へ向かう。
「悠月!電車を──」将司の叫び声。途絶える。
放っておくわけにはいかない。
左に体を倒し、
元の重力を頼りに、落下。
落下しながら水平に戻したところで、地面との水平方向にスクエアを射出。
加速する身体。
重力。
建物が視界の右から左へ。右から左へ。
右から──
急停止。
将司のたたきわった窓が。
悠月はビルの内部に見えたヒトガタの後ろ姿目掛けて、剣を突き立て突進──刺した。
ヒトガタは2つの方向から攻撃を受けていた。
将司の巨大な拳が三角錐の顔面をくぼませ、悠月の剣先は胴体の目玉から少しズレた場所に刺さっていた。
ヒトガタは壁の無惨に剥がれ落ちた建物の中で動きを停止させ。
3秒。
甲高い声。
分解されるヒトガタ。
バラバラになった三角錐が、2人の体を吹き飛ばし。
目玉だけが残っていた。
「……なん」
口を開きかける将司に、つんざくような悲鳴が。
収束されるエネルギー。
吸い込まれそうになる体を抑えながら、
目を瞑る悠月。
悠月の蹴ったヒトガタの断片をも収束され。
目を開いた時には、2つのヒトガタの体が目の前に作り上げられていた。
『……奴にとどめをささなかった俺のミスだ』歯ぎしりする悠月は、そう言おうとした。
「悠月、俺の号令でビルから離脱しろ」既に立ち上がる将司は、それより早く口を開いていた。
「そして……『そっちサイド』の柱は頼むぜ」
悠月は言葉の意図をすぐに理解した。
無茶苦茶なオーダーを……悠月はそう考えながら、将司が後方に四角形を射出するのとほぼ同時に、悠月も青い四角形で後方の、線路を跨いだ先のビルをとらえる。
離脱――
着地。
2つのヒトガタが怪訝そうに首を振り回し。
互いに別々の敵を追おうとしたところで。
対戦車ロケット弾の爆音。
壁に張り付いていた悠月の体が、引き戻され。
高架下をくぐり抜け。
煙の中へ。
煙の中で、切られたカードの、大剣の一閃が。
ビルの柱を砕く。
ビルの反対側で、爆砕音。
残された壁が軋む声をあげたので、
離脱。再び。
柱を無くしたビルは、悠月の目の前で音を立てて崩れ落ちた。
ヒトガタは、それに飲み込まれていった。
『防衛機構』は駆逐した……
悠月はそれを目にしながら、後方の重力に引かれ──
着いた先の地面が、
激しく、動く事に戸惑った。
目を走らす。
壁面。
──見覚えのある顔。……姉の顔。不安気に俯く朱里の表情が。
静止画が切り替わるように、それは動いている。
走り続けている車両の窓に当たる部分に、それが映し出されていた。
──嘘だ!ハッタリだ!
悠月は心の中で叫びつつも、その場から動けずに。
『投影された姉』がこちらに気づいてはくれないだろうかと、何度も呼び掛けた。
何かが車両の上、否、その上を覆う四脚のBUGの上に落ちてきた音。
将司。
巨大な拳を、不気味に動く四脚の上に突き立て──カードを切る。
「『2つめのC・スキル』だ」
将司は眼下のBUGを睨み付け。
巨大な大砲に姿を変えた腕を。
BUGの赤い目玉に、ぴったりとつける。
「くたばれ……!」
何かおかしい……! 悠月が口を開こうとした瞬間だった。
廃墟のように黒く沈黙していたビルが不意に息を吹き返し、モニターになった。
幾つものモニターには、同じ弥生の顔が映し出されていた。




