4-1
はじめに光あり。そんなに単純な世界であったならば、こんなに困ることなどなかったのだ。
実際の世界はカラみ合っていて、静かに残酷で、そのクセなにもない。
今日も、決して裏切らない安息と閉塞が朝を満たすのだ。
そう信じて僕は目を開けた。
閉め忘れたカーテンの隙間から漏れていたのは、裏切らない朝陽の断片だった。
窓の外は何があるのかわからない程強い光に満たされていて、悠月は窓の外に何があったのか思い出せない程強い光に眩みそうになっていた。
確かなのはここが自分の部屋である、ということだけだった。
学習机は隅の方に追いやられ、目を通してもいない本の山を除けなければその椅子は引く事が出来なくなっていた。
湿った空気が滞っていた。悠月はその嫌な空気に追いやられ、逃げるようにベッドの淵の旧世代スマートフォンに手を延ばしかけた。
ガタンと黒色の板が落ちる音と共に、ドアが開く。
「悠月」
「姉ちゃん」
悠月は固められていない柔らかな髪をかき上げ、開いた平面の向こう側に立つ朱里を睨みつけた。
頭から下はまだ布団の中にあった。
「ノックしろよ」
「ごめんて」
わざとらしく肩を竦めてみせる朱里。緑色のカーディガンを着ている。寝る時に着る物ではない。
目を硝子の外に逃がす彼女の意外にも端正な横顔を、悠月は不思議そうに見た。
「傘はいらないみたい」
「そんな事調べればわかる」
「私が子供の頃はそんな事無かったんだよ……」
ドアの閉まる音がする。朱里は部屋の中にいた。
「子供の頃にあったスリルとか、そういうのさ、なんかさ……ちょっとうきうきする感じの緊張感がすごく遠のいてしまってるみたいでさ……それが寂しいし、逆に大きな事が地面の下で蠢いているのを、必死に息をひそめようとしているみたいで、怖い」
「……」
「なんてな」
沈黙。どうして姉弟なのにこんなに沈黙が多くなってしまうんだろう、と悠月は思う。
朱里の近づいてくる音。悠月はくんなと言わんばかりに布団の奥に縮こまる。
「子供かよ」
布団越しに脇腹を指の骨で押し込まれる。悠月は笑うのを押し堪え、やめろやめろと手だけ伸ばし払う。朱里の笑う声は聞こえなかった。
温かい掌が布団越しに横になった悠月の身体に触れていた。
足元だけがまだ少しだけ寒い。
悠月は再び微睡みにのみこまれていった。




