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キルトリ KILL-TORI  作者: モノクロック
Ep.03 閃光射す下で
37/63

3-6 Zone:Genb(Replica)

 ――もうこの辺でいいだろう、香流先生……と、悠月は言おうとした。言おうとしたのだ。決して今戦っているのが本当のBUGであって、通信が取れない状況にある、などという錯覚に陥ったわけでは、断じてない。だが、悠月は口を開けず、腕も足も身体全体も、全ての動きを止める事が出来ずにいた。汗。発汗など意味のあるわけがないのに。意味のあるわけがない?そう言われれば、今やっている事も……

 

 堆積した砂の塊から、サソリ共を蹴散らしながら姿を現す悠月。空中を回転しながら残りの赤い目玉、黄土の粉の中で余りにも目立つ球に傷をつけていった。本来訓練プログラムの想定し得なかった敵の数とそれらを処理する速度の速さよりラグが発生したため、悠月が太刀を振り回し終わって数秒経過してから、それらは破裂した。空中回転の速度を緩め、残りの敵を捕捉。捕捉し駆逐にかかるまでの速度は、三分前のおよそ二倍。それはしかし、三分前には敵の増殖速度に追いつけていなかった、という事を意味する。葵ならこうはなるまい――

 残党は、コンテナとコンテナの隙間に。大量の数がひしめき合って、動けなくなっているのだ。だが、全てのサソリは尻尾を上に構えていた。――構築された針の山が、アクションゲームの罠のように。しかし、これが訓練である事を知っていた悠月は、間髪を入れなかった。

 コンテナの影に一つの流星が落ち、二秒間静かになる。

 二秒。

 爆散。

 赤が隙間から噴き出した。コンテナに悠月は太刀を突き立て、その上によじ登る。赤い粒子も潰えた後で、悠月は目を瞑った。もう止めにしよう、という思いで。


 溜息。

 空気の震え、

 感じ、

 開眼。


 悠月は驚いた。コンテナ群を取り囲んでいた狭苦しい倉庫の壁が、そこには無かったからだ。否、残留はしていた。だが、それらは軽いタイルの様になり、次々と剥がれ。パイプがそれらの離脱を引き留めようとしているかの様に、しかしそれらは高く擦れる音を発しながらちぎれ。外側が見えた。

 白。より大きな白が悠月の身体を取り囲み、その表面には仄かな光が。悠月の周りをぐるぐると回転していた。全天モニターに張り出されているような光の乱舞は、まるでそういう映像みたいだ。下から走り出す光は上に向かってぐるりと回り、右から走り出す光は左に向かってぐるりと回る。白い空間に取ってそれらは淡い存在ではあったが、同じ時間に多くの回転が、残像の作り出すフラフープが幾重にも重なり、悠月と、そして重力を無視し外側に散らばり始めたコンテナ達を取り囲み走り続けていた。走る光同士がぶつかると、それは予想し得ない色になって弾けた。青、紫、橙……それらの小さな色の爆発が白い空間の透明感を破壊することはなかった。

 大きな球体の中に自分はいる、という事を悠月が理解した時、球体にはヒビが入った。亀裂に、走る事を止めずにいた光が、あたかも壁が存在するかの様にぶつかり、色が溜まる。目が痛くなるほどの色と色の塊が、稲妻の様な線を浮かび上がらせ。線から別の亀裂が走り、とうとうそれは破れ、白い球体のさらに外側が見えたと思った瞬間、それらはもうガラスみたいな破片だけの存在になって、最初だけ爆散するように、しかしやがて漂う様に外側へ広がり始めた。外側は反して、闇だった。しかしそこには白く眩い光の点があったので、悠月は反射的に顔を上げた。

 太陽か?

 悠月はそう思った。

 

 直感。

 否、それはヒトの影を明確に示していた。

 直立、だが固くはない。どこかやわらかい。

 カッターシャツ。

 白い髪。流れるよう。

 細い、だが、穏やかな目つき。

 右腕が徐々に持ち上げられ。

 静止。

 反転し、おいで、と言っている様な掌を上に向ける。


 直後。

 背中の後ろから、展開し現れる四角。

 多数の四角はきっと、見えない糸で結ばれている。

 悠月達が背中に負っている物の様に、それは透明な円を描き――

 違う。

 円は重なっていた。二つの円が、重なっていた。

 水平方向に分かれ、背中の後ろに展開、から、二つの肩の後ろに展開、になる。

 二つの円の重なった部分の四角は、透明で無く、白となっている。

 だが、空間全体が黒く、その『少年』が白く輝いているからかも分からないが、四角一つ一つの輪郭も白を浮かばせていた。

 照らされているのは四角だけでは無く、彼と近い距離にある浮遊コンテナも、そして、黒の中に沈み込む無数のパイプも。

 それらは倉庫の壁と共に散りぢりになってしまった物だろうか?そうではない。数がそれにしては大きすぎるし、第一それは黒い空間を埋め尽くす様にその場に『固定されている』。

それを背景にして。

白い少年は、輝いているのだ。


 少年の身体そのものがピクリと動いたと感じたため、悠月は注意を彼に戻す。

 それは一瞬の瞬きだった。その瞬きが一瞬の物でしか無いはずなのに、彼が閉じた目はまるで祈るようである、と悠月は感じた。

 音は無い。

 音は感じていない。

 言葉も無い。

 言葉を必要とする物は、ここには無い。

 

 ようやく口を開きかけた瞬間。

 四角と四角と四角を繋ぎとめていた、透明な糸がちぎれ。

 それぞれが意思を持っているかのように。

 飛び始めたのだ、それらは。


 ふらふらと浮遊し始めたそれらは、

 少年の周り、少し前方で隊列を作り。

 発光。

 放出。

 悠月の頬の隣で、熱い物が擦れた。

 光線。

 四角そのものから。

 回避する悠月。


 四角そのものから、

 光線は一つずつ。

 だが、四角は無数。

 無数の光線が。

 回避、回避。

 G・スクエアが持たない。

 危険信号。


 半分が焼け落ちたコンテナ。

 ただのオブジェクトかと思っていたのに。

 目の前のコンテナがまた焼け落ち。

 貫通した光線が、悠月を狙う。

 回避。

 もう限界だ。

 空中に留まれない。


 悠月の周りを取り囲む別の四角。

 四つ。

 断続的に、光線。

 一つ、二つ三つ。

 最後の光は回避しきれず、右腕に受ける。


 落下。

 初めて地面に着く。

 少年は既に接近していた。

 銀色の刃。発光している。

 否、そうではない。

 刃自体が光なのだ。

 

 接触。

 光と太刀が、交差。

 直後、熱さが頬に弾け。

 一部は目に入る。

 痛くは無い。

 しかし――


 緩んだ力の隙をつかれ。

 光が太刀の面を走る。

 削るように。

 鳥肌。

 そのまま。左の人差し指から、肩に向かって通り抜ける光。

 戦慄。

 灰色は現れない、が。

 もう半分位のダメージが自分の身体を埋めている事だろう、悠月は思う。

 その時。

 左の手から、力は抜け。

 剣を握れなくなる。


――これは聞いてない。

 ダメージの副作用だ。


 一瞥し、姿形の変わらない左手を一瞥した瞬間。

 懐に潜り込む、少年。

 小柄さを生かし。

 回転。

 大腿部を光の刃が通過。


 バランスを崩して倒れてから、もう立てなくなる。

 尖った目つきが流れ。

 回転の角度は変わり。

 縦。

 最後の一閃が、右肩を捉えた時。

 

 悠月も睨み返し。

 太刀を投げ出し、

 カードを取る。

 掴んだのは、七支刀。

 振り上げ。

 突く。


 枝の様に分かれた刃の、

 一つは、少年の首元を。

 一つは、少年の手首を捉えていて。

 剣身は、その間にあった。


 しかし、さっきの光線をこの状況で撃たれれば――

 悠月は考えながら、少年の銀色の瞳を、睨みつけていた。


 しかし、少年は腕の力を緩め、其の場に膝から崩れかけた。

 

「えっ」


 悠月は目を丸くし、倒れそうになる少年の肩を掴んだ。

 片手で支えきれるほどの、軽やかな身体。

 光の刃は失せ、少年は柄だけを握っていた。

 無駄な装飾の無い、ただの棒の様なシンプルなツカを。


「ちょっと……やり過ぎた」


 少年は、人柄の変わったように微笑むと、また目を瞑り、悠月の腕を自分の肩から引き離した。

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