2-4 可視光の組成
「イメージが違う……?」
朱里は一昨日来たばかりの部屋の中で、受話器を手に声を上げていた。
テレビの音量を少し下げ、耳を傾けながら、彼女はテーブルの上のノートパソコンを操作する。
まだキーボードの打鍵感がある時代の古いノートパソコン。だが始めたばかりの彼女の仕事に差障りは無い。
『そうよ、貴女打ち合わせの時は高級感で勝負しようって言ってたじゃない?』電話の向こう側から、割合良い低い声が聞こえてくる。女言葉である事を除けば美形の男性であるだろうという事を(事実ではあるが)予感させる声。
「ええ、ですから黒の背景をメインにして、大人っぽさを強く――」落ち着かない様に部屋を歩き回る朱里。
『それは良いのだけれど……そうね、貴女考えていたらどんどんイメージが膨らんで行ってしまうタイプでしょう?』
「え……」木の椅子にゆっくりと腰かけ、気を落ち着かせようとする。でなければ、言葉を取りこぼしてしまう。
視線は固定されず。クリーム色の壁が一面同色には見えず、赤やら緑やら色々な色が散らばっている様に見える。目を瞑った時に見えるぐちゃぐちゃと重なっているのだ、と朱里は思う。
『うまく片付けられていないわね、こう……貴女の中にあるアイディアの奔流って奴が?印象としては間違っていないのだろうけど、そのまとめ方のせいで、貴女の伝えたいイメージ=この商品の打ち出すべきイメージが台無しになっている……というかね』
「あの……もう少し具体的な話を……」
『そこのアイコンを赤くしなさい……て言ったら貴女はそうするの?』相手はぴしゃりと言い放つ。
『貴女はまだ発展途上……でも、仕事は早いからこうして鍛えるチャンスは得られるわね』
「はあ……」
『良い?簡単な言葉だけで物事を捉えようとしないのよ……貴女みたいな素直・良い子であれば、なおさらね』彼の微笑みが、思わず朱里の脳内で再生される。
「……わかりました、もう一度見直してみます」
電話を切ると共に、テレビからの音が耳に飛び込んできた。
アナウンサーの途切れない言葉が、正に奔流の様に。
『……のファイル交換ソフトによって著作権のある情報を漏洩させたとして、「京」在住の会社員(28)が逮捕されたという事件に関しまして、確かにこの会社員はこのファイル交換ソフトの開発に携わっていた様ですが、会社員のパソコン自体何者かに乗っ取られた可能性がある物である事がわかり……』




