3-2 ある高等学校における購買戦争(実戦)
「おばちゃん!チョココロネ二つね!」
「おいどんは焼きそばパン」
「カロリーメイトチョコレート味」
死霊の襲来の如く、伸びる大量の腕。それらを華麗に捌く学食のおばちゃんの腕にはやはり感服せざるを得まい。余りものには福があるなどというが、誰もがカツサンドを欲し、大きなエクレアを欲し、メロンパンを欲す。そしてこの学校で不定期だが、月に一度は出るという数量限定メニュー――即ち、串揚げバームクーヘン。下町の揚げバームとも異なる特色を持ったこのメニューが今日出るという噂を嗅ぎ付けたるは勇士達。通常日の1.5倍の人だかりが購買の前に出来ていた。そしてついに――
「はいはい、串揚げバームクーヘン、残りあと一つだよー!」
おばちゃんのハリのある声に、緊張は走る。
残り一つのお宝が、今正に尽きようとした瞬間であった。
「おばちゃん、串揚げバームクーヘンを、おひとつ」
喧騒が、一気に止む。
誰よりも前に、その男は立った。余程急いでいただろうその男は肩で息をしていたが、おばちゃんのアンタかい、と言わんばかりの笑みに男は不敵に微笑み返すほどの余裕を見せた。
「あ、あれは――」人だかりの中で、一人の生徒が声をあげた。
「狙ったパンは外さないという伝説の男!購買会のプリンス!神町将司か!」
「何!?まさか、二組の!?」
「今日の二組の四時限目は富嶋先生の授業だったので、奴は現れないと思っていたのに!」
「富嶋先生の授業は、授業時間をオーバーしてまでも最後の世間話にオチをつける事で有名なはず――あっ、ま、まさか!」
「その通り――」
サービス精神旺盛な神町将司は、声をあげるモブ達に振り返り言ってやった。
「今日は、話の区切りが良かったのさ」
そうして不敵な笑みと共に、財布から130円を取り出した。
さて……と言わんばかりの勢いで、将司が振り返り勝利の右手を串揚げバームの上に伸ばそうとしたその時だった。
――!?
将司は眉間にたちまち皺を寄せたかと思うと、声を上げてその場に膝から倒れ込んだ。最後の串揚げバームは将司が余計なキメ台詞を吐いている間に忽然と消え、その場には変わりに100円玉と3枚の10円玉がちょめーんという擬態語と共に置かれていたからである。
「くっ……やられた……ッ!」
地面に腕を叩き付ける、様な素振りを見せ、将司は敗北の余韻に浸っていた。
「本当ノリノリだなあ、アイツは」
「正直食えればなんでもいいんだよな、アイツ」
「つーか今の見たか?結局誰が揚げバームを買い去って行ったんだ?」
「分からん……分からんがこの状況はあの噂の――」
モブ達の交錯する声を背後に、将司は口元に手を当てて呟いた。
「七不思議……!」




