2-8 Stage:街[中層]
彼女の思考と動作は、既に融合していた。
とは言い難いが、彼女は既にその空間でのアバターがそういう物である事を知り、理想的な動作に近づこうとしていた。トレーニングの場所はいつだって都会のビル群。一目見てポリゴンだと解るモンスターの連撃をかいくぐりながら、笹川葵は進撃を継続していた。澄んだ気分の時は、もし現実世界で戦うような事態があればどれだけ被害を出さずに戦えるか、と確かめる様な気持ちで。苛立った気分の時は、不必要に建物の窓やらパイプやら看板やらを破壊しつつ。
今日は後者だった。
光るカード、W・スクエアの一枚一枚の共通点を束ねる一文字、即ちデッキの名前が『闇』である事が指し示す通り、彼女はモンスターの吐き出す赤い光の束を避けるに避けつつ接近し、今はビルの影から『止め』のチャンスを狙っていた。辺りにモンスターの唸り声と足音だけでなく、ロックとテクノの入り混じる旋律が響き渡っているのは、葵の趣味である。心拍音の様に右の人差し指でリズムを刻みながら、一気に曲が盛り上がるタイミングでカードを切り、滑らかに湾曲した刃、『スィクル・ハンズ』を右腕に同化させるかのように装備させる。
途端にそのビルを眩い光が切断する。
葵は当然のごとくそれを回避。
ビームは増殖し、二方向からの閃光が彼女を襲う。
彼女はもう一枚カードを切る。
空中に浮かぶカード。
葵はそれに突進。
弾けるカードを合図に彼女は、青い光を残像とした高速移動を開始する。
ドライブする男声。
揺れ動く巨大な赤。
飛び抜ける矮小な青。
ポリゴンの塊の目の前まで迫り。
消失。
否、通過。
二つの龍の頭が、ヒビ入りの看板の上に降り立った彼女の背後にて沈黙。
彼女は腕をクロスさせ、いつの間にか両腕に装備された『スィクル・ハンズ』をカードに戻す。
それを合図として、ポリゴンは一気に塵となって消えていく。
『仮想空間』にしては砂っぽいんだよな、と葵はふと思う。
その時、彼女の足元の看板の文字が大きく揺らめき始めた。葵の立つ看板だけでは無い。周辺の巨大画面や何の変哲も無さそうなビルの壁までもがノイズを映し始め、やがて様々なフォントで『WARNING』の文字を浮かび上がらせた。
「何?ここから直接行った方がいい?」葵は友達に尋ねる様な口調で一つのビルのガラス窓に表示されたオペレーターに話しかける。
「いや、まだ警戒態勢に過ぎません、貴女は一度ログアウトして昼休みに戻り、戦闘態勢に持ち込むまで学校で待機していて下さい」
「りょーかい」舌を打ちながらも葵は承諾した。




