2-10
本校舎の第三倉庫――悠月も昨日通った地下への入り口がある『扉の二つある部屋』の隣に、もう使われていない様な特別教室があった。
「ささ、入って入ってー」
将司に言われた通りに扉を開けると、既に一人いた。『机に』腰かけ文庫本を広げる女子。悠月は彼女に見覚えがあった。
「どぞどぞ」一瞬戸惑いに振り向いた悠月を、将司は促す。
「笹川、ご本人様の登場だぜい――つか、お前と同じクラスの佐伯」
「知ってる」文庫本が音を立てて閉じられ、浮いていた彼女の足は床面へと落ちる。
「あれ?お前らもしかして話した事あんの?」
「話したっつーか……」
「三階の渡り廊下から飛び降りそうになってたのを私が引き止めてやった」
「は?」悠月は彼女の発言に思わず目を細める。
「なんだと!?悠月お前……そうか、転校初日で色んな事があったもんなあ」
「おいちょっと……」
「でもなあ、せっかく俺というマブダチがいるってえのに相談しないとは水臭いカビ臭いってもんじゃないのかい、ええ?」
「いやお前いつの時代から生きて……っつーかお前もさあ」
「ふっふっ」文庫本で口元を隠しながらわざとらしく笑う少女。
「将司君なんなのこの人」
「まーお前らの事だから自己紹介しあってないとは思ってたけど」将司はぱんぱんと手を叩き、皆ちゅうもーく、の合図を取る。
「名前笹川葵お前と同じ学年クラス」
「うおっびっくりしたっ」唐突な自己紹介を始める葵に、大袈裟にのけ反る将司。
「前振りくらいさせろよ葵さんよう」
「めんどくせー事すんじゃねえよ紙で指切るぞ、シュッて」
「地味に嫌っ」
「どうせBUG来るんでしょ?」
「え?」
「後で……」
言い捨てると葵は、本をひらひらさせる挙動と一歩一歩踏み出す挙動を一致させながら、教室の外へと出ていった。
「たっぷり自己紹介してやる、てさ」将司はきょとんとした悠月に笑顔を向けてやる。
「何、トイレでも読む気?」
「本を取り換えてくるんだろ」
「なんで?読む分持ってくりゃいいんじゃ?」
「まあ、気持ちは分からんでも無くない?……あいつ、あれでも結構緊張してたみたいだしさ、昨日の誰かさんみたいに」
「……」
眉間を指で押さえてそっぽを向く悠月。
「そういや――」
将司達はどうしてこんな事をしているのか?それを訊こうとした。不意に振動を始めたポケットの中によって、その思考は遮断された。全く音はしなかったが、将司のポケットの中も同じ事が起きている事に悠月は気付く。
「おーおー、待つ時間が無くて助かるってこった」
「……」
「それ、肌身離さずつけてろよ? そのまま地下への鍵になるし、音は出ないから……」
支給された『二枚目』の電子ペーパーを手に取り、悠月は白い壁に目を向けた。
隣の部屋の埃っぽさが壁を通して伝わってきた。




